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グレートトラバースに触発されて無謀な挑戦に打って出た。

・・・という訳でもない

 先日の事だが、久々にテレビを付けBSプレミアにチャンネルを合わせると、グレートトラバース3、日本300名山全山人力踏破の再放送をしていた。移動手段は人力のみで、海を渡るのにもシーカヤックを使い300もの名だたる峰々を踏破しながら日本を縦断するという例の番組だ。100名山に始まり、もう今年で何年になるのだろう、BS3の看板番組の一つであることに間違いない。

 私毎で恐縮なのだが、久々の完全休業日となった3月20日の祝日、番組に触発されたわけでもないが、地元を走る高速道路のサービスエリアにその名を博す山、日本500名山という括りがあったとしても入るか入らないかわからない迷峰への、単独登頂に打って出た。

 当日は、暖冬の影響で1度も積雪がなかった今年の気象状況を鵜呑みにし、防寒対策はおろか、山登りのマストアイテムの雨具さえ未装備であった

 現地の山の登山道入り口駐車場に到着したのは午前8時前、案の定山の天気は変わりやすく、下界では薄日が差していたにも拘らず、登山を始めてすぐ、みぞれ交じりの小雨が空から舞い降りてきた。

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 実はこの山4つの登山道を有する山で、北斜面に開かれた2つのルートは南のルートに比べ急峻な山道の連続だった。南ルートはといえばミーちゃんハーちゃんがおベント片手にルンルンるんでOKな道のりだ。迷うことなく私が、選択したのは南ルートだった。林道は続くよどこまでも「線路は続くよどこまでも」を、即興の替え歌にして鼻歌交じりで私は先を急いだ。

 楽あれば苦あり、やはり登山は人生の縮図と言えよう。優しく私を導いてくれたお林道さんが、何の前触れもなく突然の別れを告げた。

 我々の目の前に突然、目もくらむ険しい斜面が姿を現した。

「おい山本、ポケットに手を突っ込んで登るんじゃないと何べん行ったら分かるんだ?滑落したら一巻の終わりだぞ!」私は一体誰に向かって怒りを露わにしたのだろう?単独登頂だということをすっかり忘れて気がつくと、独りごちていた。酸素濃度がかなり薄くなったのが原因に違いない。

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そろそろ私の体力も限界に近づいてきた。標高が上がるにつれ寒さは一段と厳しさを増し、両の耳はちぎれるかと思わんばかりの痛みに苛まれた。

「うっ、うっ耳が、痛い」

痛みに耐えかねた私が、両耳を手のひらで温めようと手をかざした次の瞬間何かがそっと私の手の甲に触れた。

「うっ、迂闊だった。そういえば今日のアウターは、フード付きだった」

捨てる神あれば拾う神ありとはよくいったものでそれから先は一変して、小春日和を先取りしたような快適な行程が続いた。

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私は、この標識を目にした瞬間、どれほど心が救われたことだろう。そして次に

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今までの苦労は霧散した。いや水泡に帰した、待てよほんとは一人でとっても怖かったんだよ~んだ。

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山頂からの眺めはボチボチだった。いち早くかみさんと子供(例の)にこの喜びを報告せねば

トゥルルルルー  トゥルルルルー  無情な発信音がいつまでも続いた。どうやらまだご就寝の様子だ。これ以上うるさくするのはやめよう後が怖い。

 帰りの下りはいつも通り快適な道のりだった。実を言うと今回の山行で私は、もう一つ密かな期待を抱いていた。それは映画もののけ姫にも登場した山の守り神、そう例のあいつに出会う事だ。そしてもしあいつにあった時に投げかけてやるセリフも用意していた。

「もしかして かもしか?」

多分奴はこう答えることだろう。

「いや私は、ただの、しかでしかない」

けだし名言だ

結局奴との遭遇は今回も叶わなかった。コロナの致死率と同程度の遭遇率しかない訳なので仕方がないと言ってしまえばそれまでの話だ。

また馬鹿なことを思い浮かべながら愛車の日産ノート、ではなくスズキのワゴンRに帰りついた私を日本100名瀑に名を連ねる滝が出迎えてくれた。(本当に100名瀑の一つかは、後日調べることとする)

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帰りの道すがら一人の可憐な少女が私のことを見送ってくれた。

「おじさんまた来てね、私、風雨に耐えて待ってるから」

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そこに山があるからでもなく、山が呼んでいるわけでもなく私は、ただ単に娘が遊んでくれないので山を目指す。

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