夜明けのスモッグ
松竹新喜劇の舞台放送は、私が小学生だった頃、記憶が確かなら土曜日の昼の時間帯に放映されていたと思われる。松竹新喜劇と吉本新喜劇どちらも関西という土地柄が育んだ名舞台である。
吉本新喜劇のその頃の看板スターと言えば奥目の八ちゃんで一世を風靡した岡八郎、そして二枚看板の一人でもある横山エンタツの次男の花紀京、ドタバタ喜劇という言葉がしっくり当てはまる吉本新喜劇は、ただ単純に毎回抱腹絶倒の舞台といえた。そしてその流れは、今もしっかりと後塵を拝する喜劇役者によって踏襲される。
一方で松竹新喜劇は藤山寛美あっての新喜劇であり、破天荒な藤山寛美の、生き様と同じように徐々に衰退していった事実は歪めない。
現在放映中のNHK朝ドラの最新作おちょやんは、「浪花千恵子でございます」で名を博した松竹新喜劇創設時メンバーの一人である彼女をモチーフにした作品である。今回の朝ドラをきっかけに松竹新喜劇の舞台の再燃を期待したい。
話が少々横道にそれたが、そんな数ある寛美の名舞台の一つに夜明けのスモッグというのがある。松竹新喜劇マニアに言わせれば「何故イチオシが夜明けのスモッグ?」という疑問を持たれるのかもしれないが、ただ単に私の記憶の中でこの夜明けのスモッグの寛美の怪演が一番強烈に記憶に残るからである。
涙あり、笑いあり、寛美のボケはその一挙手一投足が計算つくされたボケであり、持って生まれた笑いの素養よりも、その役を演じ切るという観点で考えれば右に出る者がいない、ある意味唯一無二のエンターテイナーであったと言えよう。
間の取り方の一つ一つ、観客に訴えかけるようなあの視線、小学生ながら当時松竹新喜劇の舞台に知らず知らずに引きずり込まれ食い入るように見続けた記憶がハッキリと甦る。
言い過ぎかもしれないが、不世出の大喜劇役者藤山寛美を超える逸材はその後未だ現れていないという感が拭えない。心情的に言えばはそれ以外の答えが見つからない。
また、藤山直美はそのDNAを受け継ぐ寛美にクリソツの娘で、血は争えないとはよくいったもので藤山直美の演技には、時に父である寛美の姿を彷彿とさせる場面がある。
ご病気で療養されてお見えとの噂もちらほら耳にするのだが、時間と環境が許すならまた再び彼女の演技にもお目にかかりたいものである。自分が知らぬだけで現在もご活躍中であればご容赦願いたいのだが…
最後に一つこれは有名な話なのだが藤山寛美と阪神タイガースで活躍した岡田彰布は、笑ってしまう程瓜二つの顔立ちだ。本当は当人同士も知らなかっただけで遠縁にあたったのかもしれないなどと思うのは自分だけだろうか?
フォロアーさんのお一人アッシュさんのコメント欄で拝読させて頂いた、松竹新喜劇の一言に反応して書いた次第です。