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①⑤『白獅子夢物語』

♰15 王の城。

「あ、あの、あたしは……キオリと、申します……。えっと、助けてくださり、ありがとうございます」

 あたしはあの黒ずくめに襲われてて、彼女は助け出してくれた。そのままお城へ直行するつもりだ。
 あたしが名乗り返すと、ベルベスと名乗る女騎士さんは顔を上げた。黒く長い睫毛の下にあるルビーの瞳があたしを見上げる。

「ご無事で何よりです。聖少女、キオリ様」

 聖少女キオリ様。
 むずむずする呼び方だ。
 どうしよう。このまま帰ることは出来ない。
 帰ったところで黒ずくめがいたら、レオが巻き添えになる。あんな黒い魔法をレオに向けられたら、大怪我じゃすまなさそう。
 レオとあたしの安全のためにも、彼女といた方がいいと思った。
 また連れて行かれたあたしは、自力で帰ることを諦める。
 きっと――――彼が約束を果たしてくれるはずだから、大人しく城に連行されることにしよう。

「城までまだ一日はかかります。申し訳ありませんが、夜の睡眠以外は走らせていただきます」
「あ、はい……。あの、先程の男の騎士は……?」
「彼ならすぐに追い付きます」
「はぁ……」

 再び黒馬に跨がると、女騎士さんはあたしに掌を差し出して、引っ張り上げて乗せる。
 もう一人の若い騎士は、あの黒ずくめ三人から生還して追い付くのかな……。
 疑問に思ったけれど、黒馬はあの人を気にすることなく駆け出した。
 本当に、黒馬は休憩せずに走る。
 一本の道をひた走った。
 三つくらい街を抜ければ、すっかり空は暗くなる。うたた寝しかけたけど、やっと止まった。
 車くらいの大きな岩があちらこちらにある草原で、野宿するらしい。
 岩が四つ並んだ真ん中で、女騎士さんは焚き火を始めた。
 この美女と何を話せばいいかわからず、馬から降りたあとは草の上に座り黙り込む。
 すっかり夜になった空に、満月が浮んだ。あの満月の下に、白い木がある。そこにレオがいるはず。
 満月を見つめていれば、その下の道から来る影に気付いた。
 馬だ。ブラウンの馬に乗ったあの騎士が、本当に追い付いてきた。
 ドサッ、と彼はイノシシを落とす。三人を足止めをした上に、イノシシを仕留めて追い付いてきた。
「ご苦労、ノヴァ」と女騎士さんは一つ声をかけると、イノシシを捌き始める。
 あたしは黙って見ていたけど、どっかりと腰を落とした騎士の方に目を向けた。
 少し疲れたように息を吐いた彼は、あたしの視線に気付いてこちらを向く。
 じっと、あたしを黙って無表情で見てくる。スカイブルーの瞳は焚き火の光で輝いていたけど、とても静かな眼差しだった。
 彼は、なんだか……。

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