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東京の桜

マックも無ぇ、TSUTAYAも無ぇ、
若者まったく歩いて無ぇ。
ケンタも無ぇ、松屋も無ぇ、
除雪車毎日ぐーるぐる。

1日に、2、3回、
雪をかかなきゃ家埋まる。
映画も無ぇ、ライブも無ぇ、
オラの町には雪しかねぇ!

オラこんな町やだ!!

ってな訳で、早く出たくて仕方なかった僕の故郷は北海道虻田郡倶知安町。札幌市の左下に位置する、羊蹄山とニセコ連峰に囲まれた自然豊かな町だ。

念願叶ってようやく脱出することが出来たのは高校卒業後。
札幌の大学に進学し、夢だった都会での一人暮らし。

マックもある、TSUTAYAもある。
ケンタも松屋もミスドもある。
雪は降るが、玄関が埋まるほどは降らないから、まぁ良しとしよう。
はい、此処まさに天国、嗚呼天国。

そんでその天国でヘラヘラ暮らすこと10年。
歩いている時も座っている時も、病める時も健やかなる時も、とにかく四六時中ヘラヘラしていたもんだから生活はすさみ放題。
髪も髭も伸び放題。
部屋を転がる焼酎のビン、ぺちゃんこの布団。
冷蔵庫には納豆、ポツン。

こりゃあ、いかんよ。いかん。
多分、月の満ち欠けがうんちゃらとか、どっかの惑星がうん万年に1度どこそこに近づくみたいなやつで、運気の流れが悪くなってるんだろう。
うん、そうに違いねぇ。
となれば、さらなる天国を求め移動するしかない!
よし、決めた!
オラ、東京さ行ぐだぁ!

っとまぁ、こんな具合で僕は東京にやってきた。
雪に埋もれた故郷を飛び出してから10年。
倶知安町で生まれ育った生粋の田舎モンがついに日本国の首都、東京の地に立ったのである。

憧れの場所、東京。
マックもある、TSUTAYAもある、
なぁんて騒ぎじゃねぇ。
東京には無ぇ物が無ぇ。
要するになんでもある。
はい、此処まさに天国、嗚呼天国。
雪がほとんど降らないってことは、札幌以上の天国に違いない。

しかし、東京は甘くなかった。

なぜ洗濯機が外に?
車庫がないけどどうすんの?
玄関開けたらすぐ外ってどういうこと?
窓が1枚?
に、に、人間って、こんなにいたんだ……。

右見て、ビックリ。
左見て、ビックリ。
まばたき、パチクリ、まぁ大変。

未知の世界の景色と音が、頭の中をグルングルンと駆け巡り、理解がまったく追いつかない。
1秒1秒必死になって平然を取り繕っているうちに1年はあっという間に過ぎ、僕は2回目の東京の春を迎えた。

西荻窪のワンルームは、まさに地獄。
阿鼻叫喚の極み。
部屋の半分がベッド。
積み重なって今にも倒れそうな本とCDの山。
玄関にはズタボロのスニーカー、ポツン。

こりゃあ、いかんよ。いかん。
完全に東京にやられているじゃない。
いっそのこと故郷に帰ろうか。
あんなに出たくて仕方なかった故郷だけれども、今はその素晴らしさが痛いほどわかるよ。わかる。
でもね、こりゃあ逃げたことにならんかね?
どうだい?
なるか? ならんか?
んー。やっぱりなるね。
逃げるとなると、結局はどこへ行ったって待っているのは地獄だよ。
それはいかんよ。いかん。
となれば、よし、オラがこの暮らしを天国に変えるのだぁ!

よし、じゃあね、まずは靴を買おう。
ってことで早速、猫背を引きずり吉祥寺へ。
最初に目に入った靴屋でスニーカーを新調、ドブで煮詰めたような色した古いスニーカーをゴミ箱にポイ。
これでバッチリ、バッチグー。
新たなスタートに乾杯でもしようかねってことで、缶ビールを買い井の頭公園へ向かった。

公園に近づくにつれて人、人、人。
一体何の騒ぎだい?
って公園へ下る階段の上にたどりついた時、人、人、人の理由が判明。

そうか、桜か。

そりゃぁ、まぁ、綺麗な桜。
1年前は引越しやら職探しやらでてんてこ舞い。
桜なんぞ花びら1枚も見ていなかったもんだから、東京の桜を凝視するのは初めて。
まぁ、綺麗。
故郷の桜とは品種も違うし、数も東京の方が圧倒的に多い。
あまりの美しさに魅了された僕は、時を忘れて桜を見上げた。
右手にはぬるくなっていく缶ビール、ポツン。

東京は甘くないよ。
1年暮らしてよくわかった。
これから先も、辛いことがあるだろうよ。
下を向きたくなることもあるだろうよ。
しかしねぇ、それが人生。
そんで1年間頑張って、春にはまた桜を見上げて背筋を伸ばそうじゃない。そうすりゃ血の池地獄だろうが針山地獄だろうが、しっかり前を見て歩いていけるってもんよ。
ってなわけで、僕は東京で強く生きていくことを桜の下で誓った。
そうだそうだ、新たなスタートに乾杯。
ぐびり。
わお! ぬるいっ!

そんなこんなで、今年も桜の季節がやってきた。
東京で迎える5度目の春だ。
最近は幸いなことに割と楽しくやっているが、昨年は初めてのことだらけで常に膝から下がグラグラしていた気がする。
今年は桜を見上げるのではなく、足元に張り巡らされている根の強さを両足で感じてみようと思う。
そしてまた来年の春まで、僕は東京で強く生きようと思う。

『くるり / 東京』  を聞きながら
FJALLRAVEN by 3NITY TOKYO 池守


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