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[Nights at NAHA Town]プロローグ
2023年夏、今年の東京は梅雨明け前から35度を超える気温の日が続き、本格的な夏の到来を前に気温と湿度が人間の忍耐の範囲を大きく逸脱していた。夜になっても高温多湿の不快さは続き、我が家でエアコンが設置されていない音楽室〜キャンプ用具や釣り道具を押し込んだ部屋を整理して防音材や防音のスポンジを張り巡らせた部屋だ〜の温度計は1日を通して30度を下回ることはなかった。
僕は何年にも渡りこの部屋で毎日のようにジャズトランペットの練習をしていた。だが今年の夏前の暑さは尋常ではなく、たとえ短い時間でも音楽室に篭ってトランペットを吹くと全身汗だくになるのだった。これはちょっと耐えきれないなと、段々と音楽室でトランペットを吹く時間が短くなってきた。
このままだと梅雨が明けて本格的な夏が到来すると今年の夏は全く吹けなくなるのでは? 人間の欲望の広がりと深みに呼応して地球温暖化が進んでいるのに加え、ラニーニャやエルニーニョが大暴れして今年の夏がとりわけ暑いからなのか、僕の気温に対する耐性が50歳を過ぎて落ちたからなのか、あるいは一度暑くて無理と思い込んで脳が拒否反応を示しているからなのか、理由は様々に考えられたが、理由が分かったところで耐えられないくらいに暑いことに変わりはない。
快適にトランペットが吹けるための対策を考えたが、マンションの内廊下に面した部屋にエアコンを取り付けるのは現実的ではないし(室外機をどこに置くと言うのだ?)、仮に室外機の不要な窓型のエアコンを設置したとしてもせっかくの防音の効果が減り音が外に漏れ出してしまうだろう。近所迷惑はかけたくはない。だからと言って扇風機を置いたところで生暖かい風が当たるのは根本的解決にはつながらない。
さて、どうしたものだか・・・
いつものように音楽室で練習をしていた時に、使っているミキサーを見て、はっ!と閃いた。
僕は練習をiPhoneで記録しており、そのため外部の音源とマイクをミキサーを使っている。このミキサーはUSBでMacに接続して録音できるはずだ。とすると、Macの標準の音楽制作ソフトのGarage Bandを使えば音楽を制作しそれに合わせてトランペットで吹き込むと面白いんじゃないだろうか。
灼熱の音楽室で最低限のトランペットだけを吹き込んで、あとはエアコンの効いたリビングでMacのGarage Bandでじっくり編集すればいいのではないだろうか?
冬の競技であるスケート選手が夏にロードバイクの試合に出るように、あるいはスノーボードの選手が夏にスケートボードの大会に出るように、季節は逆だけど夏以外の季節はこれまで通りトランペットに集中するとして、夏は少しだけの灼熱のトランペットとエアコンの効いたリビングでのMacでの音楽作りで過ごすのはどうだろう?
そう思ってミキサーをMacに繋げ、これまでほとんどいじったことのないGarage Bandを起動したのは三連休の中日の日曜日の夕方だった。
ここから僕のちょっとした冒険が始まったのだった。