もし君が鳥だったら。【短編小説】
今回は青ブラ文学部さんのお題【鳥だったら】とシロクマ文芸部さんのお題【梅の花】を合わせて短編小説を書いてみました。
今回もお題にそって春来の日常を描いたシリーズもの『春夏秋冬・四季折々』をお楽しみ頂ければと思います。
〈登場人物〉
上都 春来
〈登場猫〉
???
暖かい春の日。
綺麗な梅の花に見とれて歩いていると、そこには耳をピクピクと動かし尻尾を丸め薄い桃色の毛をした君がいた。君は梅の木の上で目をつむり、ゆったりとした時を過ごしている。
穏やかな春の陽気に包まれ、僕はそんな君に見とれた。
近くの石に腰掛け借りていた本を開く。
少し暖かい緩やかな風が心地良い。
物語の半ばに差し掛かった頃、君は気まぐれに動き出した。
身軽な体で意図も簡単に梅の木を降り、軽やかな足取りで歩き始める。
僕は読んでいた物語を閉じ、そっと君の後を追った。
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そこは住宅街の細い脇道で、交差点にさしかかろうとしていた。
塀の向こうから聞こえた「ワンッ!」に君は驚いて走り出す。
危ない…!そう思った頃には手遅れだった。
君は目の前で車に轢かれた。ぶつかった車はその場を走り去っていった。耳に残るような鈍い音だった。
僕はまっしぐらに君の元へと駆け寄った。意識はないがかろうじて息はしていた。あの光景を見ていた限りでは、君の下半身に車がぶつかり軽くはね飛ばされたようだった。僕は急いで君を抱えて走った。近くの動物病院は1つしか知らない。それはここから約2キロは離れている所だった。
今はそんなことよりも君を助けたい。ただその一心で必死に走った。
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「助けてください!」
そう言って僕は病院の受付に駆け込んだ。
受付の人は驚きつつも、慌てる僕の話を落ち着いて聞いてくれた。
「分かりました。少しお預かりして診てみますね。」
そういうと、僕の腕からそっと君を抱き移した。
いったいどれだけ待っただろうか。僕はその後も不安から何も手につかず、ずっと膝を抱えたまま俯いていた。
「君があの子を運んできたのかな?」顔を上げると、お医者さんと思われる男の人が僕の前にしゃがんでいた。
「無事に終わったよ。もう大丈夫。あの子は強い子だね、運が良かった。」そういうと男の人は僕を診察室へと案内してくれた。
そこには穏やかな顔で眠っている君がいた。ちゃんと歩けるようになるまで日はかかるが、運がよく骨折だけで済んだと男の人は言った。
「生きててよかったです。」そう口にした途端、安心感からか、堪えていた涙が頬を伝った。男の人はそんな僕の頭にそっと手を添え軽く抱き寄せてくれた。
「ありがとうございました。連れて帰って飼えるか相談してみます。」
僕がそういうと、男の人は僕の頭をわしゃわしゃと撫でくりまわして言った。
「また困った時はいつでもおいで。」
僕は涙を拭きながら小さく頷いた。
それからは、女の人がシーツの敷いてある小さなダンボールを準備してくれて、君をそっと寝かせてくれた。
「先生がね、春来くんのおかげでこの子は助かったからって。」そういうと、その人はお金は要らないからと言って小さなパンフレットをくれた。
そこには君とのこれからが沢山詰まっていた。
小さな箱に眠る君を見ていると、なんだか少し笑顔になれた。
「元気になってね。」そう言いながら、僕はそっと君に触れた。
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家に連れ帰り、母へ君のことを伝えた。
「ほんとそういうところ、お父さんそっくり。」
母はそう言って笑いながら、眠っている君を優しくなでた。
病院でもらったパンフレットを見ると、その裏に君の体重や性別、今回の処置の内容などが書かれていた。どうやら君は女の子との事だった。
家族で名前を考え、出会いのきっかけとなった梅を使って『小梅』という名前にした。
小梅は今ではすっかり元気になって、オモチャを追いかけ走り回っている。
「良かったな。元気になれて。」
僕は遊ぶ小梅を見ながら小梅のご飯を準備し、足元へ置いた。そして、美味しそうに食べる小梅を傍で見守った。
「小梅が鳥だったら轢かれて怪我することもなかったのにね。」と、ご飯を食べ終えた小梅を優しくなでる。
「ウォン〜」と鳴く小梅の声はどこか悲し気に思えた気がした。
「もし鳥だったら僕と会えてなかったって?」と、小梅に尋ねる。なんだか僕は小梅にそう言われたような気がしたのだ。小梅は軽く毛繕いをし、ゆっくりと伸びをしている。
「そうだね。小梅が小梅で良かったよ。」僕はそう言って微笑んだ。
すると小梅は甘えたように喉を鳴らしながら「ミャーォ」とすり寄った。その時の小梅も少し微笑んでいるようだった。
了.
〈登場猫〉
小梅
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メインの小説は堪能されましたか。
この後にデザートでもいかがですか。
ということで、私がこれを書くに至った経緯や意図、その時の思いや感情などを知りたいと思った方はぜひ以下リンク先の『私の短編小説の書き方。【デザート】』を読んでみてください。
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