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僕らのオニ退治大作戦。【短編小説】【#白4企画応募】

 僕はフクロモモンガのモモタ(オス)。蒔倉家にやってきて2年目、今もこの家でお世話になっている。みんなからは『モモ(タ)(ちゃん)』って呼ばれてる。そして、飼い主は僕の大好きな蒔倉みのむし。僕はいつも『みにょ』って呼んでいる。

 僕の大好物は虫とフルーツ。これが最高に美味しいんだ。みにょは虫やフルーツがあんまり好きじゃないのかな。いっつも僕に譲ってくれる。みにょも食べていいのに。美味しいよ?ミルワーム。
 まぁ、みにょがくれるのなら遠慮なく食べちゃうけどね。

 僕は昔、僕の知らない所で産まれた。まだ何も分からない小さい頃にペットショップっていう所へ流されそうになってたみたい。そんな僕をみにょが引き取ってくれた。そう、みにょのママさんが教えてくれた。

 その頃から、僕はみにょに恩を返すために、ずっと尽くすと決めたんだ。でも、僕がみにょにできることなんて何もなくて、ただみにょや一緒に暮らす友達と遊んで過ごす毎日だった。

 僕は最近うろちょろと家の中を自由に動ける時間が増えた。それは僕がお利口さんだからって、みにょが言ってた。そりゃあ、みにょに呼ばれたらいつでも駆けつけるに決まってる。お利口さんの僕は、みんなが一家団欒しているのを見てるのが好きだ。
 そんな蒔倉家の食卓に並ぶ料理。いつも様々な料理が並ぶけど、その材料として必ずと言っていいほど奴が入っていた。
 僕は昔、仲間と遊んだ時に、とある情報を耳にしていた。
「俺たちモモンガ族は絶対に食べてはいけないものがある。いや、モモンガ族だけではない、他の多くの種族が禁じられている危険な食べ物があるんだ」
 仲間はそう言って僕に危険な食べ物を教えてくれた。

 僕は知ってる。いつもみにょが食べてる料理にそれが入ってることを。
 もしかすると、ママさんは知らないのかもしれない。奴は危険なんだ!

 僕はみにょを守るために蒔倉家で一緒に暮らす友達に呼びかけた。
 まずはいつも朗らかで僕を背中に乗っけてくれる柴犬の『イッヌ』の元へ向かった。
「イッヌ、聞いてよ。みにょが大変なんだ。食べちゃいけない物を食べてるんだ」
「食べちゃいけないもの?」
 僕はイッヌの耳元へ登り、耳打ちで伝えた。
「え!それは大変じゃないか!なんでそんな物をみのさんが食べてるんだ…」
「分からないけど、もしかするとママさんが気づいてないのかも…」
「それでモモちゃん、これからいったいどうするんだい?」
 僕はイッヌにとある作戦を話した。
「イッヌどうかな?僕らで奴らを懲らしめたいんだ」
「なるほど、かの有名な昔話ってわけかい」
「昔話?なんのはなし?よく分からないけど、このフルーツあげるから僕に協力して欲しいんだ」
「モモちゃんの頼みなら協力するさ」
 こうしてイッヌが仲間になった。

 僕は次にリスザルの『オサル』の元へ向かった。
 オサルも僕と同じで、みにょと一緒に暮らしていて、家の中では割と自由に過ごせる部類の友達だ。
 オサルは僕より少し体が大きくて手先が器用なんだ。だから僕はオサルにも協力をお願いした。
「オサルお願いがあるんだ」
 オサルは逆立ちをひょいっと止めて胡座をかいた。
「どした?何かあったの?」
 僕はオサルの目を見て真剣な顔で伝えた。
「大変なんだ。このままだと、みにょが死んじゃうかもしれないんだ」
 オサルは驚いた顔で僕を見つめる。
「死んじゃうってどうして…」
「みにょは体にとって危険な食べ物をいつも食べてるんだ。オニオンていうんだけど、沢山食べちゃうと死んじゃうって昔仲間が教えてくれた」
 オサルは険しい顔で何かを思い出したようだった。
「オニオン…たしかにオイラも昔、ちょっとだけ聞いたことある。オニオン・キングはヤバいって話」
「オニオン・キング…!キングってことは、やっぱりヤバいんだ!僕、みにょに死んでほしくない。オサル、僕のフルーツあげるから協力してよ」
「そりゃあ、もちろん。フルーツもらえるなら尚更さ」
 こうしてオサルもオニオン退治の仲間になった。

 イッヌからチラッと聞いた話だと、昔話ではオニを倒すためにはあと一匹、仲間が必要だった。それがキジだ。
 オニ…オニはきっとオニオンのことだ。やっぱりオニオンが悪い奴だから昔の人達も退治しに行ったんだ。僕はそう確信した。
 あとはキジだ。キジも蒔倉家にいる。僕はさっそくキジがいつも居る塔の上に登った。しかし、そこにキジの姿は見当たらない。
「あれ?キジ居ないの?」
 そこに居たのはシクだった。
「キジ?さっきまでいたけどな」
 シクが白と黒の毛並みを毛ずくろいしながら答える。
「そうなんだ、どこ行ったんだろ…」
 そんな事を話していたらミケが登ってきた。ミケは三色模様の毛並みに綺麗な顔立ち。ここは色々な毛並みの猫が集まる部屋の一角、猫の塔。
「珍しいね、モモちゃんがここに来るなんて、どしたの?」
「ちょっとキジに相談したい事があるんだ…」
「キジに?キジならさっき、お水飲んでたよ」
「そうなんだ!分かった。ありがとう!」
 僕は塔の上からキッチン方面へ目がけて滑空した。空中から室内を見渡す。すると、前方斜め右にキジを見つけた。そこから少しずつ高度を落とし、その背中に着地する。
「おぉ、モモタじゃないか。びっくりしたぞ」
「驚かせちゃってごめんね。上からキジの模様を見つけたから、そのまま乗っちゃった」
「そうかい、何か用でもあるのか?」
 キジはゆっくりと伸びをしながらモモタへ訊いた。
「うん、キジに協力してほしい事があるんだ」
「協力?いったい何をするんだい」
 僕はオニ退治についてと、これまで集めた仲間の事を話した。
「なるほど、オニオン。奴を倒さないと、みのむしが危ないってわけか」
「そうなんだ。僕のフルーツあげるからキジも付いてきてよ」
「あぁ、いいとも」
 こうして最後にキジも仲間となった。

 今週末の土曜日、みんなが家に居ない時間。それが僕らの天敵オニオンを退治する決行の日だ。
 僕は平日のうちに家族に気づかれないように上から奴の居場所を探った。退治に必要な物の在処を確認済みだ。
 きっと完璧だ。これでみにょを守れる。モモタはギュッと気を引き締めた。

 決戦当日。静かになった午前10時。みにょのパパママはお仕事、おばぁはデーサービスという場所に行っている。みにょもいつも通り路地裏へ散歩に出かけて行った。
 僕はみんなを集めた。ケージの開け方はこれまでの日々で心得ている。オサルの手にかかれば楽勝さ。ただ勝手にケージの外に出てると怒られちゃうから、いつもはやらないけどね。
 オニオンがしまわれている場所は、キッチンの勝手口を出た先の納屋。そこがきっとイッヌが言ってた『オニ(オン)がしま(われてる所)』だ。いつもそこからママさんがオニと入ってくることに僕は気づいた。
 僕はオサルの肩に乗った。
「オサル、まずはキッチンの引き出しにある袋が欲しいんだ」
「分かった。任せろ」
 僕らはキッチンの引き出しを開け袋を持ち出した。それからオサルに勝手口の扉の鍵を開けてもらう。勝手口はそのまま納屋に続いていて、その天井のはりにオニオンはネットに入ってぶら下がっている。
 僕はキジを呼んだ。
「あの梁の上に登ってネットを引っ掻いて破って欲しいんだ」
「それだけでいいのか。楽勝だな」
 キジは周りの柱や棚を使いひょいひょいっと上に登るとネットに爪を引っ掛けた。オレンジ色のネットはブチブチッと音を立てて破れると、中に隠れていたオニオンがゴドンドドンと床に落ちてきて転がった。
 ようやく姿を現したか。あとはオニオンの捕獲だ。オニオンには毒があり口に入れることは厳禁だ。そうなればイッヌやキジは危険だ。
「オサル、あのオニオン達を袋に捕まえてくれないか」
「袋に詰め込めばいいんだな」
 オサルは手際よくオニオンを掴み袋にガサゴソと詰め込んだ。
「ありがとう。イッヌ後はお願い!」
そういうと、イッヌは袋の持ち手を咥えて軽々と持ち上げた。
「これを森に持っていけばいいんだね」
「うん、さすがに埋めちゃうのは可哀想だから、森に置いてこよう」モモタはイッヌの背中に移った。
 オサルはちぎれたネットを引っ張りながら遊んでいる。キジは梁から華麗に降りると部屋に戻りながら、こう言った。
「それで許しちゃうなんて、モモタは甘いなぁ」
 キジが部屋に戻るのを見て、オサルもネット遊びに飽きたのか傍にポイ捨した。
 僕も本当は悩んだけど、オニオンが少し可哀想に思えてしまっていた。
「いいんだ。たぶんオニオンもこれできっと懲りて家には手を出さないはずだよ」
「まぁ、モモタがいいっていうなら大丈夫さ」
 そう言ってオサルも部屋に戻ろうとしたその時、玄関の扉が開く音がした。僕らは顔を見合せて固まった。
「モモちゃん、みんな留守なんじゃなかったのか」イッヌが訊いた。
「僕もそう思ってたんだけど、これは想定外かも…」
 僕は少しチビりそうだったけど、イッヌの毛を握りしめて我慢した。
「どうするモモタ」オサルが訊いた時には手遅れだった。

 ガチャ…
「え、なに、どうしてみんな外に出ちゃってるの…」
 それはママさんだった。仕事に行ってるはずなのにどうして…
 ママさんはイッヌが持っている玉ねぎの袋を取り上げて、こう言った。
「こら、玉ねぎはダメでしょ。あなた達は食べれないんだから。これは私達が食べるのよ」
 僕の頭は真っ白になっていた。
「今日はカレーにするんだから、大好きな玉ねぎが入ってなかったら、みのむしがガッカリしちゃうよ」
 え?オニのオニオンじゃないの?僕らは食べれないけどママさん達は食べれるの?みにょの大好物なの?僕の頭の中はハテナでいっぱいだった。
 ママさんは僕らを部屋の中へ入れた。僕もオサルもケージへ戻された。
「じゃあ、もう出ちゃダメだからね」
 ママさんはそういうと、朝からずっと机に置きっぱなしになっていたスマホを手に取って、また家を出て行った。
 キジが塔の上から僕らに向けて言う。
「どうやら俺達の戦いは徒労に終わったのかもな。まぁ、俺はママさんにはバレてないからいいけどな」
 キジは悠々と足の毛ずくろいを始めた。
 つまり、オニオンは玉ねぎで、みにょは食べても大丈夫で、そうなると僕らはいったい今まで何の話をしてたんだ。僕はがっくしと肩を落とした。
「ごめんね、みんな。ママさんに怒られちゃった」
「まぁ、いいさ、オニオンには無事勝てたしさ、オイラはなんだか冒険できて楽しかったよ」
 オサルはハンモックにゆらゆら揺れながら、ママさんが置いていったバナナを美味しそうに頬張った。
「そうだね。大丈夫って分かったのも大きな成果じゃないか」
 イッヌもそう言って一度伸びをした後に、くるんと丸まって目を瞑った。
「ありがとう、みんな。みんなが元気ならそれでいいよね」
 僕もなんだか少し疲れちゃったみたい。今週は沢山頑張ったな。そんな事を考えていたら、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。



[完]



#白4企画応募
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蒔倉 みのむし
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