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恐竜卵屋  その3

連載小説 ぼくの夢?


   五 どの卵にする?

「おい裕也、そんなにカッカするなって。あのさぁ天使の仕事って夢発見のサポートだろ?
オレ思ったんだけど、天使のおっさんは夢を育てるために卵を渡す。そして夢見つけるためにある程度の期間はサポートをするけど、そのあと卵がどうなるかは本人にまかせたんじゃないのか?
そう考えると恐竜がどうなったか知らない理由がわかるだろ?」

「そうです、そのとおり。こちらの坊ちゃんは、よくわかっていらっしゃる」

「つまりだな、結果どうなるのかは、卵を貰った本人しかわからないんだって」

なんだかへ理屈みたいだけど、一応うなずいた。
けど・・・、ぼくが黙っていると義広がきいてきた。

「なんだよ裕也、まだなんかあるのか?」

「なあ恐竜はどこにいるんだ?さっきも言ったけど、見たことも聞いたこともないってことは、やっぱこの卵は孵らないんじゃないのか?
義広はさぁ、いつまでもうだうだ考えるな、って言いたいんだろ?でもこれって絶対おかしいって」

「それは・・・」

少し間をおいて、義広は自分を納得させるかのようにしゃべり始めた。

「夢がかなっていないからだ。そう、夢は見つけたけど、それを実現できなかったか、もしくは途中で放棄した。だから恐竜は孵らない。
うん、そうだったんだな」

夢を見つけたのに、実現できなかった?それってなんか、こじつけのような気がする。

「卵を孵すのっておもしろそうだろ?だから、裕也も深く考えずに卵をもらおうぜ」

返事もせずに渋い顔をしていると、今度は義広がぼくを店の隅に引っぱっていった。

「おい裕也、いいか?オレはさ、ちゃんと先を見通して卵をもらおうって言ってるんだぞ」

「先?」

「ああ、オレたちが今から手に入れようとしているのは、恐竜の卵だ。それはおまえだってわかってるよな?」

ぼくはうなずいた。

「オレたちは金がない」

「ちょっと待てよ。恐竜の卵から、なんでそっちにふるわけ?」

「いいから聞けって。この恐竜の卵は、オレたちにとって金の卵なんだ。
卵コレクターの中には化石の卵を持ってるやつはいるけどさ、生の恐竜の卵なんて見たことないだろ?
だから目の前にある卵は超レアもの。恐竜の卵の化石さえ目が飛び出るほど高い値段がついているんだぞ。それが生の卵だったら、それこそ天文学的な値がつくこと間違いなし」

「おまえ、卵を売るつもりなのか?」

「シーッ、大きな声を出すなって。おっさんに聞かれたらヤバイだろ」

「わるい」

「オレ的には、できるだけ早く卵を売りとばしてさっさと金を手に入れたい。けどそれはできない」

「どうして?」

「さっきあのおっさんが言っただろ?夢を見つけるサポートをするって。
ということは、おっさんは、夢を見つけるまでオレたちの所に来る可能性がある。その時卵がなかったらヤバイし、なにより今の技術だったら3Dで本物に似せた卵ななんて作れる可能性があるじゃん。
でも、まさか生きた恐竜なんて作れっこない。だから、オレは卵そのものより一か八か何十倍、いや何百倍もの値打ちがつく恐竜の方に賭けてみようと思うんだ」

ぼくがしゃべろうとするのを義広が止めた。

「わかってるって。おまえはジェラシックパークじゃあるまいし、恐竜なんて孵りっこないって言いたいんだろ?
けど、それってやってみないとわかんないって。卵は無料でもらえるんだぞ。だからもし恐竜が出てこなくっても、こっちは痛くもかゆくもない。
違うか?オレたち、そろそろ寿命のバッシュウを買い替える金がないほどみじめだろ?でも金があれば、それこそなんだって買えるんだぞ。
ほら、おまえだって何の心配もなく海南を受験できるしさ」

そうなんだ、海南に行こうと思ったら金がいる。入学したらしたで、きっとそのあとも金はかかるんだろうなぁ。うちの経済状態悲惨だし・・・。

「でも・・・さぁ、もし卵が孵って恐竜を売るとしたら、この卵をどこで手に入れたか絶対聞かれるし、それより先、恐竜って夢を実現しないと孵らないんだろ?これって、どう考えても何年も先のことじゃないか」

「そうとも限りませんよ]

「ひえぇー」

またしてもぼくらの後ろに、天使のおっさんが立っていた。

「坊ちゃんたち、いいですか?わたしの卵はその想いの深さ、つまり自分の夢を真剣に思い続ければ続けるほど孵るスピードが加速度的に速くなるんですよ」

「じゃあさ、夢の実現がまだ途中であっても、マジに想っていれば恐竜は一か月で孵る可能性もあり?」

「あり」

天使のおっさんがうなずいた。

「だ・か・ら、夢を見つけましょ。で、そのあと恐竜を売ってお金を手に入れてください」

「あ。あの・・・、恐竜を売るなんて、そんなことをしてもいいんですか?」

ぼくはおずおずと聞いた。

「わたしは坊ちゃん達が、夢を見つけてくださえすればそれで十分。その後は、どうぞご自由にしてください」

「裕也、天使のおっさんって理解あるよな?最高じゃん。それとさぁ、恐竜をどこで手に入れたかの説明なんて卵が孵ってから考えればいいんだって。だから今からそんなことを心配するのはムダムダ」

「そうですよー、こちらの坊ちゃんの言う通り。それより、あのさっきちらっと聞こえたんですけど、坊ちゃん達はお金が欲しいのですか?」

義広が大きくうなずく。

「だったらもうこの卵をもっていくしかありません。そうすれば孵した恐竜を売ってお金は手に入るし、さらにおまけとして夢まで見つけられる。最高じゃないですか。
もうこうなったら、やるしかありませんよね?」

「うん、そうだよな」

二人が意味ありげにぼくを見ている。

「な、なんだよ、その目は。言っとくけど、ぼくは自分の夢なんてわからないから、卵をもらえっても孵せないんだぞ」

「ご安心ください。お忘れですか?わたしの仕事は、夢発見のサポートじゃないですか」

「だから?」

「夢を見つけるためのアドバイスをちゃんとしてあげます。
あっ、でもその前に好きな卵を一つ選んでくださいな。その方が夢を見つけたいって気持ちが高まりますでしょ?」

天使のおっさんは、やけに明るい。明るすぎるくらいだ。なんだかうまくごまかされているような気がする。

「ほら裕也、おっさんの言うとおりさっさと卵を選ぼうぜ。さぁてと、おれはどれにしようかな?」、

義広は段の周りをぐるぐる回って卵の値踏みをしてから、一番大きな卵の前で立ち止まりこの卵を撫で始めた。
もらうつもりなどなかったのに、こいつが卵を撫でているのを見ると猛前とうらやましくなった。

うーん、義広じゃないけれどくれると言うのだから、一応もらっておいても損はないか。

「どれがいいかなぁ?」

「これなんかどうでしょうか?」

義広は天使のおっさんが、指さした大きな卵をでながら聞いた。

「これって、なんの卵?」

「ティラノサウルスです」

「テ、ティラノサウルス?」

義広があわてて手を引っ込めた。

「お気に召ませんか?では、これはいかがです?あんまり大きくなりませんけど・・・」

天使のおってさんが棚の中段にある黄色の卵を指さしたので、今度はぼくが聞いてみた。

「それは?」

「アロサウルスです」

「アロサウルス?たしかそれも肉食だろ?頼むから草食でおとなしいのを選んでくれよ」

「どっちもわたしのお気に入りなんですけど、坊ちゃんのお好みじゃないみたいですね、だったらこれなんてどうですか?アケロウサウルスの卵ですよ」

「アケロウサウルス?それってどんな恐竜なんだ?」

「草食恐竜です。やっぱりあんまり大きすぎるのも大変ですから、体長が5~6Mぐらいのものの方が無難だと思いますが、いかがでしょうか?」

そうだよな、いくら草食恐竜といってもあんまり大きくなりすぎるのも困るよな。

「よし決めた、そのアケロウサウルスにする」

「そうですか、ありがとうございます。さて、そちらの坊ちゃんのお好みは何ですか?」

「オレも、草食恐竜」

 義広が答えた。

「それでしたらパオリンサウルス、なんかがよろしいかと思いますが」

「じゃあさ、そのパオなんとかでいいよ」

「パオリンサウルスですね?ありがとうございます」

天使のおっさんがぼくに薄茶色に黒の斑点の卵を、そして義広にはうすい灰色の卵を手渡してくれた。
少しざらっとした感触、色、模様、そして楕円形のフォルムの美しさは、やっぱり感動ものだ。

ぼくと義広は、卵を抱いてうっとりとしていた。

「オッホン。さて、それでは本題に入らせていただいてよろしいですか?」

「あっ、そうそう、そうだよな。肝心なのは夢だったよな?」

義広が同意を求めるようにこっちを見たので、ぼくも慌ててうなずいた。

「夢を見つけなければ恐竜は孵らないんですからね。その点をきちんとおさえておいてください。いいですか、坊ちゃんたちが第一にすることは夢発見ですよ、夢発見」

天使のおっさんは夢発見に力がはいっている。

「ではこれから・・・、えーっと坊ちゃん達の名前は何でしたっけ?」

「裕也」「義広」とぼく達は答えた。

「失礼しました。ではこれから裕也さんと義広さんの夢発見プロジェクトを開始します。じゃあ、お二人がやるべきことを順序だててお話しますね。
①坊ちゃん達は好きなものを紙に書き出してください。何でもいいですよ。こんなの、なんて思わずに逐一書くことが大切です。最低でも百個書いて、これ以上でないとなったら、
②書き出したものを半分にする。つまり、これは残したいもの、残したくないものと分けるのです。そして半分になった残したいものをまた半分、また半分と削っていって最終的に十個くらいまで絞る。
そして③最後に残ったものの共通点を探す」

義広が手をあげた。

「あのー質問。そんな簡単なことで夢が見つかるんですか?」

「簡単そうに見えるかもしれませんが、これは奥が深いんですよ。
でも大丈夫。真剣にやれば、これが自分の夢へと導いてくれるはずです」

「ほんとに?」

「えーっと・・ま、まぁ大体はこれで見つかると思うのですが・・・」

どう考えてもぼくらは、が・・・の次の部類だな。

こんなぼくらを見て、天使のおっさんもいささか不安になったのか難しい顔をしている。

「本当だったらこんなに急がせず、もっといろいろな方法を試して、ゆっくりと夢へ向かわせる方がいいんです。
そうすれば確実に夢が見つけられるはずですから。でもねぇ、今回は時間も限られていますし、なんといったもわたしの首がかかっているからそんな悠長なことは言ってられないし・・・。
うーん、やっぱり保険をかけておいた方がいいかも・・・。
でもどんな方法が・・・」

しばらく考えていた天使のおっさんは、ポンと手を叩き

「うん、こんな時はあの方しかいません。坊ちゃん達、すいませんが少しの間ここで待っていてくださいな」

と言って奥の部屋に消えていったが、五分くらいすると手に一枚の紙を持ってもどってきた。

「さあさ、これで万事OK.手はずはちゃんと整いましたよ。あの方がこんなに近くに住んでいるなんて、やっぱりわたしの日頃の行いがいいからですね」

天使のおっさんは、なんか一人でほくそ笑んでいる。

「あのさぁ、何が言いたいの?」

こう言ったぼくの手に、天使のおっさんは持っていた紙切れをにぎらせた。

「なに、これ?」

「もしも、もしもですよ、好きリストから夢を導きだせなかったら、坊ちゃん達はここに書いてある場所に行ってください」

ぼくが二つ折りになった紙を開くと、そこには【曙町平田4ノ1 菊田源一】と書いてあった。

「ここに行って、どうするんだ?」

横から紙をのぞき込んでいた義広が聞いた。

「修行をするのです」

「修行ー?修行って、なんだよ、それ?なんでそんなことをしないとダメなんだ?」

「この件に関しては全て菊田さんにお任せするので、修行として何をさせられるのかは、わたしはお答えできません。
でも、さっき言いましたように坊ちゃん達がちゃんと好きリストから夢を見つけ出しさえすれば、修行はしなくてもすみますから」

ぼくと義広は顔を見合わせた。

「まあな、そう言われればそうだ。オレはできるだけ早く金を手に入れたいからさ、修行なんてしないで、さっさと夢をみつけるつもりだけどね。
裕也もそうだろ?」

「ああ」

いくら大金が手に入ったとしても、それが何年も先のことだったら全然意味がない。

「じゃあ問題ないじゃないですか。期限は一か月ですが、修行なんてしないでできるだけ早く夢を見つけてください。
わかっていると思いますが、坊ちゃん達の手にわたしの天使としての運命もかかっているのですよ、わたしの運命がねっ!」

「まかせとけって」

義広は自信満々に答え、腕の中にある卵を愛おしそうになでている。
ぼくはというと、夢ってそんなに簡単に見つかるのか?と不安があった。

「夢が見つかったらこの場所に立って、わたしの名前を呼んでください。
わたし、坊ちゃん達の声が聞こえたら、すぐに来ますからね」

 ぼくたちを出口まで見送ってくれた天使のおっさんは、最後に

「ああそれと、考えるのが面倒だからって適当なものを夢と言ってもダメですからね。わたし、だてに百年もの間天使をしていたわけじゃないですから、ウソの夢か本当の夢かぐらいはちゃんと見抜けますよ」

と言うと、義広はグウッとカエルみたいな声をあげた。
図星みたいだな。

「坊ちゃん達ー、がんばってくださいねー」

義広とぼくが全然励みにならないエールを受けながら空き地を出た瞬間、背後でブワッと強い風が舞い上がった。
驚いて振り返ってみると・・・、何もない。そう、今の今まであった恐竜卵屋が姿を消していた。

「わぉ、すっげぇよな。一瞬にして消えるなんてさ、UHOみたいでかっこいい」

義広は感動しまくっていたけれど、ぼくに言わせたもらえば、身体一つで出てこられるのにこんなことするのは全くムダ。

天使のおっさんは、こんなパフォーマンスに力を注ぐから落ちこぼれなんだって。



     六 好きリスト

大音量でラップが流れ始めた。アラームをセットしていたスマホだ。

「裕也ー、早くしないと朝練遅れるわよ」

やばっ! 速攻で制服に着替え、階段を降りる。
トースターから出したパンを立ったままかじり、皿にのっていた二枚を手に掴んで玄関を出た途端、隣の空き地が目に入った。

「あっ、卵」

巻き戻しのように玄関に行き、自分の部屋に戻ってクローゼットを開けると、そこにはタオルケットに包まれたアケロウサウルスの卵がちゃんとあった。

「裕也、なにしてるの?もう六時半よ」

いけね、急がないと遅刻だ。
猛然とダッシュしながら天使のおっさんとの会話を思い出してみる。
卵があるっていうことは、昨日のことは夢ではなくまぎれもなく現実。ということは、義広のセリフじゃないけれど大金が手に入る可能性がグーンと高くなったわけだ。
けど、あのリストが難問。あんなのはパスして、さっさと夢を見つけたいって。

この時ピンときた。そうだ!好きリストを作る前にさっさと夢を見つければいいんだ。でもどう考えても、それは無理。

朝練が終わったのが予鈴五分前。急いで制服に着替え、教室に入った。

窓際の一番後ろの席につき、クラスメート全員を見渡してみる。
この中に夢を持っている奴っている?
全国模試だ、偏差値だとか言って血眼になって勉強している山田や佐藤だって成績そのものが大事であって自分の夢のためにがんばってるっていう感じはしない。
もう一度クラスメイトを端から順に見回してみた。ん?ぼくの視線が斜め右でピタッと止まる。
ショートカット、小麦色に日焼けした横顔、なんかいいよなぁ・・・。ぼくは、知らず知らずのうちに片桐このみから目が離せなくなっていた。

この時パシッと頬に何かが当たる。
いってえねぇ、なんだよ?と机の上に視線を落とすと、丸まった紙玉が落ちていた。
周りを見回すと、ニヤニヤと笑っている義広と目が合った。
こいつか・・・。チェッ、やな奴。

とにかくぼくが見たところ、この中に夢について語ってくれそうな奴はいないという結果が出た。
まあさ、高校受験が目の前にぶらさがっているぼくらに夢なんて漠然としたものを考える余裕なんてないしね。
けど、これに金がかかっているとなったら話は別だ。授業を犠牲にして、夢についてずっと考えてみた。けど、ただやみくもにもがいただけ。

放課後になると、地区大会を目の前にひかえハードな部活練習が始まった。

「よーし、十五分休憩」

 顧問のゴリヤンが叫ぶと、体育館内に響いていたドリブルの音が止まった。

「うへぇー、のどがカラカラで死ぬって」

ぼくと義広は、風が通り抜ける体育館入口に腰をおろした。
冷たい麦茶をがぶ飲みして一息つくと、義広はすぐに紙を取り出し何かを書き始めた。

「なにしてるんだ?」

「好きリストに決まってるだろ」

「真面目じゃん」

「自力で夢が見つからないから仕方ないだろ。オレはさ、絶対に夢を見つけたいんだって」

「好きリストかぁ・・・。なぁ、お前、何書いた?」

義広の紙をのぞくと、紙一面びっしりと書き込みがしてあった。

「なに、これ?すっげぇ。いつの間に書いたんだ?」

「まあちょこちょこ時間を見つけながらね。ほら裕也もさっさと書けよ。部活が終ったらすぐ塾だから、もう時間ないぞ」

「ああ」

返事をしたものの、なんだかいまいちやる気がでない。かったりーと寝ころぶとスコーンと抜けたような青空が見えた。

「なぁ・・・」

 ぼくが呼びかけると、義広は顔を上げた。

「どうして夢が必要なんだろう?」

「オレたちの場合、金のためだろ」

あっさりと義広は答えた。結局好きリストを書くこともなく、部活、夕飯、塾といういつもと同じパターンで一日が過ぎてしまった。

二日目。

昨日と同じくせっせと書き込みをしている義広とは対照的に、ぼくの紙は白紙のまま一日が終わろうとしていた。

「ただいまー」

塾から帰って玄関の戸を開けると、父さんが風呂から出てきたところだった。

「裕也、こんど三者面談だって?」

「ああ」

「先生には、希望校は海南一本でいくって言うんだぞ」

「そんなとこ行けるわけないだろ」

「どうしてだ?おまえの成績だったら、もう少し頑張れば合格圏内だろ?」

「なに言ってるんだ。あそこは・・・」

私立で金がかかるんだぞ。うちにそんな金があるのかよ?と言いかけた言葉を呑み込む。

「海南なんて行きたくないね」

吐き捨てるように言って、階段を駆け上がった。

海南に行けだって?うちにそんな金ある?ないじゃん。こっちがさ、家の事情を何も知らないガキだと思ってるのか?ほんと、どうかしてるって。

ベットに倒れこみ、壁に羽枕を投げつけてやった。
クソッ、クソッ、クソッ。あー金欲しい。金があればこんな惨めな状況を変えられるし、なんでも思いのままだよなぁ。世の中金次第だしなぁ・・・。

「夢、見つけるしかないか」

ガバッと跳ね起き、クローゼットからタオルケットに包まれた卵を出す。
そっと抱くとTシャツの上からでも、ほんわりとした温かさが伝わってきた。

「うん、そうだって、やるしかないって」

ぼくは自分に言い放ち、机に向かった。レポート用紙を一枚はがし、まずバスケと書いた。
 
 
   
 
 
   

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