○○を卒業します
Twitterのトレンドに「卒業発表」が入っていて、何の疑問も持たずにアイドルの話題だと思いました。
と同時に、本来の「学校の課程を修了すること」という意味を押しのけてここまで“アイドルの単語”になっていることに驚きました。
アイドルがグループを脱退する、抜ける、やめる。
それを「卒業」と表現することで、これまでの歩みを称えたり、これからの門出を祝ったりするニュアンスを帯びてきます。
たとえ円満な脱退ではなかったとしても、表向きに「卒業」と言ってしまえばそのメンバーは祝福のなか送り出される。バンドなんかでは「勇退」という表現も用いられます。
脱退と卒業の違いについてはこちらの記事が詳しいです。
そんなポジティブな空気を纏う「卒業」を、もう少し詳しく見てみます。
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そもそもは先述の通り「学校の課程を修了すること」を意味し、
息子が小学校を卒業した。
とか
自動車教習所を卒業したら、ようやく車を運転できる。
のように使います。
そのほか、「ある時期や段階を通り過ぎること」という意味も辞書に載っています。
もうオタク趣味は卒業した。
とか
いい加減、金欠ニートを卒業したい。
のような使い方です。
尾崎豊の
この支配からの卒業 闘いからの卒業
も、支配や闘いといった抑圧の段階を通過し、解放されることへの渇望を歌った名曲です(たぶん)。
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これを踏まえると、「卒業」には2つの意味合いがありそうです。
①
学校の課程やアイドル活動のような、
ポジティブな積み重ねを糧としてさらに先のステップへと進む「卒業」
②
ネガティブな現状から抜け出して、
新たなステージに進むことを表すある種の通過儀礼としての「卒業」
図にしてみるとこんな感じでしょうか。
ところで、『ジョジョの奇妙な冒険』の作者である荒木飛呂彦先生が、著書『荒木飛呂彦の漫画術』の中で面白いストーリーづくりの鉄則として「プラスマイナスの法則」という考え方を紹介しています。
物語の主人公の成長レベルや置かれている状況を(+)(-)で縦軸に置き、横軸に時間の経過を置いたグラフです。
これがまさに、「卒業」という人間の成長物語と合致しているのです。
(※書籍をもとに一部加工して図示)
「よい」とされているのは上の2つで、
・ゼロからプラスに成長していくタイプ(少年マンガ、スポーツマンガは絶対これでなければならない)
・マイナスからプラスに成長してくタイプ(例:無実の罪で刑務所に入れられた主人公が脱獄を目指す)
のどちらか。
まさに、卒業の①、②と同じパターンです。
アイドルの卒業を、私たちは少年マンガの王道ストーリーとして受け取っているのかもしれません。
そしてまた、卒業したいと願いながら苦境を脱しようともがく私たちはみな、したたかな主人公なのかもしれません。
「卒業」というストーリーが、人の心に届きやすいことは間違いないようです。
おわり。