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250209 戦争芸術
今日のプレイ・リストから 112
メアリー・クヨムジャン
「ベイルートの爆弾:Ⅱ戦争」
演奏はクロノス・カルテット
録音されたインタヴューや爆音のトラックを使用
1915年からオスマン帝国で突然起こったアルメニア人虐殺の犠牲者は100万人とも150万人ともいわれます。難を逃れたアルメニア人は80万人以上がディアスポラとなり、5万人がレバノンへ逃れました。そのレバノンで1975年、溜まりに溜まった矛盾に火が付き内戦が勃発します。周辺諸国が介入して15年間続き、死者は12万人~15万人。難民は150万人ともいわれます。
メアリー・クヨムジャンはアルメニア人虐殺とレバノン内戦に直接関わりのある家系を持つアメリカ人です。本作はレバノン内戦に基づいて作曲した弦楽四重奏です。経験者たちのインタヴューやロケット弾の砲撃音が録音されたトラックを含む悲壮な曲調は強く胸を打ちます。ただ、戦争芸術とは何か?と考えざるを得ません。
戦争芸術は、もちろん、銃後の芸術です。安全なところに身を置いていないと、芸術を制作できるはずもありません。そのため、戦争を経験した人以外に、経験していない人も表現します。そうすると、銃後の世界観が影響することは拒むことができないように思います。
本作のバッキング・トラックには、最後の方に教会と思われるの鐘の音が入っています。作者の意図はわかります。戦争の虚しさがいやがうえにも強調されます。ただ、教会で鐘を鳴らすのはキリスト教の文化です。レバノン内戦では、そして今も、イスラム教徒の人々がたくさん亡くなっています。彼らに鐘の音は響くのでしょうか。