恋愛成就のチケット 第三章
「吉岡さんこの領収書は経費として認められません」
「見て分かんないの?今忙しいんだからさあ、そこら辺に置いといて」
突然隆子のデスクを訪れた栄二と、コンサートから1ヶ月ぶりに交した会話は、たったこれだけだった。
経理畑一筋で会社に席を置く栄二にとって、例えそれがどんなに意中の存在であろうとも認めるわけにはいかない経費という
ものが存在した。
「あん畜生、自分から言い寄っといて1ヶ月も音信不通のうえ、久しぶりに会った最初の一言が、経費として認められません…
それで終わりかよ?」
隆子が抱いた、栄二に対する第一印象は、いい意味でも悪い意味でも的を得ていたと言わざるを得ない。
奥手にも程があるというか、なんというか。
「だったらなんであんなコンサートにわざわざ私を誘ってその気にさせるわけ?」
今の隆子の心境を一言で言えばこうだ。
実際のことを言えば、恋愛経験の乏しい栄二には、隆子が自分のことに対してまんざらでもない思いでいることを全く理解しておらず、次なる行動に出ることに自信が持てないというのか、もう少し悪く言えば隆子が自分をなんとも思っていないことがわかってしまった。悲しいかなそんな思いでいっぱいだったのだ。
時間は待ってくれないとは良くいったもので、これといった進展がないまま、1ヶ月がすぎようとしていたある日、突然昔の恋人の渡辺浩から、久しぶりのLINEが届いた。
おーい、元気か、その後変わりはなさそうだなw
今度また、新曲を出すことになったぜよ
お隆、上田正樹って歌い手を知ってるか?昔悲しい色やねんっていう曲で一世を風靡した、元々有名なR&B・ソウルシンガーなんだけど。
彼の持ち歌にTAKAKOという歌がある。今回のアルバムの一曲はそんな上田正樹が歌うTAKAKOのトビュート曲なんよ。
たかこはたかこでも字は違うけど、俺のお隆に対する今も変わらぬ気持ちを歌
詞に込めたつもりや。
自分でいいながら少々こっぱ恥ずかしくなってきてもうた。
楽しみにお待ちくだされ、そして辛辣なご感想お待ち申しておりまする。 トラバースしたまま抜け出せない俺より
こんなときに限って舞い込んだ思いもしなかった浩の告白に戸惑う隆子だったが、心が折れかけていた彼女にとって、思いもかけない知らせといえた。
「TAKAKOか~懐かしい、確か上田正樹の実体験を歌った歌だったなあ。どんな歌に仕上がったのか待ち遠しいけど、何か複雑な気持ち。あいつ、今頃になってそんなこと言いだして、素直にはい嬉しく思います。なんて言えるわけない事ぐらい分かってんだろうに」
家に帰りネットで確認したTAKAKOの歌詞はこうだった
感じないふりをしても
抱きしめりゃ崩れていく人
夜の砂浜に
つのる愛しさ
あなただけに
I love you タカコ
行く夏を惜しむよりも
ただ寄りそっていられたら
だけどタカコ my love
合いたい時に
いつも隆子my love
会えるわけじゃないから
せめて指の先に
オレを感じて
To be continued
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