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季節の博物誌 5 秋の星座

 空気の澄んだ秋は空を見上げることの多い季節である。しかし星空となると、秋の宵は冬や夏と違って目を引く星座はなく、明るく目立つ星も少ない。しかし空が暗く星が沢山見える場所なら、秋の星座の茫漠とした広がりを観察することができる。星座早見盤を手にして、虫の音を聞きながら星達を探すのは、秋の夜長の楽しみである。
 秋の星座を象徴するものといえば、ギリシャ神話に出てくる天馬をかたどった「ペガスス座」であろう。十一月の中旬の二十時頃、夜空を見上げると、ひとつの二等星と三つの三等星が作る大きな四角形が天高く昇っている。それほど明るい星ではないが、周囲にこれといった星がないのでよく目立つ。この四角形は、ペガススの胴体に当たる部分だが、だだっ広いそれは天馬というより、まるで人のいない運動場のようだ。そのがらんとした空漠さは、運動会の終わった後の校庭を思わせ、秋の夜に仰ぐのにふさわしい。
 その四角形の右の二つの星を結ぶ線をまっすぐ南に下ろすと、秋の星座の唯一の一等星にたどり着く。白っぽい光りを放つその星は、フォーマルハウトという星だ。「魚の口」という意味があるという。その名の通りフォーマルハウトを口の部分に置いて、魚の形をかたどった楕円形に星が連なっているのが、「南の魚座」だ。しかし暗い星が多いので、その形が肉眼で確認できるのは、街の明かりのない星空のきれいな場所だけである。街の中で見るフォーマルハウトは、何もない南の空にひとりぼっちで光っている星という印象が強く、秋の侘びしさが漂う。
 家々の屋根や星座早見盤にしっとりと夜露が降りる夜更けになると、東の空がにわかに青白い星達で明るんでくる。オリオン座の三つ星が昇って来たのだ。眩しいまでに輝く大犬座のシリウスもまもなく昇って来ることだろう。毎年この光景を見ていると、秋の星座の寂しさは、華やかな冬の星座の登場する高揚感の序章なのではと思えて来る。

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