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小説『青野先輩』(『先輩』を改題)

小説「青野先輩」(2018年に書き下ろした小説「先輩」を改題)
三月のパンタシア「青春なんていらないわ」原案小説
 

「うあぁ……」

 という自分のうなり声が耳に届き、まぶたが上がった。
 カーテンの隙間から差し込む薄青い光がまつげに触れる。あさ……と混乱したような声がぽつりとこぼれた。蒸し暑くて頭がぼうっとする。眠る前にセットしていた冷房のタイマーはとっくに切れている。
 夏の就寝時は、基本的に冷房は3時間で切れるようにタイマー設定している。もし暑くて目が覚めてしまったら、ふたたびタイマーを選択してから眠りに潜り込むのだ。
 薄目を開きリモコンを手繰り寄せ、いつもの手順でスイッチを押した。
 そういった日常的な動作の流れの中で、だんだん意識がはっきりしてくる。白い空調が吐き出す涼しい風が額を撫でた時、さっきまで見ていた光景が夢だったのだということを、ぼんやり自覚した。

 冷たく暗い洞窟の中。内壁は無機質で、小さなランプが等間隔に灯っていた。
 そこには私ひとりしかいなかった。おどろおどろしい静寂が暗闇に溶け込み、時々気味の悪いノイズが響き渡った。とにかく恐ろしくて、私はずっとずっと先の方に見える出口に向かって、必死に歩いていた。
 じめじめした湿気が肌に絡みついてすごく不快だった。とにかく早く抜け出したい。でもどんなに歩いても出口の光は遠いままで、息も上がって、足も疲れて、どうしてなんだろうって立ち尽くした途端、気づいたら自分の両足が絡み合って動けなくなり、そうしていると、まるでゆっくりとシャッターが下りていくみたいに、出口が塞がれていき、光は闇にのまれてしまい……。
 
 ひんやりした空気に包まれながら、薄暗い夢の面影をなぞっていた。
 夢でよかった、と私は思い切り深く息を吐く。べったりと汗ばんだ体で寝返りを打つと、ベッドのスプリングが鈍い音を立てて軋んだ。
 枕のそばのスマホを手繰り寄せると、午前5時近くを表示した。どうやらアラームが鳴るより1時間も前に起きてしまったらしい。
 
 このまま、スマホの電源ごと切って、ふたたび眠りの中に埋もれ、逃げてしまおうか。

 そんな考えが本気で浮かんで、乾いた笑いがこぼれた。
 私の心に居座る不安は、いつの間にこんなにもすくすく成長していたのか。
 これからはじまる毎日を思うと、億劫で、胸に鉛が沈んでいくような気持ちになる。
 あぁ、今日から夏休みが始まってしまう……。 

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