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②④『白獅子夢物語』

♰24 不幸の元凶。


 国中の期待なんて、感じていない。そんな重いものを背負えるほど、あたしは力持ちじゃないし、元々応えるつもりもない。
 あたしはただ――――…ノヴァのためにこの城に留まっているだけだもの。
 エリオットさんは、爽やかに笑う軟派な騎士さんだと思っていた。
 けれども、貴族出の期待で苦労しているらしい。そんな苦労を隠すようにいつも明るく笑っているのだろうか。
 ほんの一瞬、足を止めて俯いたエリオットさんの顔が悲しそうだったから、励ましの言葉をなんとか絞り出した。その言葉に気を悪くしなくてホッとする。
 姉が二人いるおかげか、または重い期待の反動か、どちらかは確かではないけれど、あたしの手を引いて歩くエリオットさんは女性の扱いに慣れているみたいだ。
 手の甲にキスをして、甘く微笑むエリオットさんは、本当にイケメンさんだと思った。

「盗人だーっ!!」

 キッチンの方角からそんな叫びが聞こえるなり、エリオットさんは手を放して剣を掴んだ。
 高い城壁に囲まれて、騎士がたくさんいるのに、どうやって入ったのだろうか。首を傾げていたら、足音が聞こえた。
 あたしと入れ違いだったみたいで、小さな男の子が廊下を走っている。パンの匂いがするから、きっと抱えていた大きな袋の中身はパンだ。
 男の子が、城に忍び込んでパンを盗むなんて……。
 ここは裕福な国だと思っていたのに、どうやら飢えた子どもはいるみたいだ。
 あたしは男の子を追い掛けた。
 窓から城を出た男の子は、城壁に向かって走る。
 あの城壁をよじ登るつもりなのかと疑問に思いながら窓から出ると、男の子は城壁の四角い穴に袋を押し込んで張って入った。
 あの穴はなんだ。
 見たところ排水溝みたい。大人には決して入ることは出来ない。そもそも人間が入るものではないけど、子どもなら城壁を越えられる。
 幸い、あたしは十三歳。子どもに分類されている。
 だからあたしは――――…ちょぴり考えてから走り出す。
 その穴に向かって――――地面の上を滑って飛び込んだ。
 腕は頭の上に伸ばして、まるでウォータースライダーを滑るようだった。ちょっと濡れているから、まあまあな滑り心地。
 城壁が厚すぎて勢いをなくしたから、なんとか壁に手をついて身をよじりながら進む。

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