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住み込み従業員列伝②

自分が小学校に上がるか上がらないかの頃が恐らく住み込み従業員の受け入れがピークだったように思う。実家の近所に持ち家、賃貸含め寮が4つほどあった。その一つは当時の実家(店舗部分含め4階建て)の1フロアを寮としていた。

ここでご紹介するのはその実家の寮に入っていたNくんのエピソードです。Nくんは例にもれず但馬の安定所からの紹介で入って来た。当時小学生の僕からすると精悍なお兄ちゃんという印象で運動神経もよく颯爽と出前自転車を駆るNくんを格好いいと思っていた。彼は持ち前の明るさで人当たりもよかったので同期の人気者でもあった。

ただこの格好いいNくんにも酷い悩みがあった。入社以来明るく働いていたNくんが次第に塞ぎこむようになってきた。それを気にしたうちの母が悩みがあれば言うようにと促しても「別に何もないと」気のない返事を返すばかり。10代の若者が親元を離れて暮らすのでホームシックというのはよくある話で、そのようなこととは種類が違うと感じていた母が親身に説き伏せるとNくんは抱えているものを打ち明けました。

そして母を自分の寝床に連れていき布団をめくると猛烈な悪臭が放たれます!Nくんの打ち明けられなかった悩みはオネショだったのです。

ここから母がこのNくんのオネショ癖の矯正を試みます。当時うちの祖母が自分の信仰する宗教の教会に早朝参拝をよくしていました。その参拝に母はNくんを帯同して一緒に行くようになりました。

その生活を2か月続けたところNくんのオネショ癖がついに完治したそうです。ともに早朝参拝をした母がそれを我がことのように喜んだことは想像に難くないです。ただし感動ドラマではないのがこのNくんも1年ともたずに当店を後にするのでした。

このように真心を尽くして接しても人って辞めて行くものだとこの時のエピソードから冷めて物事を見ている自分がいます。

なのでこのことを踏まえて人に対して真心を尽くさないということを言いたいのではなく、真心を尽くすということは当然としても、それが人を留める最終の武器になるとは思わないという大切な戒めとなっています。

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