湯けむり温泉盗難事件♨️【短編小説】
今回、下書き再生工場のすのう工場長の元で働くことになりました蒔倉です。
出勤初日から仕事をやらかしたかもしれません😨
『湯けむり温泉盗難事件』を私に再生させてほしいと自分から願い出ておきながら、今となっては「ヤバい仕上がりになってしまった」と思っています…。
依頼者である黒夢さんには本当になんと言っていいものか。
私は、書きたいことが書けて満足しています。しかし、依頼者である黒夢さんや読者の皆様に楽しんで頂けるかは別問題。
どうか広い心で受け止めてください。
それではここから本編をお楽しみください。
『湯けむり温泉盗難事件♨️』
「極楽だ」
表情筋がゆっくり溶けてゆく。久々の温泉に筋肉も喜んでいるようだ。今日くらい自由にしよう。ようやく大会も終わって制限から解放されたんだ。
毎日ハードな筋トレと食事制限。好きでやっているとはいえ、たまには気分転換もしたくなる。いわゆるチートデイというやつだ。
湯けむりと一緒に届く温泉の匂いがたまらない。薄らとボヤけた視界の先には、他の客が数人見える。今日は楽してメガネにしたため、裸眼の今、相手の顔はのっぺらぼうに等しかった。
一人は見事なザビエル。一人は見事なビール腹。一人は標準体型。一人は俺と同じくらいのマッチョ。
そんな成で、いったいみんなどんな息子を持つのか気になるところではあるが、生憎裸眼の俺は仕方なく目を閉じた。
これまで大会のため筋肉ばかりに気を取られて、自分の息子に長らく構っていなかった。息子は拗ねてしまい最近は元気がない。そんな息子を見ていると、自然と周りの息子と比べてしまう。悪い癖だ。少し短くなった気がするが、それも気のせいだろうか。考えても仕方ない。
俺は湯から上がった。
♨️♨️♨️
タオルを手に取り頭から順に拭いていく。足先まで拭き終えて、メガネを手に取った。
クリアな視界に映るカゴ🧺。そこにあったはずの俺のパンツが、
「ない…」
あれは俺の大事なパンツ。この日のために準備したパンツ。あれがないとポージングに身が入らない。
どういうことだ…男湯でパンツが盗まれるなんてことがあるのか…
俺は無い頭で考えた。
まずパンツは目立つようにしっかりとカゴの中でも1番上に置いていた。少し光沢のある生地にラメが輝く。お気に入りの青いボディパンだ。
たしかに魅力的ではある。しかし、盗みたくなる程の物だろうか。まさか、形が形だから女物と勘違いした?いやしかし、ここは男湯。強いて言うなら『個性的なブリーフ』くらいにしか思えないはずだ。
湯けむりと俺の近視に紛れて大切なパンツを盗むなんて。いったい誰が…
俺は風呂で出会った男達を思い返した。あの時の男達はまだ脱衣所にいる。となれば、現行犯を押さえられるかもしれない。
あの男達の中で俺のパンツに目が眩むとすれば、やはりあのマッチョか。奴も俺と同じ界隈のマッチョかもしれない。
俺はマッチョが着替えている所を覗いた。
「なんてイカしたボディパンなんだ…」
俺は思わずマッチョのボディパンとパンパンにパンした太腿とケツに目を奪われた。
「負けた…それにあれは俺のボディパンじゃない」
俺は潔く自分のカゴの元へと戻った。
そうなればいったい誰が…
俺は辺りを見渡した。そして気づいた。さっきからずっと腰にタオルを巻いたまま、パンツを一向に履こうとしない男。
「怪しい…」
俺はパンツを探すフリをしながら、横目で男を見張った。
男は割とイケメンな青年だった。整った顔に体つきはそこそこ。標準体型よりは細マッチョと言ったところか。
青年はタイミングを見計らうように、腰にタオルを巻いたままトランクスを履こうとした。
しかし、俺はその瞬間を見逃さなかった…!
少し屈んだ時にタオルの切れ目から覗くラメ。輝くラメと光沢のある青い生地。
あれは…!俺のパンツ…!
俺は静かに青年に近づき、その腕を握った。
「お前、履いてるだろ」
青年は明らかに目のやり場に困っていた。俺のフルチンと脱衣所の床を青年の視線が彷徨う。
俺は青年のタオルを引っペがした。
「あ、いや、これは…」
青年は大事な部分を隠すように、穿いている俺のパンツを手で隠した。
「これ、俺のボディパンだよな」
青年は静かに頷いた。言い逃れはできない。しっかりと内側に俺は名前を書いている。
「返してくれないか」
俺は落ち着いた声で青年のパンツに指をかけ少し引くと軽く弾いた。
「す、すみません…」
青年は少し身をかがめ、申し訳なさそうにパンツを脱ぐと、それをキレイに折り畳んで俺に差し出した。
「まぁ、今回は見逃してやるよ」
俺はキレイに折り畳まれたパンツを広げて穿いた。このぴっちり感がたまらない。いつもは冷ややかなパンツだが、今回は股間に温もりが広がる。危うく俺の息子もその気配を感じ取りそうになる。
俺は誤魔化すように一度深呼吸をして、青年へ訊いた。
「なんでパンツなんか盗んだんだ」
青年はフルチンのまま、下を向いて話し出した。
「ちょっとパンツが気になって…」
おぉっと、そうだ。フルチンじゃねぇか。さすがにそれは可哀想だ。俺はそっと青年の肩に手を置いた。
「まぁ、一先ず穿きな」
青年は促されるままトランクスを穿いた。
俺達はパンツのまま、近くの椅子に腰掛けた。
「何か理由でもあったのか」
青年はゆっくりと口を開いた。
「穿いてみたくなって…」
「このパンツをか」
青年は頷いた。
「トランクスしか穿いたことなくて、どんな感じかなって…」
青年が言うには、輝くパンツとその穿き心地が気になって、ちょっと試したら直ぐに返そうと思っていたところ、穿いた直後に俺が上がってきてしまい、返そうにも返せなくなったとの事だった。
「…で、穿いてみてどうだったんだ」
「あ、えっと…イイ感じに収まって、少し強くなれた気がしました」
青年は少し照れたように言った。
「そうか、またいつか挑戦してみな。今度は人のじゃなくて自分で買ったやつをな」
「はい…すみませんでした」
こうして俺のボディパンは無事に返ってきた。俺は青年に別れを告げ、青年の小さな広背筋を見送った。
「良い男になれよ」
これを機にあの青年が逞しくなることを願い、俺は姿見に向かってサイドチェストをキメた。
立て続けにサイドトライセップスで上腕三頭筋も確認する。
次の大会ではもう少し脚を鍛えるべきか。俺もまだまだだな。
それから筋トレの日々は続き、翌年も絞り上げた肉体美で大会へ出場した。
大会の控え室では選手達がそれぞれ自由に過ごしている。極限まで仕上げるため、パンプアップで筋肉を追い込んでいると俺の元に一人の男が近づいてきた。
「あの…去年はご迷惑おかけして、すみませんでした」
そう言って、色黒マッチョの若僧が深々と頭を下げている。
「なんのはなしですか」こんな黒マッチョに迷惑なんてかけられた覚えはない。
人違いか何かなのか、俺は無い頭を巡らせた。
「えっと…去年、湯けむり温泉で…これを…」
若僧がボディパンを指に引っ掛けて軽く弾いた。
俺はハッとした。
「湯けむり温泉盗難事件の…!」
あの細マッチョ青年が、まさか、こんなに見違えるような色黒太マッチョになっていたとは…。
「はい、あの後、心を入れ替えてここまで来ました」
「そうか、いや、心も体もすっかり変わっていて驚いたよ」
俺は嬉しくなり、思わずガハハと笑みがこぼれる。
「あの時はすみませんでした。見逃して頂きありがとうございました」
「まぁいいさ、こうやって君と並べる日が来たんだから」
こうして俺達は正々堂々、あの頃のボディパンよりも遥かに輝く肉体を魅せ合うようにぶつかり合った。あの出会いが今日の同士であり、戦友を生んだ。筋肉は裏切らない。俺が青年の広背筋に語りかけたあの日から、今日の再会は決まっていたのかもしれない。
~完~
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