心を亡くす
心を亡くすと書いて「忙しい」と書く。
そんな話を何処かで聞いた覚えがある。
やたらと印象的でなんだか少し恐ろしくも感じていて、この話を聞いてから忙しいと口に出すのが怖くなった。
出来るだけ言わないようにしていたけど、本当にそうだろうか。
昔からと言ってしまえばそれまでだけど、私は今日も駆け抜けるように過ごした。
もう何かに追い立てられているわけでもないし、恐ろしいものなんて何もないのに。
どうしてこんなに息苦しくてドキドキしながら歩いているんだろうとエスカレーターの左端に立っているときに、ふと思った。
あぁそうか、追いかけているのか。ずっと。
きっと忘れていた。
何かに焦がれるように駆け出して、走り続けた日々に慣れて、いつしか追いかけられているような気がしていただけなんだ。
自分の不甲斐なさに焦れて、憤り、悔しい時。なによりも私を責め立てるのはいつだって私だったんだ。
自分に嫌われるのが1番怖くて、そんなことを思う自分が1番嫌だった。
そんな風にぐるぐる回っていては何処にも進めないけれど、もう大丈夫な気がした。
ちゃんと私には私の足跡が見えていて、いままで過ぎ去った景色を覚えている。大丈夫。
今日は、そんな風に思えた。
とても忙しい日だったけれど、大丈夫だ、心を亡くしてなんかいない。
忙しさに押し潰されてしまうとそうなってしまうのかもしれない。気をつけないと。
それでもきっと、大丈夫だ。
そうなる前にきっと気付ける。
何度か潰れてしまいそうになった事もあったし、疲れ果ててしまったこともあるけれど。
なくなったりしなかった。
忙しさに怯えて、のらりくらりと逃げるように日々を過ごすことの方がなくすものは多いのかもしれない。
もしかしたら今の私は忙しいとは言わないのかもしれない。充実しているの方が合っている。
私はいつも帰り道少し泣きそうになる。
今日も幸せだったなぁとしみじみして。
もちろん悲しいことがあった日はそんな事思えないけれど、滅多にない。
最近はカエルの亡骸を見た帰り道くらいだ。
良い日だった。
特段何かがあったわけではないけれど、良かった。
珈琲が今日も美味しくて、帰り際には雨が止んで、その雨上がりはとても清々しくて、今日も私と話してくれる人がいた。
これ以上何も望むことはないと思いそうになる。
だけど、満足はしない。
満足したらそこで終わってしまう。
死んでも構わないなんてまだ思えない。
まだまだ沢山返さなきゃいけないものがある。
こんなに沢山もらったまま消えてなるものか。
きっと私は今日も満足できないまま今夜を引き延ばすように眠れない。
満ち満ちてはいるけれど足りてはないんだ。満ち足りるのは眠る時でいい。
お腹が空いたまま眠りたい。
少し寝足りないくらいで朝日を迎えたい。
気を抜いたらぱったり倒れてしまいそうな気がする。
明日も私は追いかけるように過ごすんだ。
それが楽しい。
忙しさと私の心の生命力の勝負といこうじゃないか。
これは私の為の備忘録。
読んでくださっただけでとても嬉しいです!いつもありがとうございます!