
【声劇台本】インタラクションぶらんく Hand.01【女2:不問3 総数5人台本】
「 地方都市の郊外、深い山間にある、表向きグループホームとして認可されている障害者支援施設。「ハートセクト」
そこで育った2人の少女たちが、施設から出る日が来た。
───2人は一体、何処に向かうのか。
【登場人物】
・仙崎 薫 不問:年齢不詳
障害児支援福祉施設グループホーム「ハートセクト」の施設長代理。いつも温和な笑顔を浮かべていて、口調は穏やか。人当たりも良い。若いようにも見えるし、老けているようにも見える。どこか、つかみどころのない人物。
・白木 心 女性:年齢12~16歳
名前は偽名。施設内では「No.12」と呼ばれていた。物心付く前から「ハートセクト」で育てられた。一般学校には通ったことがなく、広大な山々に囲まれた施設敷地内からほとんど出たこともない。身体が小さく、小学生でも通用する外見。とある事情により、基本的にはゆっくりした話し方をするが、どちらかというとツッコミ体質である。あとすぐ手が出る。
・玄野 怜 女性:年齢12~18歳
名前は偽名。施設内では「No.13」と呼ばれていた。幼少期「ハートセクト」に預けられ入所。おぼろげに両親との記憶があるが、ほとんど覚えておらず、あまり気にしていない。手足は細く華奢で痩せているが、背が高く、しかも大食漢。一日の総摂取カロリーは一般成人女性標準値の4倍。なのでいつもお腹が空いている。お腹が空くのが嫌なので省エネに行動したいと思っている。食べて寝るのが大好き。寝る子は育つ。
・柳澤 緑 不問:年齢不詳
謎の人物。軽武装した分隊を率いる。何らかの訓練を受けていて、軍人を思わせる言動、所作をする。
・ジャック「No.11」 不問:年齢14~23
柳澤に同行する人物。国籍不明。「スート・スペード」に所属する超能力者。物理法則を越えた超高速で動くことが出来、かつ、空気抵抗などの影響を軽減できる。感情の昂りの振れ幅で、その能力は加速度的に強力になる。ナイフによる正確な刺突と、驚異的な銃による命中度を誇る。
仙崎: 不問
心: 女
怜: 女
柳澤: 不問
ジャック: 不問
※モブ:
兼役として「武装した軍人たちの声」があります。男性演者さんで適当に、制圧される際のリアクション芝居を入れて下さい
◯で始まるところは「ト書き」です。
(N)はナレーション。(M)はモノローグとして読んで下さい。
表記では台本の都合上、それぞれに役名が初めからありますが、序盤に与えられる偽名です。
以下本編
◯6畳ほどの応接室。テーブルを挟んで、椅子に座る人物と、その前に立たずむ少女が2人。
仙崎:「おふたりは…………この指定障害者支援施設「ハートセクト」を本日付をもって卒園。退所、ということになりました」
心:「……ん」
怜:「は?」
仙崎:「夕食中だったというのに、突然の呼び出しで大変、申し訳ないんですが。───今からすぐ。
荷物をまとめて、ここから退所していただきます。
こういう場合、しかるべき自立支援を続ける必要が、本来ならきっとあるんでしょうが、なんとも込み入った事情でして……。
今後、この施設「ハートセクト」や職員からのサポートはありません。
もちろん、私個人としても、何もできることはない。
ですから。どうぞ、お元気で。では、さようなら」
◯間
怜:「───いやいや、いきなりそんなこと言われても」
心:「…………分かった」
怜:「───って、え?何?ひとりで分かっちゃうの!?」
心:「だって。───もう決まったこと、なんでしょう代理」
仙崎:「私の口から必要ですか?説明」
怜:「そりゃまあ……?」
◯仙崎、机の引き出しから書類と封筒を取り出しながら続ける
仙崎:「あまり時間もないので、簡潔にお伝えすると。
───この施設だけでなく、関連施設も含めて運営母体が遠からず組織解体・再編されることになりまして。
まあ、新規に入所される方もここ数年はなく、実質この施設……常駐職員の他、入所しているのは現状、お二人しかいませんでしたし…………なので。
卒園、と」
怜:「解体……」
仙崎:「ここを出て、おふたりがそれぞれ生きていく為に最低限必要なものは、ここに私が用意しておきました。
───ま、これは卒園お祝いの手向けと言いますか……。
同封した身分証、パスポートは一応どこでもちゃんと使えるものですが、記録に残すと面倒なので、もしこの先、海外に出るつもりでしたら……念の為、新しいものをご自身でご用意下さい」
◯仙崎、取り出した書類と封書をふたりに渡す。少女たち、それぞれ書面に目をやる。
心:「白木 心……」
怜:「玄野 怜…………
え~、白と黒?……
なんか安直……」
仙崎:「たまたまです。気に入らなければ、ご自身で好きに変えて下さって結構」
心:「私は心……」
怜:「まぁ、私も別に……
怜、ね~……」
◯仙崎、立ち上がると、用は済んだとばかりにふたりに背を向け、退室を促す
仙崎:「では、心さんに、怜さん。
実に、名残惜しくはありますが。どうか、お元気で。
これからは自由に、そして、できれば───「普通に」生きて下さいね」
心:「随分と、あっさり。それなりに長い付き合いなのに」
仙崎:「……言ったでしょう?時間があまりない、と」
怜:「ねえ、そういえば。代理の名前は?なんてえの?」
仙崎:「……怜さんはその、人の話を無視するクセ、どうにかした方が良いですよ。……私は、施設長代理。だからずっと「代理」と呼んで来たでしょう?───今更、私の名前なんて聞いてどうするんです」
怜:「どうもしないけど。
私たちに初めて名前が付いて。初めて名前で呼ばれたから?
こっちも、なんとなく。
この施設が無くなっちゃうなら、どう呼べば良いのか分からないし」
心:「……仙崎 薫」
仙崎:「………そうです。ま、それも偽名ですが」
心:「名前の、本当と嘘に、意味ってある?
生まれた時から自然と名前があるわけじゃないし、みんな誰かが勝手に付けたものなのに」
仙崎:「おふたりがこれまで便宜上呼ばれていた……「12」「13」って番号は……名前ではありませんのでね」
心:「……私たちにも───「本当の」名前があった?」
仙崎:「私は、それを知る立場にはないので。分かってるでしょう?」
怜:「もー、何だよぅ二人して分かったような会話ばっかりしてー。最初っから全部分かりやすく言えば良いのにぃ。
でも………───そっかぁ。
代理の名前、仙崎 薫って言うんだ……」
◯仙崎の携帯のバイブが短く鳴る(SE)
心:「薫の通信機?鳴ってるよ。出ないの?」
仙崎:「お二人が、お部屋に戻ってゆっくり支度する時間は、もうなさそうです
◯仙崎。以下、やや早口で
仙崎:「───非常階段を使って、地下駐車場の連絡通路に抜け、私の車を使って下さい。搬入用の門が開けてあります。山間の道路はおそらく……すでにどこかで封鎖されているか、県警の検問でも敷いてあることでしょう。なので車は途中で乗り捨てて構いません。
一度森に抜けて、山を登り、直線距離で15km、おふたりならば数時間で国道に出れるでしょう。───あとは、ご自由に」
◯外から、かすかに遠く、複数台の車が近づく音(SE)
心:「……急かせる理由が、今こっちに向かってる感じ?」
怜:「夕ご飯、まだ途中だったのに……お弁当にする時間もない?」
仙崎:「はい。お急ぎ下さい」
◯少女たちは顔を見合わせると、きびすを返して部屋を後にする
怜:「自由って言われても
なんかもうよく分かんないけどー!
───私たちに名前をくれてありがとう!
今まで!お世話に!なりました!」
心:「……薫も、できれば、元気でね」
◯応接室のドアから少女たちは去る
◯ふたりを見送った仙崎、眉間を押しつつ深くため息
◯間
仙崎:(M)「我々、凡人が、あのふたりの心配なんて……ふっ。
さして、意味のないことでしょうが」
◯施設に続く山道を進む、数台の四輪駆動車。
◯その車内で、衛生通信機を持つ人影
◯車のエンジン音と通信機の音(SE)
柳澤:「───隊員各位、「スート・ジョーカー」に移動中。
目標は二人。「12」「13」、あるいは「クイーン」「キング」と呼称される推定12~18歳の少女。
施設の常勤職員は6名、警備員は12名。想定される装備レベルは1。
制圧が最優先だが、警備、目標からの抵抗がある場合は各自、無力化して良し。生死は問わない。判断は現場に任せるとのこと」
柳澤:「なお、目標ふたりの能力は不明、
繰り返す「能力は、不明」───以上」
柳澤:(M)「………全く。上も無茶を言う」
◯後部座席に座る人物、ガムを噛みながら笑う
ジャック:「柳澤さんも、ホント。宮仕えは辛いよね。
こんなド田舎まで、車でさー。ヘリで急襲でもすりゃいいのに」
柳澤:「……隊をここまでヘリで飛ばすのに、いくらかかるか知ってるか?それに山間とはいえ、空からは目立つ。米軍じゃあるまいし、急に出動可能なステルス装備のヘリなんて、この国にはないんだよ」
ジャック:「───ちょっと言ってみただけじゃん。軍人さんは冗談が通じないから嫌なんだよな」
柳澤:「(苦笑しながら)残念ながら私は軍人じゃない」
ジャック:「特別職、国家公務員(笑)───ウケる」
柳澤:「………君だって、立場的には私とそう変わらないだろう。
命令があればそれを遂行する。
ジャック、キミらの「スート・スペード」にも伝わっていないのか?
目標の詳細は?どの程度の脅威なんだ」
ジャック:「んー、今回はそれを探るのも目的ってことなんじゃない?
基本的に各スートは独立してるし、表向きしっかり偽装されてるから他所のことまではあまり知らないかな。ウチはどちらかというと現場向きの実働部隊だし、情報処理や後方支援が中心のスートじゃないから。
稀に、共同作戦なんかで一緒になった奴らのことはうっすら知ってるけど、みんな手の内は明かさないからね」
柳澤:「……そうだろうよ。
キミが同行することも、我々は直前まで知らされていなかった。
「スート・スペード」が横ヤリを入れてきた理由が、我々の帯びた命令と、かち合うことはないんだろうな?」
ジャック:「柳澤さんたちの作戦の邪魔はしませんよ。
それにしても「スート・ジョーカー」……(笑)
本当にあったんだねー。
……悪い冗談みたい。
ホント、こういうのをいちいち考えて名付ける人ってさ、自分でセンスある!とかって、自画自賛しちゃうのかな。お偉方がどんな顔で会議してるのか想像したら笑っちゃわない?
後から数が合わなくなったりしたら、どうするんだろ」
柳澤:「組織が何かと内輪だけに通じる隠語を使いたがるのは昔も今も変わらんのだろう。
以前はきっと別の呼称で、そこに大した意味はない」
ジャック:「戦後、戦勝国が入ってきた時に、GHQに純国産の組織は軒並み解体されたんでしょー?」
柳澤:「多くは記録にも残っていないから、もはや「おとぎ話」の世界だがね……そうやって、何でも時代と共に変わっていくんだ。
今回の一連の作戦、組織の解体と再編だってそうだろうよ。
末端にいる我々には、大きな流れの全体なんて、いつだって見えやしないのさ」
ジャック:「Don’t think, just do it.ってか?」
柳澤:「確かに。「考えるな、行動しろ」と最初に叩き込まれる」
ジャック:(M)「やっぱ軍人さんは嫌いだねぇ…………」
◯地下駐車場に抜ける連絡通路を小走りに移動する心と怜
◯やや走ってる感じで会話して下さい
怜:「あ~……お腹空いて来ちゃった!」
心:「夕飯の後で良かったね」
怜:「いや全然良くない!途中で代理に呼び出されたから~」
心:「薫でしょ」
怜:「あ、そうだった。もう代理じゃないんだ……て、ことは、失業しちゃったのかな?」
心:「…………怜」
怜:「ん?………あ!私か!
私もうNo.13じゃない!」
心:「………ん」
怜:「え?なに?」
心:「んっ」
怜:「ん?だから何?
───心?」
心:「ふひ」
怜:「え?何で笑ってんの」
心:「ふふ、名前だよ、私たち初めての」
怜:「んあ?
うん???
………───ああ!「12」の!名前ね!
あ~~!そういうこと!?名前を呼んでみて欲しかったのね!」
心:「っ!」
◯心、怜の肩にパンチ
怜:「って!何でぶつの!?」
心:「何でも聞かずに、自分で考えなさいー。
これからはもう、誰かが決めてくれたり、指図してくれないんだから」
怜:「え~……だって、考えたらますますお腹空くじゃんかぁ……」
心:「燃費悪い……」
怜:「薫も心もさぁ、ちゃんと全部分かりやすく言葉にしてくんないと私には分かんないよー」
心:「怜は「分からない」んじゃなくて、ただ「考えてない」だけ」
怜:「考えるとお腹が空くんだよ!?お腹が空くとつらいんだよ!?
夕飯のカレー、美味しかったなぁ……あと5杯はおかわりしたかったよ」
心:「アレ、薫が作ったみたいだよ。いつも食堂にいる職員は、お昼過ぎにはもういなかったし」
怜:「いや、7杯……?いっそ炊飯器のご飯に鍋ごと全部あのカレーを……
いや!逆に!?あのカレー鍋に炊飯器のご飯を全部……?」
心:(M)「…………治らないな、こいつのこのクセは…………」
◯ふたり、地下駐車場に出る
◯扉を開けて閉める音(SE)
心:「車は……」
怜:「薫がくれた封筒に、鍵入ってた。コレかな」
◯怜がキーのボタンを押すと、停めてあった車が反応する
◯ふたり、運転席に怜、助手席に心が乗り込む
心:「……何故、怜にだけキーが?私も、運転したい」
怜:「は?心のその足じゃ届かないでしょ。アクセルもブレーキも」
心:「届くよ!」
怜:「いや、足は届いてもね、フロントガラスから前が見えない」
心:「……見えなくても運転はできる」
怜:「そりゃそうなんだろうけど!
もし対向車とか、すれ違って見たら無人運転に見えるよ!?
あと子どもが運転してたら人目に付くよ!?」
心:「……そういえば、もらった中に運転免許証はなかったわ」
怜:「それは、私もそう。
あ~、ここがアメリカとかオーストラリア?なら良かったね?」
心:「私たち、そう歳は変わらない筈なんだけど……?」
怜:「私は背が高い。足も、手も、指も長い。
ピアノのドから1オクターブ上のファまでいける」
心:「ガリガリの、ひょろ長」
怜:「悪口だ!悪口を言われました!良くない!代理に言いつける!」
心:「だからもう代理じゃなくて、薫だってば」
怜:「…………そんな!もう心を叱ってくれる人がいない!
それってー、お腹が空くぐらい辛い…………!」
◯怜、車のエンジンをかけ、走り出す
◯地下駐車場から搬入路を抜け、山道へ降りる
心:「運転するともっとお腹が空くんじゃない?いつでも代わるけど」
怜:「まだ言ってる~。車は~考えなくても運転できるから平気~」
心:「私有地を走らせるのとは違うでしょうに」
怜:「え~?機械には分からないってことがないから」
心:「だったら、人だって機械みたいなもんでしょ」
怜:「人と機械は全然違うよ。人は、こう、
ぐにゃぐにゃして~
ふわふわして~
ぐるぐるして~……
見ただけじゃ分からないし、考えたって分からない……」
心:「………見え過ぎるってのもねぇ………ん?」
◯心、車のダッシュボードを開ける
怜:「それ!!!チョコバーだっっっ!!!
ピーナッツぎっしりのやつ!?」
心:「薫が、ダッシュボードに入れててくれたみたい……やけにいっぱい入ってんなー……」
怜:「ね!?だから人は!分からないんだよ!やったー!!!」
心:「薫は、怜のことをよく分かってるから、こういうのも用意してくれていたんじゃないかな。
つまり、関係性に基づく行動原理をちゃんと考えれば、自ずと分かることなんだよ」
怜:「じゃあ薫が私の封筒にだけ車の鍵を入れたのは、やっぱり心じゃなく私に運転して欲しかったからだ!」
心:「んっ!」
怜:「もが…っ!…んむ、んま、んま(チョコバーを口に突っ込まれる)
……むにゃ。んぐ、…ン!コレ!おいしーーーー!
もう一本!もう一本!プリーズ!」
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◯「ハートセクト(スート・ジョーカー)」施設近く
◯柳澤たちの分隊が乗った車が停車している
柳澤:「妙だ。警備がいる様子がない」
ジャック:「…………(ガムを噛んでいる)」
柳澤:「ドローンのセンサーはどうだ?」
ジャック:「……人の気配がないー。
コレ、ひょっとしなくても、標的含めて全員逃げたんじゃないの?」
柳澤:「こちら側の動きが事前に漏れていたということか」
ジャック:「かもね。どっかで枝が付いてたか、もしくは、読まれたか」
◯柳澤、分隊への通信を開く(SE)
柳澤:「各位に通達、分隊は3つのエレメントに配置。
2チームは、施設に繋がる東西の陸路を塞いで、周囲を捜索。警戒にあたれ。残りは施設に突入、捜索を開始する」
ジャック:「僕は……一応、柳澤さんに付いていくよ」
柳澤:「……好きにしろ」
◯分隊がそれぞれ散開し展開する
◯仙崎、応接室で誰かと通話している
仙崎:「───もしもし、仙崎です。
ふたりは無事に退所しました。
ええ。意外と、あっさりしたものですね。
ありがとうございます。
───それでは」
◯仙崎、通話を切る
仙崎:(M)「……さて、そろそろですかね。
───話の分かる相手だと助かるんですが」
◯車を乗り捨て、森に入って山を登る心と怜
◯怜が心をおんぶし、荷物も持って歩いている
怜:「わー、見て見て心ちゃん、空!星がすっごいキレイ!
北極星が見えるよ~方角も分かる~」
心:「待って、今の、ちゃん?って何?」
怜:「あ、つい。おぶってても、あんまり軽いし、ちっちゃいので」
心:「っ!っ!」
◯怜の背中におぶさったまま暴れる心
怜:「いたい、いたい。蹴らないで、暴れないで」
心:「ふーっ、ふーっ………そろそろまたお腹が空いてるんじゃないの?」
怜:「さっき心がチョコバー食べさせてくれたから、しばらく大丈夫」
心:「なんだか餌付けした動物に乗ってる気分」
怜:「餌付け(ガーン!という顔)」
心:「これぐらいの山道、自分で登れるんですけど?」
怜:「私がおぶった方が速いし、心ちゃんは周囲を警戒できるでしょ」
心:「ぐぬぬ」
怜:「きっとそのうち、背は伸びるよ。そうだ!免許だって取れる」
心:「偽造した方が早いんじゃない?」
怜:「急ぐ理由ある?戸籍上の年齢で18歳になったら、正規の手続きで取得すればいいじゃん」
心:「自動車教習所?教わることなんてない」
怜:「「普通の人は」みんな、そうするんでしょ?多分」
心:「この国じゃ、おそらくそうね」
怜:「うん」
心:「───でも薫は「普通」を定義しなかった。
偽造したほうが簡単で安上がりで合理的なら?
物事を合理的に、損得に基づいて判断し取捨選択するのは、人種や国籍に関係なく普遍的な「普通」だと私は思う」
怜:「……う~ん、そうなのかな~?
人って合理的な判断ばっかりじゃないと思うよ。
あ、それに法律?は、できるだけ守りましょうって教わったよ!
「普通の人」は、そうなんだって」
心:「工程は違っても、結果的に本物も偽物も全く同じなら、それは何が違う?」
怜:「よく分かんない~」
心:「つまり、普通じゃない私たちが過程はどうあれ、結果的に「普通」に到達すれば、目標は達成されるってこと」
怜:「私、あの施設に居た人たちしか知らないけど、多分、薫も他の先生たちも「普通」じゃなかったんじゃないかなぁ……」
心:「わたしだって、他に知らないけど……っと!」
◯怜、進む足を早める
怜:「えーっと、4人ぐらい?追ってきてる?」
◯心、怜におんぶされたまま背後を見る
心:「……先行してるのが2人、後から4人」
怜:「すごーい、そこまで私には分かんないや」
心:「怜は「分からない」んじゃないの「考えてない」だけ」
怜:「だから、考えるとお腹が空くんだよ……?」
心:「きっと乗り捨てた車から、辿ってるんだ。トラッカーがいる」
怜:「追いつかれるかなぁ?これ以上急ぐと、お腹が空くんだよ。
追いつかれたら困る?困らない?
お腹が空くと、私はとても困るし、大変に辛い。
あ!でも、その人たち、何か食べ物を持ってるかもしれない!
まだ食べたことがないお菓子とか!」
心:「…………話が通じる相手なら、良いんだけどね」
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◯施設内に突入した、柳澤(チーム)とジャック
柳澤:「2人ずつに散開して、各フロアを確保。報告」
ジャック:「やっぱ建物内にも誰もいないねー。
なんだ。つまんないの……
………………っと?
ひとり、───いた!?」
◯仙崎が両手を挙げて現れる
◯銃を向ける柳澤と部下の隊員たち
仙崎:「あー。どうもどうも、ご苦労さまです。
私、この施設の管理を任されている者なんですが。
こちら障害者支援グループホームとなっておりまして、アポ無しでのご来場は、ご遠慮いただいております。
面会時間も過ぎておりますし、敷地内への不法侵入ということで、先ほど、警察に通報させていただきました。
なので、お引き取りいただいても?」
柳澤:「…………ああ、アンタの顔、どこか見覚えがあるな」
ジャック:「おや、知り合い?」
仙崎:「そうなんですか?私は、あなたを存じ上げないのですが」
◯柳澤、銃口を仙崎に向けたまま
柳澤:「───いや、アンタ個人というよりは、その人相だよ。
どこにでもいる、普通の、印象に残らない、気配の薄いその表情。
だが───「普通過ぎる」───
霞が関でたまに見かける面だ」
仙崎:「霞が関……都内ですよね。それはまた随分遠くから」
ジャック:「まったくだよ、ここは遠すぎる。
お尻が痛くてイライラしてるんだよね。
その「笑ってない笑顔」もうやめたら?意味ないよ。
……It's gross.」
仙崎:「あ、それって悪口ですか?良くありませんよ。
あと、それ。もしかして、もしかしなくても、銃ですか?
───ああ、あの、銃口を向けないでいただけると。
その、怖いので。本物?
ここ、田舎ですけれど一応、日本なので、違法ですよ?
所持と携帯で、3年以上の懲役刑なんですけど」
柳澤:「───御高説をどうも。時間稼ぎのつもりか?
「12」と「13」は何処だ?」
仙崎:「はて、時間稼ぎとは?
「12」?「13」?
一体、あなた何をおっしゃってるんです……?っ!」
◯台詞終わりに間髪入れず、銃声2発(SE)
◯いつの間にか銃を抜いていたジャックが発砲。
仙崎の頬を銃弾がかすめ、耳の一部と頬がえぐられる
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柳澤:「な!?」
仙崎:「ぐ……ッあ!!」
ジャック:「わお!すごい。眉間とアゴの真ん中を狙ったのに。
この距離で外したの、久しぶりだ。
避けなきゃ痛くもないのに。
でもまあ、いい顔になったじゃん」
柳澤:「貴様、勝手にどういうつもりだ!?邪魔はしないと(言った筈だ)───……!」
◯ジャックの銃口が自分にも向いていることに気付く柳澤
ジャック:「だってぇ、隊長ってば自分で言っといてこの人の時間稼ぎに付き合いそうだったからさ~。
こいつ、最初っから僕ら全員皆殺しにするつもりだったよ?
(ささやくように)あと半歩近づいたら、死んでたかも?」
柳澤:「…………っ、今の動きなら、そうかもな。……こいつも化物か」
ジャック:「ははっ、ジャパニーズ忍者!ってヤツ!?」
◯ジャック、予備動作もなく、仙崎を刺す
仙崎:「!っが……は……」
ジャック:「流石にこれは避けられないか。
この距離じゃ、ナイフの方が速いもんね」
◯仙崎が膝を付く
仙崎:「少しは話が……通じるタイプかと、期待…したんですが……」
ジャック:「うん。標的は、やっぱりもうこの施設内にはいない。
多分、行き違いだ。───時間にして……5分差ってとこかな?
標的は女の子ふたりって話だし、まだ全然追いつけるでしょ?」
◯柳澤の端末に通信入電(SE)
柳澤:「───北側の林道にて、無人の車両発見?
了解、発見したチームはそのまま痕跡を追え。
───標的は森に入り、封鎖路を迂回してどこか国道に繋がる地点に出るつもりだろう。他エレメントは周辺マップから想定されるルートの先に回れ」
仙崎:「はぁ……はぁ……っ」
仙崎:(M)「……襲撃単位はおそらく12人といったところ……ですか……」
ジャック:「ああ、ちなみに。僕はその数には入ってない」
◯ジャック、仙崎にウインクして肩をすくめて見せる
仙崎:「……はぁっ、はぁ……」
仙崎:(M)「……能力者が同行してるとは聞いていませんでしたね……。
想定は、していましたが……
よもや絵札ランクからの投入とは……!」
ジャック:「───情報系は得意じゃないんだ。でも、上手く隠してたって、表層ぐらいなら触れなくとも分かる。
僕は、標的の方に回るよ」
柳澤:「ああ?分かった。随時、報告はしろ」
ジャック:「もちろん。それじゃ、お先に」
◯山中。森の中
心と怜が、分隊のエレメントと接敵する。
怜:「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞぉー」
心:(M)「星明かりがあるとはいえ、森の木々の中に深く入ってしまえば、伸ばした手の先が見えないほどの暗闇が広がっている。
追手の速度を考えると、全員が暗視スコープを装備しているのだろう。
───とはいえ、施設の私有地としてある、この広大な山の中は、私たち二人にとっては、生まれ育った庭のようなものだ。
目を閉じていても、自分たちと「それ以外」が、どこにいるのかは手に取るように分かる───」
※モブ:「ぐあ…っ!」
「なんだ!?どこから……!?」
怜:(M)「考えるのは、お腹が空くことは、心ちゃんがやってくれる。
心ちゃんは私と違って、ちょっと食べただけでお腹いっぱいになるのに、すごい。私は、いっぱい食べないと、お腹が空いて辛くなる。
私はただ、考えず、見たまんま、感じたままに動くだけ。
えい。とお。やー。ばびゅーん。
それは、機械を動かすのと同じ。でも、機械はお腹が空いたりしない、ただ、動かなくなるだけだ。───だから私は、機械じゃないんだろうなって思うのだ。機械は、辛くなったりしない。
───知らないけど」
※モブ:「標的と接敵!交戦中…!くそッ!なんなんだこいつら!!!」
「ぎゃあっ!!」
「まずいぞ!撃て!」
◯※モブの台詞は怜役と心役以外の演者で好きにリアクションして下さい
◯連続したライフルの銃声の後、周囲は沈黙
◯木の上にいる心の元に、怜が戻って来る
怜:「はっ、はっ、……はぁ。ごめん、撃たせちゃった」
心:「うん、まあ。狙って撃ってたわけじゃないし、仕方ないよ。
でも今の音で、他の人に位置はバレちゃったかな」
怜:「え。まだ他にもいんの」
心:「通信してたみたいだから、そのうち来ると思うよ」
怜:「銃は嫌い。うるさいから。耳がキーンてする」
心:「じゃあ、一応全部壊しとこう」
心:(M)「無力化した人間、6人分の装備を、怜が手際よく使えなくしていく。薫たち施設の人たちに教わった経験もあるけれど、怜にとっては、大体の物が「見れば分かる」のだ。
銃は機械だ。大事な部品がひとつ、ほんの少し壊れただけでも、それは機能しなくなる。壊れた部品を、他の部品が代わりに自然と補ったりはしない。最初から、そういう想定で設計がされてないからだ。
極めて単純。
でも、倒れているこの人たちは、きっとどこかが壊れちゃっていても、時間が立てば治る機能があるし、壊れているところを補ったり庇ったりして、動くことができたりもする。
そう設計されているだけじゃなく、それを動かす意思がそこに働いている。多分それが「生きている」ってことなんだと、私は思う。
あ、でもこのままほおって置いたら、この人たち、熊に食べられちゃうかも。どうしよう」
◯心、少し考える
心:「ねえ、この辺りの熊ってさ、この人たち食べちゃうかな」
怜:「んー……さっきの銃声で警戒して、しばらくは近寄ってこないと思うけど?持ってた食べ物はコレだけだし。」
心:「ちゃっかり奪ってる」
怜:「ちゃんと声はかけたのに、答えずに襲ってくるんだもん!」
心:「ちゃんと、とは……?」
怜:「それにそれに!人の食べ物は山に放置しちゃいけないルールだからだよ!私が責任を持って!これは美味しく食べます!」
心:「はいはい」
怜:「ま、そのうち目が覚めたら、この人たちも自分で逃げるんじゃないかなぁ~」
心:「そっか、なら、いっか」
怜:「………………心ちゃんは、すごいねぇ」
心:「は?何が?あと、ちゃんを付けるな」
怜:「だって私、この人たちが熊に食べられちゃったらどうしようなんて、考えもしなかったよ。なんにも考えてなかったよ」
心:「だから───」
ジャック:「なんだ、誰も殺してないのか?」
◯ジャックがふたりの後方に音もなく現れる

心:「……何て?」
怜:「…………あ、あ~……あ~、あ…あ
───心ちゃん、この人、怖い、嫌だ、怖い」
心:「…………っ」
ジャック:「───いや、だから。
こいつらの誰も、殺してないんだなって」
心:「……誰も死んでないなら、そうなんじゃないの」
怜:「……殺してないよ……だって「普通の人」は、そういうことしないんだって。しちゃいけないんだって」
ジャック:「───普通?
武装したプロの軍人を、普通の人間は叩きのめしたりしないだろ?
しかも、この暗闇で」
心:(M)「…………この人、私たちと、「同じ」だ」
ジャック:「?……なんだよ……おい、おいおいおい。
まさか、お前ら、ド素人なのか?
あの「スート・ジョーカー」の「12」と「13」って、お前らなんだろ?
もしかして、お前らのとこでも「キング」とか「クイーン」ってクソダサい名前で呼ばれてたか?」
怜:「もう、違うよ。
私は玄野 怜って言うんだよ。今日からだけど……」
ジャック:「へえ、それはご丁寧にどうも。ま、聞いてねえけど?
そうか、もう「12」と「13」じゃないのか。
じゃあ一応、そっちのちびっこいのも言えよ。聞いといてやる」
心:「誰が「ちびっこいの」だ!
私は!白木 心だよ!
あと───絶対に!ちゃんは付けるな!!」
ジャック:「玄野 怜に、白木 心?
───なんだよ、シラキとクロノって。白黒かよ。
偽名にしたって安直過ぎるだろ」
怜:「……それは、私もそう思ったんだよねー……」
心:「いや、私たちが決めた名前じゃないから」
怜:「そうだよ!名前は、誰かに付けてもらうんだよ」
心:「……自分で付ける人もいるらしいけどね」
怜:「そうなの!?あ!薫が「自分で好きに変えて良い」って言ってたね!?そういうこと!?」
心:「………………」
ジャック:「…………なんか、なんかお前ら、やりにくいな。
薫って誰だよ?
◯間
嗚呼…………さっき、あの施設にいた、あいつか?」
心:「……施設に?」
ジャック:「ああ。あいつ、お前らを逃がすために、色々裏で手を回して、根回しもしてたみたいだけど。無駄な?時間稼ぎも?」
怜:「???逃がす???私たち、別に逃げてないよ。
卒園したんだよ。「ハート・セクト」が解体されて、なくなっちゃうから、だから「自由」に……」
心:「できるだけ「普通に」生きろって言われた」
ジャック:「…………ふ、ふは、ふっ普通に?自由に?お前らが?」
◯ジャック、笑いをこらえるもこらえ切れずお腹を抱える
怜:「名前を名乗られたら、そっちも名乗るのが「普通」なんでしょ?
あなたは、何ていうの?」
ジャック:「んは…っ、は、は、くっ、なんだよ……お前ら……」
心:「…………名前なんて、ない。ないんだ。
───昨日までの、私たちみたいに」
ジャック:「───世間知らずの!!!温室育ちってわけかぁ!!!」
◯「ハート・セクト(スート・ジョーカー)」施設内
◯負傷した仙崎を中心に、柳澤のチーム数名が銃口を向けている
柳澤:「───こいつが少しでも動いたら、撃て。
もし、隊の誰かが盾にされるような事になっても、一緒に撃て。
それが私でも。躊躇するな」
仙崎:「ええ~……そういうの止しましょうよ……投降しますから。
あと……止血とか……お願いできませんか?」
柳澤:「急所は外れて刺されたように見えるがな」
仙崎:「……さっきの彼が、その気なら、もう死んでますよ……」
柳澤:「………」
仙崎:「穏便に、話合いで解決しましょう。落とし所が、きっと、ある筈です。……って、いてて……ほっぺた、ちょっと撃ち抜かれてて、上手く、話せませんけど」
柳澤:「「12」と「13」には、マーカーが付いている筈だな?追跡コードを言え。保険の自壊プログラムは?」
仙崎:「……なんのことやら───が……あッ!」
◯ライフルの銃床で、柳澤のチーム隊員のひとりから殴りつけられる仙崎
柳澤:「追跡コードを」
仙崎:「はぁ、はっ、は……ぁ……
ひどいな。お互い、雇われ同士じゃないですか……?
立場は違いますが……
仕えるところは、元を辿れば同じ、ですよね?
あなたも日本人のようですし……。
もう、止めましょうよ。無駄な、暴力は……ッ!うぐッ!」
◯銃床が歪むほどの力で隊員に殴られる仙崎
柳澤:「「12」と、「13」に、埋め込まれている、マーカー。
その、追跡、コードを、教えろ」
仙崎:「……ッ……は、ぁ、は…っ……
「12」も「13」も、あんなもの、番号であって、名前じゃないでしょう……ッあ!!」
◯銃声。(SE)
◯柳澤の発砲したハンドガンの銃弾が仙崎の右鎖骨を砕く。
柳澤:「鎖骨はな、痛いだろう?私も経験があるから分かるよ。
ウチの部隊ではホローポイント弾を使ってる。
だから、貫通まではしない、骨を砕いたところで弾が止まるから。
───次は、左の鎖骨を撃つ」
仙崎:「~~~~~~~ンッ!!……ぐぅぅぅむッ!!
はぁッ!はっ!はぁッ!
私は、施設長の代理なんですよ……。
それを、知る立場には、ないん……です。
何も、知らない、ん、です」
柳澤:「そうか。だったらとぼける前に、最初からそう言え。
私も暴力は嫌いなんだ。疲れるし、気分が悪い。
拷問なんて以ての外だ」
仙崎:「…………気が、合いますね…ぐっ!あ……」
◯仙崎、激痛に倒れ込む
◯柳澤は通信機に指令を出す
柳澤:「チームは施設内を索敵、ローカルにデータベースがある筈だ。端末ごと回収する。それが不可能なら、中身だけ取り出せ。資料もだ。待機班は車を持って来い」
◯数人の隊員が、施設の先へと分かれて進む
◯仙崎、気を失うほどの激痛の中、うわ言のようにうめく
仙崎:「ふーっ、ふーっ、ふーっ、がぁ…は……はっ……
…………ここは「ハート・セクト」…………!
望まず、生まれ持った障害で……家庭でも、社会でも、苦しく、生きづらい……そんな…子どもたちを、保護し、育み、いつかは社会に受け入れられるように…送り出す、障害児童支援施設なん…ですよ……!」
柳澤:「…………表向きはまあ、そうなんだろう。
だがお前だって只の介護福祉職員じゃあるまい。
公安出身か?CIAが息を吹き込んだっていう噂の、内閣府、直属の何かか?
戯れとはいえ、あの距離から急所を正確に狙った射線をかわし、弾を外せる兵士がどれだけいるか。
正直言って、私なら?あの時点で死んでる。
いや、死んだことにも気付けないだろう。
こうして銃を突きつけていても、まだアンタが恐ろしいよ」
仙崎:「はぁ、は、はぁっ……
…………良い名前を、付けたんです。
ずっと、ここの皆で、考えていた……」
柳澤:「此処は、「スート・ジョーカー」だ。
類まれな超能力者を秘匿、育成し、必要な場所で使える人材を生産する。バカバカしいおとぎ話を、クソみたいな現実にしている、世界中に数ある機関の中のひとつ」
仙崎:(M)「……心は、生命の源、血が通う心臓、ハート……
感情と意志、そして、物事の核心を本質を……優しく、見通す力……」
柳澤:「中でも「ジョーカー」を冠するスートは、その存在が長年疑われてきたほど、誰も、それが本当に実在するとは、最近まで知られていなかった。
よくぞまあ、十数年に渡って隠したものだ。こんな、核兵器も持たない平和な国に。
国民もいい迷惑だろう」
仙崎:(M)「……怜は、美しく、心と常に、共にあり……。
心と人を繋ぎ、守り、秩序を保つ……力……」
柳澤:「私は手間を省きたいし、いたずらに優秀な部下たちを死なせたくもない。お前みたいな化け物とまともに正面から殺し合うのもごめんだ。
なあ、どうせ、いずれは誰かが知ることだが、できるなら、死ぬ前に教えてくれ。歩み寄ろう。
お前の言う通り、話し合いで、相互理解し、問題を解決しよう。
立場は違えど、我々は同じ日本人で、落とし所は、きっとある筈だ。
───お前たちが隠した2枚のジョーカー、「12」と「13」、いや?「クイーン」と「キング」か?
呼び方は、どうでもいい。どうせ大した意味はないんだ。
その、能力は、なんだ?」
仙崎:「…………ジョーカー…………?
ふっ、は、は……あの子たちは……あの子、たち、は」
柳澤:「?」
仙崎:「ジョーカー、でも、絵札、でもなく……
……いわば、この世界の、ブランク・カード※……なんですよ」
※ブランク・カード……何も描かれていない白紙のカード
柳澤:「なんだって?」
仙崎:「なんにでも、なれる、なんだって、できる……どこまでも眩く、白い、そして……その影となる……濁ることのない純粋な、黒……」
◯もうどこにも焦点が合っていない目で中空を見つめる仙崎
柳澤:(M)「こいつ……っ、何故、ひとりここに残った?
───時間稼ぎ。それはそうだ、だが、何のために?
標的を護衛しながら、共に逃げるだけの技能を持ちながら、何故、それを選択していない?
何故、ひとりでここに残り、すでに来ることが分かっている我々を、迎え撃つでもなく、ただ時間を稼ぐのか?
──────ッッッ!!!!!!」
◯銃声(SE)
◯柳澤、仙崎の頭を撃ち抜くや否や
その場から走り出し、通信機に向かって怒鳴る
柳澤:「退避!!!!この施設内から撤退しろ!!!!」
仙崎:(N)「柳澤の放った銃弾が、横たわる仙崎の頭蓋を掻き回し、衝撃で破れた鼓膜から脳漿が床へと飛び散った。
仙崎の脳波が停止した、10秒後。
施設内に仕掛けられた大量のC4、その閃光と爆発が、建物を4000℃の熱と衝撃波で包んだ。
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◯心と怜、ジャックが対峙する山中
◯遠くから、爆発音がする(SE)
怜:「爆発……?」
心:「……っ!」
仙崎:(N)「遠く響く爆発音。それから数秒後、空気を揺らす衝撃波が森の木々を揺らす。山の麓から立ち上る、炎と煙がキノコ雲の形で舞い上がっていくのが、二人には見えた」
ジャック:「……ここで余所見するのがド素人かってんだよ!」
柳澤:(N)「ジャックが心と怜、二人の視界から音もなく掻き消えるとほぼ同時」
怜:「心ちゃんっ!!!」
心:「───っ!!」
仙崎:(N)「突き出されたジャックのナイフは正確に、心の心臓、頸動脈、肝臓、肺、を狙っていた。
人がまばたきをする速度は0.1秒。
時速400kmをゆうに超える、約0.0054秒の間に、音もなく影のように繰り出される。必殺、致命の連撃。だが───
ジャック:「!?」
仙崎:(N)「人体の持つ、反射神経、神経伝達速度を超える速さで、ジャックの「殺意」を構成する脳内物質の分泌、ニューロンの狭間に生じた活動電位の起こりを、怜は見た。
同時に怜は、ジャックよりもさらに速く動いた。
その襲い来る「殺意」から、心を、守る為に」
怜:「ぐっ、ああああ!!!」
柳澤:(N)「ジャックの無音の刺突が、割って入った怜の手によって、防がれた。しかし、怜とて無傷ではない。
ジャックは、怜がかばう、心の急所だけをさらに正確に狙う。
───血煙が霧のように舞った。
心の額に、怜の裂けた腕から飛んだ、血飛沫が降りかかる」
ジャック:「すっごいな!なんだお前!!!」
怜:「そっちこそなんで!こんなことすんの!!!」
ジャック:(N)「───こいつらを見ていると感情が泡立つ。
ああ、すごくイライラする。
僕らが選別という名の生存競争、淘汰に生き残り、世界中の紛争地で泥と血にまみれ、空爆ミサイルと銃弾の雨を避けながら意味のない殺し合いを影で続けている中、ぬくぬくと!
クソ平和なこの国で!あの鳥かごの中、育ってきたわけだ!
頭にクるね!!!
───とまあ、僕は怒りによって能力がより加速度的に強くなる感情覚醒型だから、意図的に自分で自分の感情を、あえて上下させる方なんだけれど。マッチポンプだと思う?
だから今までも、イラつく奴らは沢山いたし、自ら進んで、イラつくようにしてた。
その方が速く殺せる。
そのほとんどは、音もなく殺した。まばたきすらさせずに。
我ながら、慈悲深いと思うよ?
奴らは、自分が殺されたことすら気づかないで、絶命しただろうから。
痛みすら感じていないだろう。
その痛みが、脳に伝わるよりも速く、ずっと速く。
安らかな死を与えたんだから。
───だけど、こいつは、こいつは、───何だ!?」
柳澤:(N)「ナイフによる刺突だけではなかった。
さらに抜き出した銃を片手に、ナイフの届く至近距離で。
セミオートピストルの9mm弾が13発。
刺突と共に、速射される」
◯連続の刺突音と、銃声(SE)
仙崎:(N)「マズルフラッシュに照らされ、舞い上がった血煙と枯れ葉が、闇に舞った」
柳澤:(N)「ジャックは二人から距離を取ると、薬室に一発を残したまま、銃のマガジンを装填する。
血に濡れたカーボンスチール製の軍用ナイフは、しかし、ボロボロに刃こぼれし、赤熱した刀身は、その半ばで溶けるように折れていた」
ジャック:「マジかよ……?なんなんだお前…………?」
怜:「………ッ!は!はぁッ!はぁッ!」
怜:(M)「痛い、痛い、痛い。
腕が、指も、手のひらも、お腹も、脚も、ズタズタで、うわぁ、私、血まみれだ。
痛いっていうか、熱い。お肉が焼け焦げた匂いがする。
嗚呼、でもこれは、美味しい匂いじゃないなぁ。
血抜きされてない、良くない肉の匂い。
でも、でも、まだお腹は空いてないから、私は、大丈夫。
大丈夫、なのかな?ああ、血がいっぱい。
闇夜の中で見る血の色は、真っ黒で、チョコレートみたいだ。
心ちゃんがさっき、車で食べさせてくれた、チョコバー。あれ美味しかったなぁ。薫が「私に」って用意してくれてたんだよね。
もうあまり時間がない、って。言ってたのに。
夕飯のカレーも美味しかった。
薫が作ってくれたあのカレー、もっと食べたかった。
もっと、もっと、もっと食べたかったのに───」
ジャック:「???お前……こんな時に、何考えてるんだ?
ははっ、それが、最後の晩餐ってわけ?」
怜:「???考えてないよ…???
ご飯の…ことは、考えなくても…分かるから……。
ただ、思い浮かぶんだよ……だって、美味しかったから」
柳澤:(N)「刹那。ジャックの体中に、危険を告げるアラームが鳴り響く」
仙崎:(N)「心が。
ジャックを、まっすぐに見ていた。
怜の鮮血で染まった、真っ赤な姿。
───否。
深い闇夜、かすかな星空の明かりの下、白い肌に浮かぶ血は、まさに漆黒。
───それは、あたかも「太極図」のようだった」
心:「アンタ薫に何したの?」
怜:「……はぁ……はぁ……はぁ………私は……考えない、だって、だってお腹が、空くから……私は、考えない、何も、考えない…………」
仙崎:(N)「怜は、消えるようなかすかな声で、ぶつぶつと呟いている。
その顔は、もはや血の気を失い、土気色を通り越し、白く見えた。
だがしかし、眼の前の凶刃から、心を守るという、確固たる意志が、生命が、そこに凛と立っている」
ジャック:「───はは、いや、なんかもう出会い頭にさ。
こっち殺す気満々の決意?覚悟?
そういうの前頭葉に貼り付けて、眼の前に現れるもんだから。
表情に出なくてもホラ、僕らにはそういうの分かるじゃない。
だから、つい反射的に2発、撃っちゃった。
でもびっくり!避けられたけどね!
すげえ、痛そうだったよ?
頬から奥歯をかすめて耳がちぎれててさ。
だって、避けるもんだから。
───動けない程度に、刺してやった」
怜:「撃った、避けた……はぁ……はぁ……あ、あぁ、でも……」
ジャック:「うん、多分さっき聴こえた爆発音?アレでしょ?
こんな離れてても、音の後に、衝撃波感じたもんね。
多分、あそこに居た連中、跡形もなくみんな死んだんじゃない?
薫だっけ?あいつ、間違いなく、元々そうするつもりだったんだよ。まあ、自分がトリガーになるつもりは、なかったかもしれないけどさ。
何でひとりであそこに残ったんだろうね?
───君らと一緒に、逃げれば良かったのに…………
もちろん?逃がすつもりはさらさらないけど」
心:「…………怜に、こんな怪我までさせて……」
ジャック:「いや、僕が狙ったのはお前なんだけどさ。
ちびっこいの、お前の方が何かヤバそうだから。
はは。さっきのをしのいだ、ひょろ長。
褒めてやんよ」
怜:「……はーっ、はぁ、はーっ、はぁ……」
ジャック:「でもさ。ひょろ長いのは、もう助からないと思うよ。
橈骨動脈に
尺骨動脈も
外腸骨動脈だって深く裂いたし。
弾も何発かはいいトコに入ったろ。
その分じゃ、もう1.5リットルぐらいは出血してる。
あとものの数分で、そいつは死ぬ。
ていうか、何でまだ立ってられんの?
あ、そういう能力?」
心:(M)「「もういい。それ以上、喋るな」」
柳澤:(N)「自らの感情を昂らせ、能力を強化させるジャックの、自己暗示として鼓膜に循環し働くその声が、脳内に鳴り響いた心の声によりかき消された!」
ジャック(M)「!!!ん、は……ぁ!?
そう…か、そっちの……ちびっこいのは、精神支配系ってわけか……さっきので殺せなかった……のが…惜しいな…!
だが……こっちもそれなりに訓練は受けてるんで…ね……!
まばたきをしてみろ、その間に、お前を殺すぐらい、わけないさ……!」
柳澤:(N)「ジャックは、自らの意識に常時展開している精神防壁をさらに幾重にも重ねる。
それは、対能力者との戦闘における基本戦術。───だが!」
心:(M)「……速いのが、そんなに、ご自慢ってわけ?
だけど、速さだけなら怜の方がもっと速かったよね。
現に、私には傷ひとつ、付けられてない」
ジャック:(M)「かぁ……く、はっ!こいつ……防壁を……!?」
心:(M)「ああ、「喋るな」って命令したから、息もできないの」
怜:「私は、考えない、私は、考えない、私は───」
仙崎:(N)「酸欠に赤熱する視界の中、ジャックは見た。
心の前に立ち塞がる、怜の腕から吹き出すように流れていた血が、ゆっくりと、止まった。いや、止まっただけでは、ない。ゆっくりと、だが確かに。
地面へと流れ落ち吸い込まれた血が、怜の身体へと戻っていく。激しい戦いで、霧のごとく舞い散った血煙すらも」
ジャック:(M)「なん…だ、お前ら何をしてる?僕は何を見てる!?」
心:(M)「物理法則を無理矢理に捻じ曲げる、自らが思い描くイメージを現実に重ね合わせるってトコロまでは。
アンタもやってるんでしょう?
けれど、そのイメージの解像度があまりにも、あまりにも足りてない。
いわばそう、量子力学の領域にまでは達してない。電子と陽電子の速度って、光速に限りなく近いんだって」
ジャック:(M)「……ッ!!!」
心:(M)「そして、光よりもさらに速い粒子も、この宇宙には存在する。
それは時空間をも越える。
確かにそこにあって、でも、どこにもない。
誰もが知っているのに、誰もそれを知らない。
過去も現在も未来も───それは因果律すら、反転させる。
それすら「見える」のだとすれば
「考える」ことが、できるのならば」
怜:「私は考えない、私は考えない、私は───」
仙崎:(N)「三人の周囲の景色は、白と黒の渦と化していた。粒子の渦、その光と闇がジャックの身体を通り抜け、さらに加速しながら明滅する。
それは物理法則を超越した世界───」
ジャック:(M)「まさか、まさか!こいつら!!
時空間観測者だと───!!!
バカな、そんな概念上の存在が、本当に居るわけが……ッッッ!!!」
怜:「私はただ、見て、知るだけ、全部、知っているだけ」
◯間
心:(M)「「この子の目は、この世の全てを見ているの」」
◯白い光の渦がすべてを押し流していき───暗転
◯エピローグ
◯6畳ほどの応接室。テーブルを挟んで、椅子に座る人物と、その前に立たずむ少女が2人。
仙崎:「おふたりは…………この指定障害者支援施設「ハートセクト」を本日付をもって卒園。退所、ということになりました」
心:「……ん」
怜:「は?」
仙崎:「夕食中だったというのに、突然の呼び出しで大変、申し訳ないんですが。───今からすぐ。
荷物をまとめて、ここから退所していただきます。
こういう場合、しかるべき自立支援を続ける必要が、本来ならきっとあるんでしょうが、なんとも込み入った事情でして……。
今後、この施設「ハートセクト」や職員からのサポートはありません。
もちろん、私個人としても、何もできることはない。
ですから。どうぞ、お元気で。では、さようなら」
◯間
怜:「───いやいや、いきなりそんなこと言われても」
心:「…………分かった」
怜:「───って、え?何?ひとりで分かっちゃうの!?」
心:「…………いつも言ってる。
怜は、「分からない」んじゃない。「考えてない」だけ。
───ただ、全部、もう知ってるだけ。
………正直、ムカつくけど」
怜:「んん???怜って?誰のこと?」
心:「あんたの名前、ガリガリのひょろ長」
怜:「あああ!!!悪口だ!それは悪口だよ!?
今!21時31分10秒!
地球が1兆と6800億回転するかしないか時間!
心ちゃんから!また悪口を!言われましたーーーーっ!!!」
心:「だから、ちゃん付けで呼ぶな!怜!次はブッ殺すぞ!」
怜:「脅迫だぁっ!きょうはくっ!!!
現行犯!げんこうはん!げんこうはんだ!
ねえ薫ちゃん!げんこうはんは!良くないですよね!!
心ちゃんを叱って下さい!そして……!………あれ?
げんこうはん!げんこうはん、げんこうはん……玄香飯ってなんか美味しそうだね……?薫ちゃんのカレーにすごく合いそうなご飯な気がするよ!?」
心:「ないって、そんなご飯わ」
仙崎:「…………一体、何の話ですか
「13」……いや……怜……さん………?
「12」……いや………心、さん?んん」
怜:「おー?今、私を呼んだか?薫ちゃん!」
心:「はい。私は分かってるから。
時間、ないんでしょ。
───仙崎 薫?」
仙崎:「……嗚呼、あなたたち、まさか、また………………!
(ため息)……ちなみに、その、このやりとりも?」
心:「まだ、───◯回目だよ」
◯このシナリオが初演の場合は、最後の台詞は「1回目」と読んで下さい。演者さんの演じる回数が増えるたびに、下記の台詞の◯内の数字を増やして、読んで下さい。
心:「じゃ、行こうか」
怜:「行くって、何処に?」
心:「まだ見ぬ先に、かな!」
インタラクションぶらんく Hand.01 ─終─
◯ポストクレジット
◯施設に続く山道を進む、数台の四輪駆動車。
◯その車内で、衛生通信機を持つ人影
◯車のエンジン音と通信機の音(SE)
柳澤:「───作戦中止?」
ジャック:「ああ、今<ディーラー>からメッセージが来た。
どうせ柳澤さんのとこにも別系統で指令が降りてくると思うよ」
柳澤:「…………全く、上の考えてることは分からん。
標的はどうする?───作戦の目的も果たしていない」
ジャック:「…………目的は、果たしたんじゃないかなー?」
柳澤:「まだ、何も起きていないのにか?」
ジャック:「起きたんだよ、何かが。……きっとね」
柳澤:「?」
ジャック:「そんじゃ、帰ろっか~。
あ、僕は途中でヘリが拾ってくれるから、開けた適当なとこで降ろして~」
柳澤:「……また長いドライブになりそうだ……」
2024_12_24 初稿
2024_12_25 誤字脱字を修正・一部加筆
2024_12_26 あとがきを追加。本文加筆・修正
2024_12_27 本文加筆・修正
2024_12_30 本文加筆・修正
2025_01_02 本文加筆・修正・ポストクレジットを追加
あとがき
と、いうわけで。最後までご覧いただきありがとうございました。
3パック98円冷奴でございます。いつもお世話になっております。
まずこのお話は、阪元裕吾監督の映画「ベイビーわるきゅーれ」から着想を得ています。
そして声劇台本、あのさんの「バスタブの骨」
桃次郎さんの「No.シリーズ」
終盤の展開や、キャラクターの主観を長台詞として朗々と読み上げるように構成する文体は、僕が敬愛する声劇台本ライターさんである、にょすけさんや、いとこうさんさんの影響も自覚しています。他にも、おそらく無意識に様々な声劇台本・小説・映画・漫画などなどからインスパイアされたものだと思います。
この場をお借りして、それらに改めて感謝と敬意を。
いつもありがとうございます。
さて。軽く、本編では何が起きたのか、上手く描ききれなかった点を補足したいと思います。まとまりのない話になりますが……。
いわゆる「超能力・異能力者モノ」「サイキック・バトル」などは昔からエンタメの王道としてありました。
その能力が、キャラクターひとりにつき特徴的なモノを1つ、というのがまあ、分かりやすいですしキャッチーですよね。幽波紋とか。……例外も色々ありますが。忍術とかになるとバリエーションも豊富になったり。魔法なんかだと、複数属性を使いこなしてみたり。
この拙作「インタラクションぶらんく」でも、そこら辺を曖昧に、広義に描こうと思いました。
分かりにくいかとは思ったんですが……。
例えば「精神系能力」と大枠で見ても
・テレパシー(Telepathy): 思考や感情を他者と直接やり取りする能力。
・マインドコントロール(Mind Control): 他人の意識や行動を操作する能力。
・サイコメトリー(Psychometry): 物体に触れることでその歴史や持ち主の記憶を読み取る能力。
・催眠術(Hypnosis): 意識に影響を与え、暗示をかける能力。
・記憶操作(Memory Manipulation): 他者の記憶を改変、削除、植え付ける能力。
多岐に渡って、その概念が想像されていて。
劇中、心やジャックが、息を吸うように使っている、人の考えや記憶を読み取ったりする能力は決してその能力者固有のものではない、としています。
料理に例えるなら、和食を専門とするシェフでも、別にフレンチやイタリアンや中華料理を作れないわけではない。「料理」という大枠でくくることもできますよね。そして、その中にそれぞれ優劣や個性がある。
格闘技なんかでもよく言われがちな「最強の格闘技とは何か」みたいなテーマもありますが、特定の格闘技が優れていて強いのではなく、結局は「誰が」それを修めて使うかの問題とされますよね。
「アンドレ・ザ・ジャイアントさん(身長約223cmの巨人プロレスラー)なら、ラジオ体操だって充分強い」って小咄をどなたかが言ってました。
向き不向きや適正などはあるにせよ、「超能力」という大枠に共通したベースがあって、超能力者たちはその中で、各々自分に向いている力の使い方を工夫している。というのが「インタラクションぶらんく」での基本設定と考えています。ふわっとしてますね。
◯仙崎は何故、施設に一人残ったのか問題
これ、掛け合い台詞の流れや構成上、劇中で上手く処理できなかったんですが、まず仙崎が心・怜と一緒に逃げるという選択肢は、少なくとも仙崎の中にはありませんでした。二人には、施設での十数年間の生活を通じて、社会で生きる術を教えていましたし、何より子どもたちが「自立」する、という点に重きを置いていました。
それに、仙崎は心・怜が自分なんかが守るまでもなく、誰からも、何からも、身を守り生き抜く力があると信じていた。
あとはまあ、自爆するつもりはなかったと思います。
ジャックに撃たれるその時まで、必要であれば柳澤チームとジャックを返り討ちにするぐらいのプランもあったかも。仮定の話ですが、襲撃にジャックが同行していなかったなら「柳澤チーム vs 仙崎」はそこそこ良い勝負ができたかもしれません。仙崎無双もありだったかも。
◯終盤、心・怜は結局、何をどうしたの?
はい。コレ、分かりにくいですよね。多分。
古典的な時間逆行モノのように「現在の記憶の連続性を保ったまま、時間を物語の序盤にまで巻き戻した」と言ってしまえる話ではあるんですが。
個人的にはそれだとちょっと違っていて。
微妙なニュアンスなんですけど。
「クエットセル実験」ってものがありまして。
コーンシロップのような粘性の高い液体に、比重の異なるインクを入れて一方向にかき混ぜた後、逆方向に混ぜると、混ざりあったインクが元の状態に戻る。という実験なんですね。
劇中、心と怜がやったのは、この実験のイメージが近いと思っていて。物理的な逆行が起きても、それを誰も時間経過として認識できなければ、感覚としてはタイムリープに近いと思います。
初稿だと、読み返してみて自分でもこれは上手く伝わらないかもしれないと思って、時空間観測者みたいな文言も入れたりして加筆をしています。ただこの辺は、演者の皆さんの感想とかご意見で改稿するかもしれません。
まあ、フィクションなので雰囲気だけ楽しんでもらえたら。というのが大前提として。
心が、怜の「目」を通して超能力「時空間観測者」を使い、時空間の大改変を起こすわけですが。
逆転現象の速度が加速し、光の速さを越え、時空間の流れや位置、距離、時間の前後が意味を成さなくなり、既存の物理法則を超えた世界を心と怜だけが認識できる、という感じでしょうか。
まあ、雰囲気雰囲気!