見出し画像

食道がんと食道狭窄

今回は、食道がんについてお話しします。

食道とは、のどから胃につながる細長いパイプ状の器官です。
成人で長さ約25cm、内径が約2cm程となり、食べ物をのどから胃へ運び、消化を助ける役割を果たします。
食道の粘膜には感覚がほとんどないので、熱い食べ物も飲み込んでしまえば熱さを感じることが少ないと言われています。


食道はのどから胃をつなぐ器官

食道に発生する主な疾患

食道は、胃酸や消化酵素から食道を守る特殊な粘膜も持っていますが、逆流による食道炎症※1や、胃酸逆流症※2といった疾患が起こることもあります。

※1 食道炎症:胃酸逆流や感染、アレルギーなどが原因で食道の内側の組織に炎症が起こる疾患です。
※2 胃酸逆流症:胃酸が食道に逆流し、炎症を引き起こす疾患で、胸焼けや喉の痛み、咳などが症状として現れることがあります。

その他、食道に発生する主な疾患として食道がんがあげられます。
食道がんは、日本において年間約26,000人の患者さんが新たにがんと診断されており、喫煙や飲酒が主な発症原因と考えられています。
食道がんによる死亡数は約11,000人で、全がん死亡数に占める割合は3%となっております。※3

※3:(出所)公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計2022」

食道がんの治療

食道がんの治療には手術、放射線治療、抗がん剤治療の3つの治療方法があり、がんの状態により複数の治療を組み合わせて治療が行われます。

がんが食道粘膜の表層までの浸潤(がんが周りに広がっていくこと)にとどまる状態で早期発見された場合には、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)※4によるがんの切除が可能であり、手術できた場合の5年生存率は75%以上と言われています。
手術は麻酔下で行われ、がんが局在する食道粘膜を切除します。
がんの大きさによりますが、数時間で終了します。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

※4:内視鏡的粘膜下層剥離術は、ESD(Endoscopic Submucosal Dissection)ともいい、消化管の粘膜下層に生じた早期がんや粘膜内腫瘍を切除するための手術です。

食道狭窄について

食道がんに関連する症状のうち、今回は食道狭窄についてお話しします。
日本の消化器内視鏡の手術技術は世界トップであり、手術は安全に実施されますが、手術後の合併症として食道が狭窄する(食道が狭くなる)ことがあり、切除面積が小さくても発生する可能性があり、また医師の手術技術にも関係なく発生すると言われています。

食道狭窄は、食道がんの進行によっても発生する可能性があり、食道がつかえるような感じを覚えたり、通過障害により飲食物を飲み込むことが困難となり、体重減少や嘔吐などの症状が現れます。

食道がんの切除面積が大きいほど狭窄するリスクや重症度があがり、食道を4分の3周以上切除すると多くの場合で狭窄部位を広げるための再手術が必要になります。
再手術においては、内視鏡的に狭窄部位をバルーン(医療用の小さな風船を使って狭くなった食道を内側から押し広げる方法)で広げますが、多い場合には数十回の治療を余儀なくされ、患者さんに大きな苦痛を強いることになります。

バルーン拡張術のイメージ

食道狭窄の発生原因は完全にわかっていませんが、食道の粘膜が再生する時に、粘膜が過剰に再生されてしまうことが原因とされています。

現在は炎症を抑えるためにステロイドが使用されていますが、ステロイドの効果も十分ではない場合が多く、またステロイド自身にも副作用があるため、標準治療は確立されていないのが現状で、有用な治療方法の開発が待たれています。