種をまくぴょん~愚かなぬいぐるみは世界に何を遺すか~
著:月が峰 ■■■
ぬいぐるみとは、非生産的な存在である。
ぬいぐるみはただ生み出され、意味もなくそこにいる。主体性などなく、何を成すこともない。ぬいぐるみは、ただ「モノ」として消費されるだけのあわれな客体でしかない――。
ごくあたりまえに、みんながそう思ってる。思ってることさえ意識せず、あまりにも無意識にそう信じてる。
でも、その「信仰」ってほんとうに正しいの? ぬいぐるみはほんとうに何も生み出せないの? あわれ客体物はこの世界に何も遺すことはできないの?
うん。まあきっとそうなんでしょうね。
誰もがそう信じてるわけで。世界はそう観測してるわけで。だから「シュレディンガーのぬい」はそもそも箱に入る前から生きちゃいないわけで。
それが「たったひとつの真実」。ぬいぐるみは無数の誰かが作ったそのクソつまんない世界観から絶対に抜け出すことはできない。
あたしだってそう思う。
さみしいし嫌だけど、もういい大人だから。
そんな世界の暴力をあたしも受け入れるよ。
大人らしくおとなしく、ぬいぐるみたちのこころを殺すね。
……さようなら。せかい。
……なんて、なんて、
なんて言うと思った?
んなわけあるかバカちんどもめ。
いい? その汚い耳の穴かっぽじってよく聞きなさい。
ぬいぐるみはあんたたちが思ってるほど「かわいそう」な存在じゃないの。
ぬいぐるみは客体なんかじゃないし非生産的な存在でもない。
ぬいぐるみはきっと何かを生み出し、遺すことができる。
他ならぬ自らの生を、はっきりと生きることができる。
少なくとも、あたしはそう信じてる。
だって、あたしのまるでかわいくないぬいぐるみが、
あのイラっとくる顔の「月が峰†ぴょん」が、きっとそうだから。
初め、あたしはぴょんを応援するつもりも支援するつもりもさらさらなかった。
勝手にやってればいい。どうせ愚かなぬいぐるみがいつもどおり馬鹿を見るだけ。
冷めたあたしはそう思ってた。
でも違った。
ぴょんは確かに馬鹿で愚かでどうしようもないけど、少しずつこの世界に、その生きた爪あとを残そうとしてる。
それはまだ小さくて、できも悪くて、あっという間に忘れ去られてしまうような儚いものでしかない。
それでもぴょんは、この世界に確かに何かを遺そうとしてる。他者との関わりを通して、ゆっくりとではあるけど世界に種をまき始めてる。
それを見て、あたしは不覚にもちょっとワクワクしてしまった。面倒なのに、心がちょっぴりときめいてしまった。疲れたのに、もう少しぴょんを見ていたくなった。
…………。
ほんとうに、じんせいとはままならないものだ。
……ぴょんにはきちんと責任を取ってもらわないとならない。
さしあたり、あたしのぬいぐるみとして恥ずかしくない程度の成果はあげてもらわないと困る。
なのに、馬鹿で愚かなぴょんはいつも空回りばかり。
特訓しては怪我をして、鍛錬しては風邪を引き、リハビリでぶり返す、そんなピエロのような毎日。
何事も加減がわかっちゃいないからこうなるんである。ほんとうにアホだ。
あまりにも見てられないから、あたしはぴょんの活動に口を出すことにした。ついでに、自分を売り込む度胸も脳もないぴょんのかわりに、広報とかいろいろ手伝ってあげようと思ってる。まあ、あたしだってべつに大したことができるわけでもないんだけど。
とりま、あたしは今後もぴょんを愛さないし可愛がってなんかもやんないけど、あたしなりに支援と応援はしていくつもりだ。
★最近のぴょんの活動まとめ
(※先述のとおり、最近ぴょんはからだ壊してたんでYoutube動画はちょっと古いからね)
@Youtube
【ぴょん講座】ぬいぐるみになるために……【はろーぬいわーるど】
https://youtu.be/Koy50zHbjOs
@ストリエ
とあるポンコツぬいぐるみのありふれた(?)日常
https://storie.jp/creator/story/16058
@ピクシブチャットストーリー
【もう嫌だ】開かない口に食べ物を押し付けられる【ぬいぐるみあるある】
https://chatstory.pixiv.net/stories/JqKSXhM
PS.せっかくのハロウィンだし、あたしはいつもどおり部屋でゆっくりお菓子でも食べてようと思ってたのに……まさかこんな記事を書くことになるなんて……ほんとうに、ぴょんは世話の焼けるぬいぐるみだ。