①②『白獅子夢物語』
♰12 蓮華と雨音。
レオと一緒に少し姿を変えた森を散策しながら、サーベルタイガーの追跡を少ししてみた。
血痕はそれほど多くないから、まだどこかで生きているに違いない。
血痕を辿って森を歩いていたら、宝石みたいに青紫の羽を持つシジミチョウの群れが円を描くように飛び回る蓮華の花畑に行き着く。
そこに少しいたくなって、あたしが蓮華の花畑の上に飛び込めば、仕方なさそうにレオも隣に来て寝そべった。
シジミチョウが真上を旋回するのを眺めつつ、あたしは蓮華を摘んで花の冠を作る。
あたしとレオが食事を済ますと、動物達が覗きに来たみたいに顔を出す。遠巻きにあたし達を見て、決して近付かない。
お腹が満たされていれば襲ってこないと理解しているみたいだけど、だからってなんで見てくるのだろうか。
あたしは首を傾げてしまう。
「でーきた!」
蓮華の冠の完成。
起き上がれば、お昼寝をしていたレオが目を開いてあたしを見上げた。
そんなレオの頭に、あたしは冠を置く。
顔を上げてレオは頭に乗ったそれを見ようとするけど、多分見えないだろう。
「女の子がよくやる遊びだよ。お花の冠。まぁ、女の子だから、ティアラって呼んで作ったらお姫様ごっこすることが多いかな。あたしはお花を編むだけで、タイヤのブランコで遊ぶことに夢中だったから、お姫様ごっこの経験はないけど」
小学生の頃、公園で遊んだことを思い出して、レオに話す。
「キオリちゃんはおりひめだから、つくれるよね?」って気の強い女の子に、シャクに障る言い方されたから、織姫は関係ないけど仕方なく蓮華の冠づくりを競って作ったんだ。
そのあとのお姫様ごっこは付き合えないと断り、男の子と取り合うようにタイヤのブランコで遊んだっけ。あの頃は若かったな……。
「レオくんは気高き獅子の王様」
スカートを摘まんで、座ったままお辞儀して笑いかける。
百獣の王様。だから頭に乗せているのは、王冠だ。
するとレオは器用に頭を下げてからずり落ちた冠を口でキャッチすると、あたしの頭の上に置いた。
そしてサファイアみたいなシジミチョウが舞う中、白いライオンは頭を下げてお辞儀をする。
「……やだぁ、レオまであたしをお姫様って呼ぶ気なの?」
優雅なお辞儀に見惚れてしまったけれと、あたしは赤くなる頬を押さえて照れながら笑う。
ティアラとしてあたしの頭に乗せたレオが、顔を上げると青い瞳を細めて微笑んだような気がした。
耳まで真っ赤になった気がする。
くすぐったいけど、嬉しくて、レオがあまりにもかっこいいから、あたしは思わず手をついて身を乗り出して、レオの唇に自分の唇を押し付けてキスをした。
「えへへ、お姫様からのキス。ファーストキスだよ」
にっこりと笑いかける。
少し驚いたように目を丸めていたけれど、レオはその大きな顔を近付けると、あたしの額に唇を押し付けた。リップ音が聴こえた気がする。
堪らず、あたしはレオの首にギュッと抱きついた。もふもふと柔らかい鬣に埋まる。
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