それでいい、それがいい。【ショートショート】
──これで何回目だ?もう覚えちゃいない。何やったって無駄なんだ。俺には才能なんてありゃしない。
目が覚めると泣いていた。涙…そうだ、俺はあの国を救えなかったんだ。いや、俺のせいであの国は──
*
いつだって夢の中では自由だ。何者にだってなれる。それでも俺は、何者になったところで変わりはしない。結局、俺は俺でしかなかった。
「なぁ、クマ、お前が最後に言った別れの言葉はそういう意味か」
クマからの返事はない。ここにクマは居ない。クマとは夢の中でしか会えないんだ。
いったい俺は誰の人生を生きているんだろう。あの場所で、そうクマに問いかけた時、クマは静かに笑って答えた。
「誰って、誰でもないさ。いつだって自分の人生だよ。誰かになろうだなんて無理に決まってる。選択肢を選ぶのは常に自分なんだから」
俺はその言葉に絶望した。あの時、国を救えなくて泣いてたんじゃない。俺は何者にもなれない俺に絶望して泣いていたんだ。
現実が嫌で夢の世界に逃げたはずなのに、夢の中でも上手くいかないままだった。俺に居場所なんかない。生きていたって仕方ない。だから、世界から消えようとした。
夢の中では何でも思い通りに選んだはずなのに、それでも思い通りの未来は訪れなかった。意に沿わなければやり直す。そうやって夢の中で人生を繰り返していた。この先、俺は何がしたい。何になりたい。何を手に入れたい。何の成長もしないのは、失敗のその先を知らないから。いつも知る前にリセットして新たな別の夢を始めていたから。
本当にそれでいいのか?失敗のその先に、その人生の幸せはなかったと言い切れるのか?完璧な人生じゃないと生きる価値はないのか?教えてくれよ、クマ。
「…知りたいのなら、自分の眼で確かめてみな」
そうクマに言われたような気がした。
目が覚めると白い天井があった。俺の四方を淡く黄色いカーテンが囲う。
…ここは、何処だ?
…そうか、病院か。
俺、死ねなかったんだ。いや、クマが最後のチャンスをくれたのか。
誰かが俺の手を握ったまま、ベッドの脇で眠っている。それは見覚えのある姿だった。
「母さん…」
握られた手は温かかった。
「心配かけてごめん。俺、もう一度、自分の人生を生きてみるよ」
【926字】
テーマ曲
『転生林檎』
*ハッピーエンド希望
テルテルてる子さんの企画に参加しました。
少しでもお力になれればと思います(ノ_ _)ノ