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それでいい、それがいい。【ショートショート】

 ──これで何回目だ?もう覚えちゃいない。何やったって無駄なんだ。俺には才能なんてありゃしない。

 目が覚めると泣いていた。涙…そうだ、俺はあの国を救えなかったんだ。いや、俺のせいであの国は──

 いつだって夢の中では自由だ。何者にだってなれる。それでも俺は、何者になったところで変わりはしない。結局、俺は俺でしかなかった。
「なぁ、クマ、お前が最後に言った別れの言葉はそういう意味か」
 クマからの返事はない。ここにクマは居ない。クマとは夢の中でしか会えないんだ。

 いったい俺は誰の人生を生きているんだろう。あの場所で、そうクマに問いかけた時、クマは静かに笑って答えた。
「誰って、誰でもないさ。いつだって自分の人生だよ。誰かになろうだなんて無理に決まってる。選択肢を選ぶのは常に自分なんだから」
 俺はその言葉に絶望した。あの時、国を救えなくて泣いてたんじゃない。俺は何者にもなれない俺に絶望して泣いていたんだ。

 現実が嫌で夢の世界に逃げたはずなのに、夢の中でも上手くいかないままだった。俺に居場所なんかない。生きていたって仕方ない。だから、世界ここから消えようとした。

 夢の中では何でも思い通りに選んだはずなのに、それでも思い通りの未来は訪れなかった。意に沿わなければやり直す。そうやって夢の中で人生を繰り返していた。この先、俺は何がしたい。何になりたい。何を手に入れたい。何の成長もしないのは、失敗のその先を知らないから。いつも知る前にリセットして新たな別の夢を始めていたから。
 本当にそれでいいのか?失敗のその先に、その人生の幸せはなかったと言い切れるのか?完璧な人生じゃないと生きる価値はないのか?教えてくれよ、クマ。

「…知りたいのなら、自分の眼で確かめてみな」

 そうクマに言われたような気がした。

 目が覚めると白い天井があった。俺の四方を淡く黄色いカーテンが囲う。
 …ここは、何処だ?

 …そうか、病院か。

 俺、死ねなかったんだ。いや、クマが最後のチャンスをくれたのか。
 誰かが俺の手を握ったまま、ベッドの脇で眠っている。それは見覚えのある姿だった。

「母さん…」

 握られた手は温かかった。

「心配かけてごめん。俺、もう一度、自分の人生を生きてみるよ」



【926字】


テーマ曲
『転生林檎』

*ハッピーエンド希望


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