
⑨『白獅子夢物語』
「え、なにも知らないの!?」
「うん。なにも知らない」
子どもになら簡単に訊けた。
クロードくんを中に入れて、ソファに並んで座って話をしながら、彼のスケッチブックを見る。
最初のページには、遠くにある城のスケッチが鉛筆で描かれていた。
うわぁお、上手い。
七分丈のズボンと蝶ネクタイのクロードくんは怪訝にしかめて、ぺしぺしと自分の膝を叩いた。
「物心つく頃から、この国の子どもは聞かされてきた!」
「あたしは違うもん」
「だったら俺が教えてやる!」
ページをまた捲ると馬のスケッチが描かれている。これまた上手い。
教えてもらうために話をしようと誘ったから、やる気満々になってくれて嬉しい。
「救世主の伝説は、このカテグワルド国が出来る大昔からある。この国は獣の姿をした神の森に囲まれて閉じ込められているんだ。星の神の世界からやってくる少女が現れ、彼女だけが持つことが出来る短剣で獣の神を倒して、閉じ込められたこの国を救ってくれるって」
またページを捲ると、今度は外から見た森の絵が描かれていた。
獣の神の森。それって、あたしがいた森のことじゃないよね。
この町は、カテグワルドという国の外れの町。
「……閉じ込められた国って……どこが?」
高い木に登って見てみたけど、壁は見当たらなかった。閉じ込められたって、どんな風に閉じ込められているのかと、スケッチブックを膝の上に置いてから彼の目を見て訊いた。
ここから先は
4,103字
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?