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アドバルーンの思い出。
私は今の事務職の前、介護施設で1年働いていたことがある。
介護施設の仕事はとてもしんどい事ばかりだったけど、そこには人生の先輩がたくさんいて、人生で大事なことを色々と教えてもらった。
思い出はどれも心に残っているけれど、不思議と度々思い出す場面がある。
窓の外の青空と、アドバルーン。
その日は夜勤明けで退勤の11時まで、利用者さんに入浴の案内をする担当だった。
利用者のEさんと一緒に浴場へ行き、お風呂上がりのEさんの髪を乾かしていた。
Eさんはソファに座って窓を眺めていて、ふいに「ほら、みて」と外を指差した。
窓の外を見ると、大きな赤いアドバルーンが浮かんでいた。
「わぁ、久しぶりに見た。何だかかわいいね」
二人でふふふと笑う。
子供の頃のことをふと、思い出した。
おばあちゃんと出かけようと外に出ると、アドバルーンが浮かんでいた。
「大きい風船が浮かんでる」と、アドバルーンを見るとおばあちゃんはよく言う。
デパートの上に浮かぶ、あの大きな風船が好きだった。
春の空気が心地よく、青空にアドバルーンが浮かぶのを、Eさんとただぼんやり眺めていた一瞬。
それが何故だかとても幸せに感じられた。
今のわたしは、小さな幸せをちゃんと見つけることが出来ているだろうか。
あの時のことを思い出すと、何か泣きたくなるような、少し優しい気持ちになる。