【短編小説】幸せのお店。
ここには、沢山の人が並ぶお店が数多くあります。
その中でも私は、幸せのお店で順番を待つことにしました。
こんな簡単に幸せになれるなんて、そんな奇跡あるのだろうか…。
そわそわそわそわ…。
きっと、世間の言い方としてはそう表現するのでしょう。
次は私の番かな、それとも、次の次かな。
暫く待ったけど一向に呼ばれる気配はありません。
受付の番号の順番を見に行きましたが、私の番はまだです。
こんなに待ってるのにまだなのかぁ…。
ふと周りを見ると、楽しいお店や嬉しいお店でも、行列ができているみたいでした。
悲しいお店や不幸なお店にも行列ができているのは不思議だなあと思いましたが、きっとそれぞれ考え方が違うのでしょう。
私の順番は、いつやって来るのかなぁ…。
そわそわと、どれくらい待っていたでしょう。
「保納未さーん」
やっと私の名前が呼ばれました。
急いで中に入ると、店主さんに「あなたはどんな幸せが欲しいんですか?」と聞かれました。
……ん?どんな幸せ?
私はただ、幸せになりたいと思って並んでいたけれど、どんな幸せが欲しいかと聞かれると、何も思い浮かばなかった。
あれ?私はどんな幸せが欲しいんだろう…。
「分かりません」と、正直に伝えました。
すると、
「そうですが、じゃあ、どんな幸せが欲しいか具体的に分かったら、またお越しください」
そう言われて、出口へ案内されました。
え、こんなに待ったのに、私は幸せになれないの?
呆然と出口から出ると、そこには、血の気を失った沢山の人たちがいました。
「あなたも、どんな幸せが欲しいか分からなかったの?」
近くにいた年配の女性に、そう声を掛けられました。
「はい、私は、幸せになりたいのに、でも、なれませんでした」
そう答えた瞬間、涙が出てきました。
私には、幸せになる権利なんてないのだろうか…。
その場から動くことができない状態が続きました。
すると、ある男性が出口から出てきました。
幸せそうな顔でした。
私は、その男性のもとに駆け寄り、
「貴方は幸せを手に入れられたんですか!?」と聞きました。
男性は驚いたような顔をしながら、「はい」と、そう言いました。
「なんて答えたんですか?」と重ねて聞くと、
「娘の幸福を願いましたよ」そう答えて、男性はいなくなりました。
「・・・・」
次に出てきた女性にも、私は理由を聞きました。
その女性は、
「婚約者の仕事が行き詰まっていたので、その仕事が成功するようにと願いました」
そう答えました。
その後も出てきた幸せそうな顔の人に、願ったことを尋ねると、全員、他人の幸福を願った人たちばかりでした。
そこで、私はふと思いました。
このお店は、このお店にとっての幸せとは、他人への思いやりを叶えてくれるお店なんじゃないか、と
じゃあ、他のお店はどうなんだろう。
私は、他のお店の出口にも向かい、様々な人に願ったことを尋ねました。
楽しいお店や嬉しいお店から出てきた人も、同じように他人のことを願っていました。
悲しいお店や不幸のお店は、他人の悲しみや不幸を背負う覚悟を負う覚悟をした人たちでした。
話を聞いているうちに、私は、自分のことしか考えてなかったんじゃないか…。
そういう考えが頭をよぎりました。
きっと、自分の幸せは、感じて掴むもの。
ここにあるお店で願うのは、幸せを掴んだ人が、周りにも幸せを与えたいと、無償の愛を提供したいと思った人たちなんだ。
私は自分のことが恥ずかしくなってきました。
私も、他人の幸せを願える人間になろう。
そう思って生きることにしました。
幸せのお店に再び並んだのは、20年も先の出来事でした。
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