祝福の裏に。【ショートショート】
思えば、あの人がいなくなってからというもの、あなただけが私の全てだった。あの人のいない寂しさを埋めるように、そして、あなたがその寂しさを感じないように、私はあなたと時間を共有してきた。
「ジュネ、これで良かったの」
あなたへ伝える言葉とは裏腹に、私は私の中にぽっかりと空いた穴を埋められないまま、微笑みの向こうは暗く透けていた。
あなたは優しいから私を置いていったりはしない。だけど、今はもうこの部屋にあなたは居なくて私一人。あなたと離れる、私がそう決めた。それでも、あなたの後ろ姿に思わず手を伸ばしそうになるのは、あなたの温もりをまだ感じていたいから。でも、もうあなたと一緒には居られない。
「アリアと、幸せになるのよ」
あなたはその言葉に優しく微笑んで頷いたけれど、その顔はどこか少し悲しそうだった。
これでいいの。あなたと次に会えることを喜べるのは、この寂しさを感じているから。
月明かりに照らされて奏でるオルゴールの音色だけが、今はこの部屋にある。その音色に合わせて回るメリーゴーランドの中に幼い頃のあなたが見えた気がした。こんな時にあの人が居てくれたなら、そう考えてしまうと不意に泪が頬を伝った。あの人が好きだったアマリリスの淡い香りが私を包み込む。これで、良かったのよね。
あの人がくれた鈴蘭の花束に、あの頃の私は救われた。あなたと生きていい、そう思えたの。それから私はあなたとの幸せを積み重ねてきた。あなたと生きる時間が私の幸せだった。だけど、次はあなたの幸せを生きる番。だから、アリアと二人で過ごす時間を大切にしなさい。
【テーマ曲】
ブーケ・ドュ・ミュゲ
企画、うたすと2に参加させて頂きました。
よろしくお願いします(-人-)
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