見出し画像

②⑤『白獅子夢物語』

♰25 非力な手。


 酷く後悔した。
 せめてエリオットさんを説得して、ついてきてもらうべきだった。
 あたしは短剣しか持っていない。身の守り方を教わっただけで、特別な力はあたしに危害を加える魔法を消すだけで、悪党退治にはなにも役に立たない。
 森を進んで街の隅っこにある孤児院にたどり着けたあと、あたしは短剣を握って壁に凭れた。
 救うと息巻いたのに、怖じ気づいて座り込んでいる。あたしに救う力なんてない。
 助けたい気持ちに突き動かされても、子ども達をこの手で救えない。
 惨めに膝を抱えて俯いた。
 街は賑わっている。
 あたしが背にした孤児院が、奴隷商人の隠れみのになっているとも知らずに平穏だ。
 子ども達だけが不幸に苦しんでいる。それを知っているのに、あたしはなにもできない。

ここから先は

4,035字

¥ 100

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?