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季節の博物誌 14 鳥の記憶

 まだ寒い日の夕暮れ。庭のフェンスに見慣れない鳥が止まっているのを見つけた。この時期になると時折庭にやって来るヤマガラに似ているが、少し違う。地味な灰色の体で尾はほんのりと紅く、背中の羽に白い斑点がある。調べてみると、ジョウビタキの雌だとわかった。つぶらな目で辺りをきょろきょろ見回しながら、尾を上下に振っていたが、やがてどこかへ飛去って行った。
 小鳥たちを見ていると、子供の頃、実家でジュウシマツやインコを飼っていたことを思い出す。最初に飼ったジュウシマツは真っ白な羽の小さな鳥で、清潔でおとなしいが、人間にはあまり慣れなかった。次に飼ったセキセイインコは好奇心旺盛で、愛嬌をふりまいてくれたので、毎日のように部屋を閉め切ってインコを放って遊ばせていた。長い間可愛がっていたが、ある朝、なんの前ぶれもなく死んでしまった。手に乗せた小さな骸があまりにも軽かった。まるで鳥の体重の半分は魂の重さだったのかと思うくらいに。今でも小鳥たちを見ていると、どこかせつない気持ちがするのは、その時に感じた儚さがずっと自分の中に残っているせいだろう。 
 何年か前の夏至の近い六月の雨上がりの夕方。公園の池のほとりのベンチで、雲の切れ目にのぞいた青空を見ていた。するとこの春に生まれた五、六羽のツバメの子供たちが、飛行の練習をしていた。まだ飛ぶのを覚えたばかりの彼らに、空はあまりにも広くて高く見えた。それでも果敢に、まだ幼い翼を懸命に羽ばたかせている姿を見ると、儚いものの持つ強さにふれた気がして、その日の夕暮れの景色がとても美しく見えたのを覚えている。
 冬枯れていた庭に水仙とスノーフレークが咲き始めた。二月はあっという間に過ぎ、寒そうに胸の羽を膨らませていたジョウビタキも、もうじき故郷へ帰る季節だ。何かに背中を押されるように、春へと向かう時の流れが緩やかに加速していく。

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