⑧『白獅子夢物語』
♰08 おもてなし。
これはまた中世時代の田舎町のような煉瓦の屋根の建物が並ぶ町に連れてこられたかと思えば、一番大きなお屋敷に連れて行かれた。
なんでも大地主のお屋敷だそうで、町長と名乗るちょび髭の老人とともに挨拶をされたけれど、戸惑うあたしには右から左に流れてしまい、全然名前が覚えられなかった。
「みすぼらしい町で申し訳ありません、救世主様。城へ使いを送りましたから、二日後に到着するはずですので、少しのご辛抱を」
「それまで我が家に滞在してくださいませ。欲しいものは何なりと仰ってください」
低姿勢で町長も当主もあたしに言うから、戸惑う。
全然わからなくて、質問しようとしたけれど、声に出す前に「お召し物を洗いますので、こちらで入浴を」とエプロンドレスの年配のお姉さん二人に背中を押されてバスルームへ。
みすぼらしい町のお屋敷と言うには、広々としたバスルームだった。大理石のような綺麗な石の空間に大きなバスタブ。
ほどよい温かさのお湯が入っていて、薔薇が散りばめられていた。
嫌だと言ったけれど、メイドさんに身体を洗われて、お湯に浸かっている間髪の毛を洗われる。
お風呂は温かいものに限る。身体が暖まるからポケーとしてしまう。
髪を丁寧に洗われるのは、美容師さんに洗われるのと同じくらい、気持ちがいい。
セーラー服は手洗いされている最中らしく、髪を拭きながら白いフリルのAラインのドレスを着せられた。胸元と首元を露出する白に近い色のドレス。
それだけならいいのだけれど、コルセットまでつけられてウエストを締め付けられて呻いてしまう。
「聖少女様は素敵な体型をなさっておりますわ」
「あ、ありがとうございます……」
お世辞を言われたから引きつりつつも笑い返す。
締め上げておいて、それは説得力ないと思う。
髪もとかされて、お人形みたいに整えられたら、今度は料理が並ぶ部屋に案内された。
当主の絵がどーんと飾られていて、レッドブラウンのカーテンに挟まれた三つの縦長の窓から差し込む光が、ブラウンを基調にしたダイニングルームを明るくする。暖炉を背にして長いテーブルについた。
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?