スカイリムプレイ日記~狩人ちゃん~ #59
こちらの続きです
『月明かりに照らされて』①
ファルクリース
ファルクリースの首長の長屋から出て、錬金術師の店『グレイブ調合薬店』へ立ち寄りました。取引を終えた後、グレイブ――『墓穴』だなんて、どうしてこんな店名にしたのか聞いてみると、店主のザリアさんはあっけらかんと言いました。
「ファルクリースはこういう所だと知っておいた方がいいわ。この町一番の特徴は、良くも悪くも大きな墓地なのよ。だから宿屋が『デッドマンズ・ドリンク』”死んだ男の飲物”で、農場が『コープスライト』”死体の光”って意味の名前だったりするの。まぁ、よくある冗談ってやつね」
この街の人々にとって『墓地』は不吉なものというより、もはや象徴なのですね。知れば知るほど興味深いです。
さて、名物となっている墓地へやってきました。広大な土地を想像していましたが、実際に確認してみると他の地域より多少墓石が多いくらいで、創造よりも小規模なものでした。
墓地に人が集まっていることに気が付きました。司祭と、農民夫婦のようです。
「アーケイの神もかつては我々のように死すべき運命を免れない身だった――」
教えを説いているあのハイエルフは、アーケイの司祭のようです。宿で出会ったタジェールさんから友人の遺灰を渡すよう指示されたルニルさんとは、きっと彼に違いありません。
少し近づいてみると、夫婦はとても悲しそうにしており、どうやら葬儀の最中だということに気が付きました。
「いつか我々も永遠なる時の流れの中で再び出会えることを…」
ルニルさんは祈りを捧げ終えると、夫婦を残して近くの建物へ去って行きました。どうしようか少々迷いましたが、夫婦にお悔やみを伝えることにしました。
「ご愁傷さまです…どなたが亡くられたんですか?」
農夫の男性、マシエスさんが私の不躾な質問に「娘だよ」と教えてくれました。
「まだほんの子供だった。かわいそうに、10回目の冬を迎えられなかった」
大変気の毒なことに、二人の幼い娘さんは、まるで獣に襲われたかのように見るも無残な姿で発見され、埋葬しようにも満足に亡骸を集められないような状況だったそうです。聞くのもつらい話です。それを言葉にする父親の心情はいかほどのことか――
「そんな、ひどい…一体誰の仕業なんです?」
「…シンディングだ」
マシエスさんはただならぬ怒りを込めた声で静かにその名を口にしました。
「渡りの労働者らしい。至ってまともな男に見えたのに――一体どうしたらこんな真似ができるっていうんだ」
「…その男は今どこに?」
「処分が決まるまで、地下牢にぶち込んである。奴の顔を拝む勇気があるなら、見に行くといい」
処分なんて、極刑打ち首さらし首以外考えられません。もしもまかり間違って娑婆に出てくることがあれば、私がこの手で処分してあげましょう。
さて、お使いを済ませなければなりません。墓地の目の前にある死者の間を訪ね、司祭のルニルさんに事情を話して遺灰を渡しました。
「あぁ、それはベリットの灰か…実にすばらしい奴だった。立派に年を重ねられる兵士はそういないものだからな」
「届けてくれてありがとう。彼にふさわしい葬式をあげてやろう」
光栄な役目を賜りました。それだけではなく、多額の謝礼もいただけて大変ラッキーでございました。
さて、少女を惨殺したシンディングという男が捕らえられているという監獄を訪ねました。護衛はそれほど厳しくなく、面会も自由にできるようです。
シンディングは一番奥の、なぜか足元が水に浸っている狭い牢獄に入れられていました。天井から光が差し込んでいるので、上には穴が開いているようです。もしかしたらそこから水責めを受けるような拷問を施すための場所なのかもしれません。
シンディングはこちらに気が付くと、ゆっくりと近づいてきました。
「何か用か?化け物を見物しにきたのか?」
「少女を襲ったらしいな?」
私の嫌悪感を込めた問いに対し、シンディングは意外にも小心者のように狼狽えながら言いました。
「信じてくれ。決してそんなつもりじゃなかったんだ。俺はただ…我を失ってしまっただけだ。訴えたが、誰も信じちゃくれない」
心神耗弱状態だったから責任能力はないのだとでも言いたいのでしょうか?
シンディングは続けます。
「すべてはこの忌々しい指輪のせいだ」
「指輪?」
「これはハーシーンの指輪だ」
ハーシーン!?
ハーシーンって、狩りを司るデイドラ王『ハーシーン』ですよね。
私が所属する同胞団にも深い所縁がある上、従者として旅に帯同してくれているアエラさんは、ウェアウルフとしてハーシーンに心酔しているといっても過言ではありません。ハーシーンは『ウェアウルフ』という病状を作った張本人なのです。
そのハーシーンの指輪…おそらくデイドラの秘宝にあたる物を、なぜこの男が?
「一体何なんですか?それは」
「これがあれば意のままに変身できると聞いた。しかし、おそらくそれは以前の話で、今では確かめようもない。ハーシーンは俺が指輪を手に入れたことなどお構いなく、呪いをかけた。指輪をはめると…突然、身体に変化が起こった。それがいつ起きるかは予測がつかない。最悪のタイミングで起きるかもしれない…ちょうど…あの少女といた時のように」
「ま、待ちなさい、変身とは…まさか」
心臓が強く脈打ち始めました。見えてきた話の全貌に、背筋が凍ります。
シンディングはあきらめたように言いました。
「どのみちここで死ぬのなら、秘密を守っても意味がないな。月の影響を受けて、獣に姿を変える者たちについては聞いたことがあるだろう?俺もその一人なんだ。いわゆるウェアウルフさ」
まさか、シンディングがウェアウルフだったとは!被害者がまるで獣に襲われたとしか思えないほどの状態で発見された理由はそこにあったのですね。
「だから指輪がほしかった…変身をコントロールできると言われていたからだ」
シンディングはもともと変身がコントロールできていなかったということでしょうか?
しかし私もウェアウルフではありますが、変身についてはコントロールできますし、子供を見境なく襲うなんてことはしたことがありません。アエラさんも、サークルの他メンバーだってそのはずです。
もしかしたら同胞団に受け継がれているウェアウルフの血は、過去の導き手が魔女との契約で得た力のため、彼らのようなウェアウルフとは違う特殊な何かがあるのかもしれません。
どうやらシンディングは何らかの方法でハーシーンの指輪を手に入れ、そのことで怒りを買い、呪いをかけられてしまったようです。
ハーシーンの怒りを鎮め、呪いを解いてもらうため、シンディングは交信を試みました。ハーシーンの声をきくためには、この地域に存在するというある獣を葬らねばならないそうです。それを追って森に入ったところで、不運にも被害者と遭遇してしまい、コントロールできなくなっていた彼は血の猛りのままに『狩り』を行ってしまった、と――
確かに、私もコントロールできるとはいえ、一度変身してしまえば獲物を狩りたくて仕方なくなってしまいました。その興奮や欲求は恐ろしいほどよくわかるのです。
シンディングの話を聞けば聞くほど、まるで他人事とは思えず、殺人犯へ対して抱いていた嫌悪と怒りはいつの間にか薄れていました。
「…これからどうするんですか?」
「許しを乞いたいんだ。指輪を返してきてくれ。ハーシーンは怒らせてはならない強大な存在だ。俺はそれに気づくのが遅すぎた。俺は…自分のしたことが恐ろしい。たぶん、俺なんか消えた方が皆のためなんだ」
状況は違いますが、同じウェアウルフとして「その通りだ」とはもう言えません。私は成り行きとはいえ自ら望んでこの道を選びましたが、彼はきっとそうではなかったはずです。
「わかりました。指輪をハーシーンに届けましょう」
私がそう伝えると、シンディングは心底安心したようです。鉄格子の間から指輪を渡し、念を押しました。
「例の獣を探し出せ。奴はこの森をうろついている。奴を仕留めるんだ。そうすれば…そう、狩猟の王が微笑んでくれるだろう。幸運を祈る。だが、俺がこの姿でいるうちにここを離れた方がいい。互いの道がまた交わることがあれば、あんたへの恩を思い出すだろう。達者でな」
シンディングは私から離れると、独房の中心に立ちました。
シンディングはウェアウルフに変身したかと思うと、壁をよじ登ってそのまま姿を消してしまいました。
……逃げやがった!!!!
衛兵に教えようとしましたが、逆に関与を疑われる始末。最悪です。
衛兵からは疑われていますが、証拠がないため逮捕されることなく監獄をあとにしました。
「アエラさん…どうしましょう…」
アエラさんは涼し気な顔で言います。
「ハーシーンの声を聴く以外の選択肢はないでしょう。それにあなた、気づいていないみたいだけど、指輪を嵌めてるわよね。それ、呪われてるからこのままだと街中で変身しかねないわよ」
アエラさんに指摘されて初めて、自分の指にハーシーンの指輪が嵌っていることに気が付きました。
「げっ!いつの間に!?い、痛い!なんで!?抜けない!」
指輪はどんなに強く引っ張っても抜けません。これも呪いの力なのでしょうか。
ハーシーンに会って許しを乞い、指輪の呪いを解く…いまや私自身も指輪の呪いにかかり、本気で狩りをしないといつ変身するかわからない状態になってしまいました。
とにかく今すぐ森へ行って、シンディングが言っていた獣を狩らなければ…その一心でファルクリースを飛び出し、周囲の森を捜索していると、見た事のない、巨大な白い鹿がのっそりと現れました。
白い鹿はこちらを見て鳴き、走り出しました。そのスピードたるや、尋常ではありません。私もつい焦りがちになり、なかなか的が定まらず、オークの矢を無駄打ちしながら山を駆けまわりました。
しばらく追いかけまわし、やがて逃げ疲れたのか遅れが出てきた白い鹿に、ついに渾身の一撃が突き刺さりました。
「やった…!!」
獲物に近づこうとしたその時、葬ったはずの鹿が、透明な亡霊の姿となって現れました。
巨大な鹿の亡霊は、亡骸のにおいを丹念に嗅ぎ、それからこちらへと視線を移して近づいてきました。
「狩人よ、良い所で会った」
「ハーシーンですか?」
鹿の亡霊は私の問いかけに答えます。
「栄光の追跡者がハーシーンと口にすれば、その視線に狩りの化身が宿る」
これがハーシーン…姿があるとすればもっと狩人っぽい感じかと思っていましたが…獲物の形をして現れるとは。
「指輪の呪いを解いてほしいのですが…どうしたらいいですか?」
「お前の忠義が大事だ。無駄にはしない。私の指輪を持っていけ。それを盗んだ者は、自分の聖域と考えている場所へ逃げ込んだ。熊が狩られないように木へ登るのと同じように、奴自身が罠にかかるのだ。この不誠実者のゴロツキを探し出せ。そいつの皮をはぎ、私に供えるのだ」
ハーシーンの声は、怒りと言うよりもむしろ楽しんでいるように聞こえるのですが、おそらく気のせいではないでしょう。
しかし、私は同じウェアウルフとしてもはや彼を罰することはできません。怒りや恨みどころか、同情すら湧いてしまっているのです。
私の苦悩に対し、ハーシーンは無情にも言い放ちます。
「狩猟に報復はない。求めているのは復讐ではなく、生きている者を狩って血の追跡をする事だ。お前が遅れる間に、その者達が狩りをするだろう。選ぶのはお前自身だ」
ハーシーンは消えうせ、白い鹿の骸だけが残されました。
「聞こえたのね?」
背後を振り返ると、アエラさんが松明を掲げながら、じっとこちらを見つめていました。アエラさんから見るとただ私が一人で何かを話しているだけで、ハーシーンの声や姿については何も感じ取ることができなかったようです。
「狩りをご所望なのね。行きましょう」
呪いを解くためには、ハーシーン主催のシンディング狩りに参加しなくてはならないようです。もう後はありません。とにかくシンディングの元へ急ぎましょう。