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〇〇と僕『た』~高尾山と僕~

東京都八王子市に位置する高尾山。
標高は599メートル。
都心から近く、年間を通して多くの観光客、登山者で賑わう。
僕がこの山に出会ったのは、5年前の5月。
空高く晴れたある日であった。


12年続けたバンド活動おしまい!
よーし、遊ぶぞー!って、以前から興味があった山登りを始めることにした。
東京に来る前から交流があり、「東京に来たら一緒に山行こう。」と言ってくれていた友人に山登りのいろはを教えてもらおうと思っていたが、なかなか予定が合わない。
こうなったら仕方ない。
一緒に行くのはまた今度。
不安だらけだが、まずは自分で行くしかない。
ってな訳で、ネットで色々と調べた。
「登山 持ち物 初心者」
検索!
「登山 東京近郊 初心者」
検索!
「登山 中央線 高時給 賄い付き」
違う!!

色々と調べた結果、高尾山という山を見付けた。
電車で1時間もかからない。
そして初心者、子どもでも登ることが出来ると書いてある。
初登山にはうってつけ。
よし。
僕は高尾山に決めた。

日にちを決めて、さて、準備である。
しかし、何をどうすれば良いのか全くわからん。
荷物は出来るだけ最小限に、と書いてあったが、不安すぎて色々と持っていきたい。
もし道に迷ったら、もしケガをしたら、もし山賊に囲まれたら、なんてやっていたら、結局リュックはとんでもない重さになってしまった。
さて次は、何を着て、何を履くべきか。
すべて新調するとなると、一体いくらかかることやら。
しかし、子どもでも登れる山なんだから、気合いでなんとかなるだろう。
ってことで、家にある一番動きやすい服と、走る時に使っていた1500円のランニングシューズで挑むことにした。

いよいよ当日。
6時起床、7時に家を出た。
この時点ですでに半袖で歩ける、夏並みに暑い日だった。
電車では、デカイ荷物を持っているため「なんだよコイツ。」って顔で見られながら、45分間耐える。
やっと到着。
電車を降り、パンフレットの地図を広げてうろうろ。
かなり挙動不審だったに違いないが、なんとか登山道入口にたどり着いた。
登山ルートが書かれた看板を見て、最も時間のかかる道を選択。
いざ、高尾山!!
やあぁ!

勢いよく登り始めたが、開始10分、もうキツい。
そりゃそうだ。
バンド時代はほぼ毎日走っていたが、その年の1月にすべてのやる気を失い、トレーニングをパッタリ止め、酒を飲み散らかしていた。
太ももガクガク、心臓バクバク。
おじいちゃんにすら追い越される。
それでも必死に登った。
最初はどうなることやらと思ったが、進むにつれて少しずつ山の道にも慣れてきた。
終盤には景色を見る余裕も出てきた。

そして、もうひと頑張りで頂上かなってところで、悲劇は起きた。
目の前には終わりの見えない階段。
別にこれは悲劇ではない。
どうやらこれを登りきったら待ちに待った頂上のようだ。
あと一息!いくぞー!
って階段を登り始め、10段くらいの場所でヤツは来た。
う〇こだ。
すごくしたい。
いますぐしたい。
トイレは登山道の入口か頂上にしかない。
頂上はまだ見えない。
しかし、いま、したい。
周りにはそこそこ人がいるし、道を逸れれば木枝がボーボー、その辺で済ますのは無理だ。
こうなったら、爆発するのが先か、頂上のトイレにたどり着くのが先か、勝負に出るしかない。
うりゃー!!

僕は走った。
我を忘れて階段をかけ上がった。
さっき僕を追い抜いたおじいちゃんを抜き返し、僕は頂上に向かってひたすら走った。
汗が目に入っても、鼻水が吹き出しても、一切構わず走り続けた。
何故か疲れを感じなかった。
どこまでも走れるような感覚に陥ったが、腹痛がまた僕を現実に引き戻した。
唇を噛みしめ、滲んだ血の味を感じながら、僕は走った。

登山とは人生だ。
生と死が常に隣り合わせで存在するサバイバルなのだ。
1歩足を踏み入れた瞬間からそれは始まっていて、引き返すことは許されない。
生きて戻るか、山の土になるか、どちらか一方しかないのだ。
僕は生きる。
そのために、僕は走った。
木々に囲まれた階段の先が、少しずつ明るくなってきた。
もう少し、もう少しだ。
目が少し霞んできたが、もう一度唇を噛みしめて、僕は走った。

僕は勝った。
間に合ったのだ。
最後の階段から見える景色がどんな風だったかなんて、全く覚えていない。
とにかく僕は勝ったのだ。

その後頂上でおにぎりを食べて、無事下山した。
お陰で絶対に忘れない、素敵な初登山になった。
ただ、やっぱり1500円のランニングシューズはいけなかった。
登りは良いが、下りは爪先がちぎれそうになる。
この日僕は家に帰り、シャワーを浴び、自転車で吉祥寺へ。
ランニングシューズの10倍、15000円のトレッキングシューズを買った。
夜はそれを眺めながらビールを飲んだ。


それから、高尾山には何度も行っている。
観光客で賑わう頂上から少し離れた奥高尾と呼ばれる場所で、澄んだ空気と静けさの中食べるラーメンとおにぎりは最高だ。
もちろん食後のコーヒーも格別。

僕はこれからも高尾山に登るだろう。
そしてラーメンとおにぎりを食べ、コーヒーを飲むだろう。
登り始める前には必ずトイレを済ますだろう。
僕は人間。
嗚呼人間。
人間とはその辺で用をたさず、日々学ぶ生き物なのだ。


『311 / Creatures (For A While)』を聞きながら
FJALLRAVEN by 3NITY TOKYO  池守

『〇〇と僕』←過去の記事はこちらからお読みいただけます!是非!

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