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  コッペリアの主人公はコッペリアでなくスワニルダだ。コッペリアはコッペリウス爺さんが作った人形に過ぎない。だがスワニルダの恋人のフランツがコッペリアに恋をしてしまう。

いつも読書中の物静かなコッペリアがいい

 スワニルダは、ひょんなことでコッペリアの正体を知り、いたずらで入れ替わってしまう。楽しいバレエ喜劇だが、相当な演技力を要求される。

 愛野藍はコッペリア役で、スワニルダ役は招待されたプロがやる。今、コッペリアが人形であるのがわかってスワニルダが驚くシーンをやっているが、演技が見事でつい視線が動く。先生に怒られる。

「あなたは人形役でしょ。動いてはダメ」

 藍の視界は本で閉じられた。しかしまだ嗅覚と聴覚が残っている。プロが近よるたびに清潔な石けんの香りがする。そして音楽に忠実に動く足音。嗅覚と聴覚だけでそのプロの実力がわかる。
 藍は読書中の人形に擬態しつつ神経を研ぎ澄ませる。次はスワニルダ役を演じるつもりだから。

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