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季節に包まれて。【短編小説】
今回はシロクマ文芸部さんのお題【春と風】で始まるものと、青ブラ文学部さんのお題【見つからない言葉】を合わせて短編小説を書いてみました。
今回もお題にそって春来達の日常を描いた連作短編小説『春夏秋冬・四季折々』をお楽しみ頂ければと思います。
《登場人物》
上都 春来
箕里 秋人
《文中の登場人物》
真白 千冬
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「春と風だ。」
ふと、何故か僕はそう呟いてしまった。帰り道の暖かな陽気と緩やかに揺れる花や洗濯物にでも触発されたのだろうか。
「春と風?」
何言ってんだ?という顔で秋人が僕を見る。
「いや、なんかなんとなく…」僕はそれより先の言葉が見つからずにいた。
すると、何か面白いゲームを見つけたかのように秋人が調子付く。
「じゃあ、夏と海?」
「まぁ、夏なら海かもな。」と僕も考えてしまう。
「あー、でも、そうなると川もプールもあるのか〜」と、斜め上を向きながら秋人が呟く。
「んー、分かった。夏と水じゃない?」と、僕が言うと秋人はそれだ!と僕の方を振り返った。
「やっぱ冷たい水最高!って感じる時は夏だもんな。」
「たしかに、水で喜べるのって夏くらいだよね。」と、僕も頷く。
「夏の次は秋か…」春の溢れる帰り道、2人で歩きながら秋を探す。
「秋と…紅葉だろう!」秋人はしたり顔で言った後、「もみじ饅頭、あれ、美味いよな〜」と饅頭に思いを馳せている。
「それなら春と桜だろ?そして、桜餅。」と、僕が言うと秋人はたしかにな…と納得しつつ、
「え〜、秋ってなんだ…」と、真剣に頭を抱えだした。
「食欲の秋とか、読書の秋とか言うけどね…」いっぱい当てはまるのに、いっぱい当てはまりすぎてピンと来ない。
「秋がき〜た〜♪秋がき〜た〜♪どこへ〜来た〜♪」
「いや、それは春でしょ。」と歌いだす秋人に思わずツッコミを入れる。
「まぁ、そうなんだけどさ。」と秋人は笑っている。
「なんだろうなぁ。秋人の秋なんだから何かないの。」と僕は無茶振りをかました。
そう言われてもな〜と秋人はしかめっ面で、無い頭を必死で捻り悩んでいる。
そんな秋人を尻目に僕は冬を考えることにした。冬か…メジャーでいけば冬と雪とかかな、あ〜真白の冬でもあるのか〜と、好きな子の事を考えていると突然秋人が閃いたように声を上げた。
「分かったぞ、春来!」と、秋人はなんだかニヤついている。
「なに?いいの見つかった?」
僕のその問いに秋人は足を止めて言った。
「秋と…俺だ!秋と俺!秋と秋人!」
秋人の全力のドヤ顔に僕は思わずズッコケる。
「え、まさかのオヤジギャグ?まぁ、たしかに『秋と』だからね。」とズッコケつつも、実は面白くて少し笑ってしまう。
本当はもっと褒めてもいいと思ったけれど、秋人を天狗にしない程度の、僕の気持ちを代弁するような上手い褒め言葉が見つからず、秋人には内緒で僕の『心の座布団』をそっと1枚渡すことにした。
「でしょ?良くない?秋と言えば俺じゃない?」
秋人は僕が褒めなくても自画自賛して嬉しそうにしている。
「そうだね、いいの見つかって良かったね。あと残るは冬だけだよ。」と伝える。
「冬か〜」そう言いながら、目の前でスキップして回る秋人。なんだかそんな平和な日常に思わず笑みが溢れる。
「ん〜、冬と雪とか?」と、秋人が言う。
「僕もそう思った。」
「でもなんか、普通すぎるよな〜」
「あー分かる。なんかもっと捻りたいよね。」
そうして唯一無二の答えを見つけるため、僕らは冬の出来事をあげていくことにした。
「冬か、イベントならクリスマス?正月もあるか…」
「寒いとかもイマイチだよね…」
「雪とか寒いとかThe冬って感じだけどな。」
「共通してるのは冷たいってことか…」
「冬と冷たい…」秋人はまだ腑に落ちない様子だ。
「冷たいの嫌だよな。冬なら温まりたいし。」
「そうだね、冷たいよりも温かい?冬と…温?いや…熱?」
「熱?冬と熱。あ〜、たしかに春来、毎年風邪引いて熱出すしな。」と秋人が笑う。
「それは仕方ないだろ〜。秋人だって人肌恋しい〜とか言ってんじゃん。」僕は少し恥ずかしい気持ちを隠したくて、冬の秋人は恋の熱にあてられてるんじゃないの〜と、秋人を茶化した。
秋人はポッケに手を突っ込んだまま、少し大袈裟に軽い膝蹴りを僕の背中にかまして、
「うるせぇ、俺は至って健全な健康優良男児なの!冬は女の子と居たくなるもんなの!」と、少し赤らめた頬で吠える。
僕は、はいはいと軽くあしらいつつ、「優良なのは丈夫な体だけね。」と笑って答えた。
春と風、きっと太陽も花も、なんなら季節総出で図らずも僕らを包んでいて、そんな季節を僕らは肌で感じている。
僕らは今、春を生きている。
了.
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メインの小説は堪能されましたか。
この後にデザートでもいかがですか。
ということで、私がこれを書くに至った経緯や意図、その時の思いや感情などを知りたいと思った方はぜひ以下リンク先の『春夏秋冬といえば。【デザート】』を読んでみてください。
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