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③②『白獅子夢物語』
♰32 魔法と力。
雲一つない空から、大きな雨粒がたくさん落ちてきた。
湖の水面を叩いている。
「立て、帰るぞ。今宵の雨は止まぬ」
彼はくすぐったくなる低い声で言って、抱き寄せてきた。
連れてこられた白い木の下は、なんとか雨がしのげる。
空は夜になり、満月が出た。
それでも雨が降り注ぐ。
雲一つないのに、雨が降って、満月が出ている。不可思議な光景。
雨はどうやら本当に止まないみたいで、ザアザアと降り注ぐ。
満月の光を浴びた大粒の雨が、時々キラキラと光を放つから少し眩しい。
なによりも、雨のせいで気温はずいぶん下がってきてしまっているように感じた。震えてしまうくらいだから、なかなか寝付けない。
彼はあたしの後ろに横たわると――――…右腕で抱き寄せてきた。
背中がぴったりと彼のあの逞しい胸と重なっている。
「これなら、温かいだろう?」
左耳に彼の唇が触れて、眠たそうな声で問われた。
あたしは悲鳴を堪えて「う、うん」と小さく返事をする。
彼は熱があるみたいに温かい。後ろから包まれると、とても……心地いい。
ちょっと、ぽけーとしてしまう。
背中に彼の鼓動を感じた。ドクン、ドクン、ドクン。ゆったりと、でもとても強い心音。それも熱く感じた。
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