[Nights at NAHA Town]最初の曲が生まれるまで
機材としてはYAMAHAのミキサーAG06MK2とオーディオテクニカのマイクAT4040を使い、MacにUSBケーブルで接続した。マイクとミキサーは以前使っていたものを数ヶ月前に入れ替えたもので、これはiPhoneで自分のトランペットの演奏を記録するために使っている機材だ。これまで使っていた機材よりクリアに綺麗にトランペットの音を拾うことができる。これまでiPhoneのカメラアプリの動画撮影で使っていたが、今回初めてMacに接続した。そしてMacにはApple標準の音楽制作ソフトGarageBandが入っている。
GarageBandはMacにバンドルされている無料ソフトで、音楽のプロじゃなくても簡単に音楽制作できるというソフトだ。Appleにはプロ向けの音楽制作ソフトLogic Proというソフトもあって、Garage Bandはその入門版という位置付けでもある。こういう簡単なUX/UIで初心者にも門戸を開放しクリエイティビティを喚起させるソフトを無料でバンドルするのは昔のMacのHyperCard以来の流れでAppleらしいアプローチだと思う。
GarageBandはこれまで何度か触ったことはあるが、どう使うのがいいのかはよく分かっていなかった。そこで、しばらく(エアコンの効いた涼しい)リビングでGarageBandを触ってみることにした。マニュアルやサイトなどは一切見ずに自分の感覚であれこれ触ってみる。
あらかじめ様々な演奏の断片や効果音のループがサウンドパックとして用意されており、これを組み合わせるとそれっぽいトラックを作ることができる。ピアノのループをいじっていると、なんとなく雰囲気のあるループを見つけ、このいい感じのピアノのループをいじっていると、これにトランペットを乗せるといい感じの曲になるかもしれないというトラックの原型ができた。
そこで(夏の灼熱の音楽室に入って)Macをミキサーに接続し、GarageBandでこのトラックを流しながら、ワウワウミュートを付けたトランペットで吹き込んでみた。
僕はジャズトランペットを少しやっているので、楽譜楽譜がなくてもスケールと曲の進行をある程度把握すると適当にアドリブで演奏することには慣れている。それで特に前準備もなく、トラックの音を聞きながら適当に吹いてみた。マイルス・デイヴィスの『死刑台のエレベーター』というわけではないけれど、雰囲気に合わせて音を適当に合わせて吹いてみた。聞き直してみると、うん、案外悪くない。
そこで再びリビングに戻りGarageBandを使って先ほど吹き込んだトランペットを組み込んであれこれ加工してみた。リズムセクションとしてちょっとコンテンポラリーな雰囲気のビートを追加してベースは控えめに入れてみた。
僕は当初この曲を何かのイメージを持って演奏したわけではなく、ピアノのリフに合わせて適当に吹いたのだった。最初の曲名は最初に吹き込んだからということでFirstGigというそっけないものだった。こうして出来上がったテイクを何度か聴いていると、ふと夜の風景が目に浮かんだ。それは僕が今住んでいる東京の夜の風景というのではなく、子供の頃の僕の原体験、沖縄の那覇の夜の風景に近かった。
友達のお父さんが運転するBMWの後部座席に座って眺めた車窓から流れる那覇の夜の街、これから夏を迎える那覇の夜の喧騒と香りのようなものをガラス窓一枚隔てたクールな室内、エアコンが効いた黒革のシートの車内で運転席のインパネにはオレンジに照らされたBMWのメータやインジケータが揺れて、BMWのストレートシックスが奏でるエンジン音が気持ちを高揚させた。そのサウンドスケープのようなものを感じ取った。
こうして生まれた最初の曲がNight Beatだ。