「ミッドナイト・イン・パリ」でアマプラにはまる
「ミッドナイト・イン・パリ」って、どんな映画?
アマゾンのプライム会員になったのは送料が無料になる点が主な理由。当初プライムビデオはほぼ見ていなかった。というのは、仕事の関係もあり、ゆっくり映画を見るような時間的余裕が無かったためだと思う。
せっかく会費払っているのにもったいない。そんな気持ちで見たのが、若い頃に見た往年の名作というか古典だった。良く覚えてはいないのだが、多分、「黄色いリボン」が最初だったと思う。それ以後、昔の作品をいくつか見た。
レンタルビデオやDVDの代わりに見る。そんなスタートで特別感は無かった。最近の作品には興味が沸かず情報も持っていなかった。一人でタブレットで見るという経験も初めて。映画を劇場で見るというイメージではなく、過去の記憶や経験を呼び起こすためのきっかけ程度でしかなかった。
ところが、突然世の中が変わり通勤が無くなってしまった。浮いた時間(かなりの時間が浮いた)を何に使う事になったかというと実は色々あるのだが、その一つがアマプラの活用だった。古典的作品以外では何があるのか検索している内にたどり着いた内の一つがこの作品(※)。
実は、最初は映画館で見ないと映画を見たとは言えないという気持ちがあったた。こんな見方(タブレットで見る)には抵抗があったにも関わらず作品の面白さに負けてしまった。この作品を含めいくつかの未鑑賞作を見てから以後、アマプラは私の良きパートナーとなった。
年代:2012年
分野:渇いた現代人向けメルヘンドラマ
撮影:カラー
時間:1時間33分
物語をひとことで紹介
映画脚本家のギルは婚約者とパリに来ている。パリの空気は二人を異なる方向に誘導する。婚約者は現実の恋に、ギルは古き良き時代、ノスタルジーの世界に彷徨い出す。
ハリウッドの映画脚本家のギルは、婚約者のイネスと、その両親と一緒にパリに来ている。ギルはパリが気に入るがイネスは全く違うし、その親、特に実業家の父親とは考え方が一致しない。
イネスがギルの態度に不満を漏らす中、偶然イネスの男友達夫婦と出会い一緒にパリ観光に出かける事になる。二組のカップルが一緒に行動を進める内、パリの空気はギルとイネスにそれぞれ異なる作用をもたらし互いのギャップは更に深く広がっていく。
ギルはパリの世界に陶酔しイネスは古い恋に火が付く結果となる。夜12時を過ぎた頃にギルのイマジネーションは現実化し、彼は一人、古き良き時代に吸い込まれていってしまう。そこで出会ったのは、ギルが憧れていた文豪、作家達であった。
現在に生きる人たち
ギル・ペンダーと婚約者イネス、イネスの友人ポールと妻キャロル、パリっ子のガブリエル
過去の人たち
スコット・フィッツジェラルドとゼルダ、ヘミングウェイ、ピカソとその恋人アドリアナ、ダリ、ルイス・ブニュエル、マン・レイ・・
アマプラにはまった大きな理由
アマプラにはまった背景の1つは、ウッディ・アレンの作品を見たことが無かったため。重大な告白をしなければならない。長年、映画研究会に所属していながら何とウッディー・アレンの作品を見たことがなかったのである。これは多分、重罪に等しい。せめて「アニーホール」位は見ていて然るべきなのだが、映画館で見るのを逃したというか、実はあまり興味が持てず今日に至っていた。
ウッディー・アレンとは何者か?映研内では昔から評判は聞こえていた。写真は見たけど何か貧相なしょぼくれたイメージ。きっと話の中身が良いのだろうが、この人のどこが良いのか見当がつかない。が以後何十年も続いていて、その内に見ていない事を恥ずかしがる環境もなくなり忘却の彼方へ行っていた。そんな昔から活躍していた<俳優兼監督><監督兼俳優>。この作品にウッディー・アレンは出演していない。
過去の不行跡を挽回すべく、挽回したところで報告する相手も既にいないのだが、せめて一作ぐらい見なければという軽い気持ちで見たのがこれだった。結果的に何度見ただろうか。もう一度見たい作品(現在はアマプラでは見られない様子)。
懐古趣味を美化している訳でもない
徹底的な懐古趣味が最高である。古き良き時代への憧れを持つ人の気持ちが代弁されている。同時にノスタルジーのはかなさ、非現実性、非現実の世界に身を委ねた事によって現実と自分の想いとのギャップが明確化される事が描かれている。甘くて辛い作品である。
この作品だが、もし恋愛中のカップルが見たら全く異なる感想を言うかも知れない。ギルとイネスのどちらに共感するかが気になる点である。もし二人とも同じ意見だったとすれば、それはそれで何かがおかしいのかもしれない。
映画館で見る事が難しかった時期
もし今の世の中がこうではなく、かつアマプラ会員でなければ、きっとこの作品には出会っていなかったかもしれない。もし映画館でリバイバル上映されたとしても気付くことはなかっただろうし、こんな作品を上映する映画館があるとも思えない。シネコン向きの映画ではないし名画座はほぼ絶滅状態である。最近では、映画館に出かけることに気が向かなくなった。
偶然の発見とはいえウッディー・アレン作品に出会えたのは幸運で、このような作品を見落とさないよう更に検索をしてみる必要性も感じている。とはいっても没頭するつもりもない。こんな状態が今後も続くことを喜ぶつもりは無く、むしろ、アナログなものが溢れていた昔の不便な日常の方がましであるとさえ思う。
私にとって2年ほど前の不便な時代は既にノスタルジーの世界になってしまったが、そこから新たな現実の世界へ向かう元気はなく、どちらかというと、そこへ帰る道がどこにあるか、ドロシーのように探したいと思っている。だから、きっと私はギル派である。
現代人のシンデレラリバティー
印象的なシーンとか気になった場面ギルがパリの町を夜彷徨う。そして12時の鐘の音。ギルはシンデレラの主人公のように行動を始める。シンデレラ・リバティー、普通は現実の世界に戻るのが夜の12時。ギルの現実の世界は非現実の世界だから12時からスタートする。
そこで起こることが現実なのか空想なのかは問題ではない。ギルの頭の中にある本来の自分が一気に噴出する場面、2世界の対比が描かれていく変化点となる場面だ。変化点以降の体験はギルの現実逃避の空想にしか見えないかもしれないが、変化点以前の現実が果たして自分が受け入れるべき現実なのか、向かうべき重要な道筋であるのかどうかが描かれていく重要な分岐点となっている。
作品中の出来事や背景、情景描写など
ギルが現実世界と決別し、新たな現実に新たなパートナーと向かおうとする場面で雨が降ってくる。雨の中、ギルと新たなパートナーが、その雨の中を一緒に歩いて行く、画面的には湿っぽい場面なのだが、パリの雨は<雨>では無いように描かれている。
雨は変化点以前の現実を洗い流していくのだが、洗い流した後にはノスタルジーの世界を土台としたソフトな未来が見えてくる。このシーン、新たなパートナーの素朴な笑顔がとても良いと思う。物語は全く違うのだが、新たな世界に、今までの生活を捨てカップルで立ち向かっていく姿がチャップリンの「モダンタイムズ」のラストシーンと少し似ている気がした。
キャスト、監督、スタッフ、制作会社など
キャスト
出演:オーウェン・ウイルソン、キャシー・ベイツ、エイドリアン・ブロディ、カーラ・ブルーニ、レイチェル・マクアダムズ
監督、スタッフ
監督:ウッディー・アレン
制作会社、配給会社
配給:角川(アマプラの場合)
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