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揺らぎ。【掌編小説】シロクマ文芸部

 寒い日に温かいものが欲しかった。
 それはきっと優しさという温かさで、私だけを見てくれる瞳だった。私は誰かの特別になりたかった。自分の存在価値が欲しかった。

 プライベートでも仕事でも大切にされている気がしない。当たり前だ。みんな他人で、みんな自分を可愛がって欲しいのだから、他人を大切にする余裕なんてないのだ。そう思っていた。しかし、それは違った。それは自分の思いを勝手に他者へ投影しているだけだった。

 私はこの寂しさを紛らわしたいだけで、ただそれだけで、そこに誠意も愛も何も無かった。ただ我儘で、悪戯に玩ぶように自分を汚して、相手を汚して、その場しのぎで心の穴を埋めていただけ。都合のいい勘違いをしていたに過ぎない。でも、それでもよかった。

 だから、手を出した。
 温もりをくれそうな人を見つけては、少しずつ蝕むように。
 あなたはこの関係をがんじがらめのように感じたのかもしれない。それから、あなたの熱が少しずつ冷めていくようだった。いや、覚めたという方が正しいのかもしれない。

 私はまた、一人になった。



#なんのはなしですか
#どうでもいいか
#どうかしているとしか


#シロクマ文芸部


久々に参加してみました。



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蒔倉 みのむし
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