映画「風と共に去りぬ」と南部アメリカ
「風と共に去りぬ」って、どんな映画?
年代:1939年
分野:大河ドラマ
撮影:テクニカラー、当初はスタンダードサイズ、後に70mm化された
時間:3時間42分(前後編、途中で休憩が入る)
物語をひとことで言うと
南部の大地主の娘、スカーレット・オハラが、南北戦争当時のアメリカでどう生き残るかを描く。
アメリカ南部の大地主、オハラ家の長女スカーレットは自由奔放に生きている。攻撃的な性格だが狭い地域で男達には人気。すり寄ってくる同世代の男達をあしらいながらも、その視線は常に意中の男アシュレーに向けられている。
オハラ家には男の子がおらず、スカーレットがやがて広大な農園(綿花を栽培)、農園で働く奴隷達を継ぐ家長となる運命にあるのだが、若いスカーレットはそんな事を気にせず静かで深い恋心を燃やしている。
やがて、スカーレットの前にはアシュレイとは比べようがないシニア、レット・バトラーが登場。スカーレットの恋がさまよう中、アメリカ全土は南北戦争に突入。一家は良き南部の時代を失い、新たな世界へ突入していく。
映画界のマーケティング戦略に飲み込まれる
当時、「風とともに去りぬ(※)」本邦最後のロードショーと宣伝されていて(確かにその通りになったかもしれない)、その言葉につられて見に行った。私同様つられて見に行った人々が劇場の周りにとぐろを巻いており、その余りの多さに大変驚いた記憶がある。しかも、そのほとんどは女性だった。理由は見て分かった。女性が泣ける作品なのである。
私は、女性が圧倒的多数を占めるイベントに、うかうかと出かけて気まずい思いをする事が時々ある。その走りがこれだったと思う。自分と同年齢の男はほぼゼロ。どうしようか迷ったのだが、前売りのチケットを持っていたので諦めて列に並んだ。
超満員で立ち見もかなりいた。当時はロードショーでも着席定員を遥かに超えて入場させていたし、基本自由席だったので、人気作なら立ち見は珍しくはなかった。自分はちゃっかり座ったのだが前後編、約4時間の大作。立っている女性に申し訳ない気になった。
オリジナルサウンドトラックのレコード(EP版)も購入。タイトルバックの音楽は印象的。音楽は大河ドラマの重要な要素だ。
次は、公開75周年を記念して作られたパッケージ(DVD、BD)のトレイラー、経緯は分からないがWB(ワーナーブラザース)が提供している。
印象的な登場人物、出来事
スカーレットを演じたヴィヴィアン・リー(※)、レット・バトラーを演じたクラーク・ゲーブル(※)について、いずれも「濃いなあ」という印象だった。スカーレットには近寄りがたい屈折感があった。この印象だが、後年、スカーレットを演じたヴィヴィアン・リー自身が持っていたのではないかと考えるようになった。彼女がどんな人生を送ったのかを知れば理解できるかもしれない。
それ以外で印象に残ったのは南部のプランテーション農業の様子。大地主の日常、南北戦争当時の描写、1864年に起きたアトランタ大火災の描写などであったと思う。
当時、日本以外を知らなかった自分にとって、過去のアメリカ、それも南部アメリカというものは遠い存在で、自分との接点は何もなかった。時代感も良く理解できておらず、マーガレット・ミッチェル(※)も知らず、ただただ広告に乗せられて見たというのが現実だった。我ながらカモであったと思う。宣伝を鵜呑みにしていた時代。
気に入った作品は反芻したい
この映画を見た頃は、洋画の影響で英語にはまっていた。当時はビデオもなく(世の中にはあったが庶民に買える値段ではなくテープが高額)DVDもない時代。同じ作品を再度見たければ映画館しかない。いつも公開されている訳ではなく、映画館以外ではテレビ放映を待つしかない。テレビでは日本語吹き替えが普通(字幕放映もあったが少なかった)。原語を聞きたい場合は映画館しかない。
どうしても原語を把握したい私はテープレコーダー(厚めのB5版ノートPCを2つ重ねたような大きさ)を持ち込み録音する暴挙に出た。全編録音したか覚えていない。何しろ3時間42分の大作。120分テープなら3本必要で5回はテープを裏返す必要があった(若い方には意味不明だと思う)。しかも電池駆動(確か単二6本?)、電池がもったかも怪しい。
結局は1回聞いただけだったと思う。劇場内で雑音も多く、テープ再生は頭出しも出来ないし巻き戻しも不便。大変な割には得られるものが少なく、自分が聞くだけとはいえ後ろめたさも拭えず(現在では刑事罰の対象)、その後はやめた。。
今はオンデマンドで見られる良い時代だとつくづく思う。あの時の苦労は一体何だったのだろうか。82年も前の作品で今やPD(パブリックドメイン)のはず。廉価DVDなら千円以下で手に入るかもしれない。
当時の南部アメリカと、変わる様子を映像化
この作品では農場主の白人と奴隷の黒人が共存、両者が主従という形で描かれていないのが不思議だった。奴隷は奴隷なんだろうが鞭打たれるような対象として描かれていない。スカーレットの侍女は特にそうである。
時代背景として鍵となる南北戦争頃の場面、町中に多数の傷ついた人が倒れているモブシーンを撮るクレーンショットが印象的。この映画には戦争の血生臭い場面は確かなく悲劇的背景を戦傷者の姿で描いた。
南北戦争は1861年から1865年、日本に置き換えると江戸時代末期の出来事。リンカーンの時代。奴隷解放という後年に出来た大義に隠れ色々背景があった。もともとは一つの国家ではない米国が2チームに分かれて戦った凄まじく大規模な内戦。その時に使われた銃は戦争終了後に日本に輸入され薩長対幕府の戦いに使用されたという噂もある。旧体制が新体制に敗れる戦いには謎も多い。黒澤明の「七人の侍」の台詞「勝ったのは百姓だ!」をもじって「勝ったのは武器商人だ市民ではない」と言う人がいたとか。
関連書籍も多数存在
「風とともに去りぬ」のアメリカ、という下の本には南部アメリカと人種問題が書かれている。マーガレット・ミッチェルの原作「風とともに去りぬ」を愛読していたという著者が、映画「風とともに去りぬ」の舞台となったタラ屋敷の事、その場所、アトランタという土地の事についても書いているので映画理解の参考になる。アトランタは日本の福岡市と姉妹都市協定を結んでいる。
メイキング本
下の文庫版写真集は、写真はもちろん、撮影風景、華麗な衣装、舞台裏などを紹介するメーキングものと言って良い本。マーガレット・ミッチェルの人となりからスタートし、企画、制作準備、撮影、セット、コスチューム、メイクアップ、ポスプロ(撮影後の編集作業他)からアカデミー賞受賞式までを系統立てて詳細に紹介しており、写真も多数載せているので、この作品のファンにはたまらない内容だと思う。制作当時の関係者の息吹が聞こえてくるような本、映画黄金期ならではの背景描写となっている。
南北戦争後に統合し157年ほどが経過したアメリカ合衆国だが、再度分裂の気配が漂う不安定な情勢と聞く。今後アメリカのカルチャーが大きく変わったり、その流れが世界中に影響し今まであった社会が風に乗って消えたとしても、人の心の動きの基本は、この映画が描いているように変わらないと信じたい。
キャスト、監督、スタッフ、制作会社など
キャスト
出演:ヴィヴィアン・リー、クラーク・ゲーブル、オリビア・デ・ハビランド(※)、レスリー・ハワード(※)
監督、スタッフ
制作:デイビッド・O・セルズニック(※)
原作:マーガレット・ミッチェル
監督:ヴィクター・フレミング(※)(ジョージ・キューカー(※)が当初の監督)
音楽:マックス・スタイナー(※)
制作会社、配給会社
制作:MGM
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