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〇〇と僕『な』~夏と僕~

東京に暮らし始めて6年が経ちました。
初めの年は、白南風を味わう間もなく風は死に、あまりの炎暑に歪んだ月を見て驚きました。
しかし、今は東京の夏が好きです。
これ程までに好きになるとは思ってもみませんでした。

東京の夏に比べ、故郷の夏は瞬間の出来事です。
盆が終われば、ひと月も経たない内に、雪を感じる風が吹きます。
そんな短い夏しか知らずに育ったせいでしょうか、東京の長い夏には、言葉では説明が困難な高ぶりを覚えるようになりました。

今年の夏も楽しみました。
外出自粛の中思うように遠出も出来ず、例年ほど夏を堪能し切れなかったものの、オリンピック・パラリンピックでは何度も心熱くなる瞬間がありました。
雨に振られる日も多い年でしたが、夏と同時に始めたダイエットは順調に進み、ようやく本来の顔の形が見えてきました。
今年も素敵な夏でした。


眠りを妨げるほどに鳴り響いていた蝉の声が鈴虫の声に変わり、その弱々しい声の隙間を縫うように、律の風が吹き始めたことに気が付いたのは、つい先日のことです。
寂しさはありますが、陽が落ちる度に深まっていく秋が楽しみでもあります。
日に日に夜の訪れが早くなり、日に日に空気が澄んでいき、日に日に月の輪郭がはっきりとなっていきます。
僕は秋の月が一番好きです。

月には不思議な引力があるように感じます。
地球と一定の距離を保ちながら回り続ける為の物理的な力だけではなく、人間の心を引き付けて止まない大きな力を、僕らが生まれる遥か昔から持っていたのではないでしょうか。
そして僕も、訳の解らぬままその力に引かれ続ける1人でした。
しかし、先日出会った一句が、すんなりと引力の正体を説明してくれました。

今日よりは 誰に見立てん 秋の月

夏目漱石が24歳の頃に詠んだ句です。
自ら光を放つことは出来ない月があれほどまでに強く輝くのは、何万年、何億年もの間、人々が想いを写し続けた結果なのかもしれません。


9月21日、今夜は中秋の名月。
中秋の名月と満月が重なるのは8年振りだそうです。
コロナ禍で会いたい人にも会えないいま。
誰かの顔を思い浮かべながら月を見上げた人々の想いが、中秋の名月という特別な夜に月を満たすのだろうと思います。

なんつって。

お後がよろしいようで。
それでは皆様、素敵なお月見を。


『フジファブリック / 若者のすべて』を聞きながら
FJALLRAVEN by 3NITY TOKYO 池守


『〇〇と僕』
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