【未完成】幻想即興曲
書き出し供養シリーズ第1弾。
去年の夏くらいに書き始めたやつです。
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どこからか、メロディーが聞こえてくる。
複雑に絡まりあい、うねり、やがてそれは大きな渦となって私を飲み込む。
忘れたはずのその音色が、私を否応なしに幻想の世界へと引き摺り込んでいった──。
○
「──か、文香」
誰かが私の名前を呼んでいる。
「文香、起きて」
「ん……んん……?」
意識が覚醒するにつれて、五感が働き始める。
目を開ける前に、まず嗅覚が異変を察知した。嗅いだことのない匂い──花のような濃い香りが漂っている。
私は仰向けに横たわっているようだ。ゆっくりと目を開けると、私の顔を覗き込んでいる少女と目が合った。
「あ、やっと起きた」
彼女は安心したようにふわっと笑った。
少女の外見は人間離れしていた。瞳は鮮やかな水色、長くて真っ直ぐな髪は淡いピンク色をしている。
次に目に入ったのは空だった。
いや、それは空とはとても思えないような紫色をしていた。かろうじて空だと認識できたのは、無数の星が遠くにキラキラと瞬いていたからだ。
全く自らの状況を理解できない中、一つだけわかるのは、ここが私の知っている場所ではないということだった。
私は相当長い間眠っていたらしく、起き上がろうとすると思いの外身体が動かない。それでもなんとか上体を起こし、あたりを見回す。
私が眠っていたのは、広い草原だった。周囲には建物どころか、木の一本も見当たらない。遠くに森のようなものが見えるだけである。
「……ここ、どこ……? あなたは……?」
薄紫色のゆるめのパーカーを着たその少女は、袖に隠れた手を口元に当てて一瞬考えるような素振りを見せた後、
「……えっと、リク。リクだよ」
そう名乗った。
「リクさん? あの、ここってどこですか? 私、どうしてここにいるんですか?」
「タメ口でいいよ。あと、名前も呼び捨てで。ここはね、あなたの想像や空想でできた世界なの。わたしは『幻想世界』って呼んでる」
「幻想、世界……」
随分とファンタジックな呼び名だ。いや、それよりも。
「私の想像でできた世界って、どういうこと?」
「うーん……ほら、人って、いろんな場面で想像力を働かせるじゃない? 文香だったら、例えばピアノを弾く時とか」
ピアノ──
「──やめて、その話」
「え、あ、ごめん」
リクは慌てたように謝った。私も話を遮ってしまったので、こっちこそごめん、と謝罪を口にする。
「この世界は、文香の想像力の産物で構成されている、って言えばいいのかな。あれ、さっきと同じ説明になっちゃった」
うーんうーん、と考え込んでいるリクを横目に、私はもう一度辺りを見回した。地球上に存在するとは思えない景色だ、しかし、冷静になってみれば異世界などあり得ない。
なぜ、幻想世界などという話を一瞬でも信じてしまったのだろう。私はリクの方を振り向いた。
「ねえ、真面目に答えて。ここはどこなの? どうやって私をここに連れてきたの? 私を家に戻して」
こちらを向いたリクと私の視線が絡まる。私は彼女に心の中を見抜かれたような感じがした。
「家に帰ったところでどうするの?」
「……っそれは……」
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〈この後の展開〉
文香の現実世界での日常
→もう一度幻想世界に来る
→文香とピアノのトラウマの回想シーン。
文香は母に半ば押し付けられるような形でピアノを始めた。母に「あなたは将来ピアニストになるのよ」と言われ続けてきた。しかし中学生の時のコンクールで失敗し、それ以来ピアノが弾けなくなる(この時の曲がショパンの幻想即興曲)。同時に将来への希望も見失ってしまう。
→何かあって(ここの展開を思いつけなかった!)もう一度ピアノを弾こう!となる
→家の倉庫にあったピアノで幻想即興曲を弾く。調律もガタガタだし長いこと練習していないから下手くそだけど、弾き終わってスッキリして終わり。