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教習所では教えてくれなかったこと

奈良方面にツーリングに出かけた。
国道163号線を木津方面に向かって進む。ドライブ日和だったので
乗用車もバイクも多く、渋滞気味の163号線を選んでしまったことに後悔しつつ、なんとか最初の目的地、「道の駅みなみやましろ村」の近くまでたどり着いた。しかし、すぐそばに駐車場の入り口が見えているというのに車列は一向に前に進まない。

知らなかったのだがかなり人気の道の駅らしく、観光客が殺到しているようだ。まぁ、特にこの場所で何をしたいというわけでもなかった。しいて言えば昼食を取りたかっただけなので、ここはあっさりと諦めて次の目的地に向かうことにした。

次に向かった先は伊賀焼という焼き物の窯元「長谷園」。
近くにレストランくらいあるだろうと向かったのだが、それらしきお店を見つけることができないまま長谷園に到着してしまった。かなり空腹だったがここまで来てしまったのだから仕方ない。とりあえず登り窯など見学することにした。

巨大な登り窯。今は使われていないようだ

大正館という建物が目に入る。どうやら無料の休憩スペースのようだ。建物の中はレトロな雰囲気のカフェといった佇まいで数組の椅子とテーブルが並べられている。しかしここはカフェではないので店員さんもいなければお客さんもいない。自動販売機が一台置いてある。缶入り飲料のそれではなく、サービスエリアなどでよく見かける紙カップにコーヒーが注がれるタイプの自動販売機だ。

大正館の内部

1杯400円…。なかなか強気の値段やな。自販機のクセにそのへんのカフェ並みに取るやん。まぁせっかく来たのでコーヒーくらい飲んでいこう、と自動販売機の前に立つ。
あー、なるほどな。400円の謎が解けた。この窯元で焼かれた伊賀焼のカップが自動販売機の横に並べられていて、そのカップを機械にセットして料金を投入するとコーヒーが注がれる。飲み終わったらそのカップはお土産として持ち帰ることが出来る、というシステムなのだ。それならこの値段も納得、むしろ安いくらいだ。

自動販売機
伊賀焼のカップ

長谷園を後にして広域農道「伊賀コリドールロード」を南下する。次の目的地「湖畔の里つきがせ」に向かう。遅くなってしまったがここで昼食をとるつもりだ。それにしても素晴らしい道だ。ゆったりとしたカーブやアップダウン。周りには新緑の森や田園風景。農道なので信号はほとんどなく行きかう車もまばらなのですごく走りやすい。のんびりとコリドールロードを進んでいるとプツっとBluetoothが切れた。ソロツーリングなのでインカムは必要ないが、ヘルメットにBluetoothスピーカーが入っていていつも音楽やナビ音声を聴きながらツーリングしているのだ。このまま音楽なしで進んでもいいのだが、なんとなく路肩に寄せてBluetoothを繋ぎなおすことにした。ちょうどバイクを止めれるくらいの脇道の入り口が目に入った。林道への入り口らしいその場所には乗用車が侵入できないようコンクリートの塊が置いてあった。

バイクを止めサイドスタンドをかけようとしたら、前下がりの勾配で、しかも地面には落ち葉が積もっている。このままサイドスタンドをかけてバイクから降りてしまって大丈夫だろうか?と不安がよぎった。そうや!このコンクリートの塊に前輪を当てたら安定するんちゃうの?冴えてるなぁオレ。

バイクを降り、無事にBluetoothを繋ぎなおす。スピーカーから再び音楽が流れ始めた。さぁ、出発だ。

「…。」

「…?」

う、動かへん。バイクがビクともしない。そりゃそうだ。下り勾配にバイクを止めて、しかも前輪は巨大なコンクリートの塊に当たっているのだ。当然バイクにはバックギアなどついていない。試しに右手でリアキャリアを掴み左手でハンドルを握って力の限りバイクを後ろに押してみる。大型のなかでは軽いほうのGSF750だが、それでも200kgある。今や重い鉄の塊と化した愛車が恨めしい。おまけに足元には落ち葉が積もっていて滑るので厄介だ。バイクを倒さないように、しかも力を入れないといけないので、左手はどうしてもハンドルを切ってしまう。本当ならまっすぐに後退させたいのだが、意に反して左手は勝手にハンドルを切ってしまうのだ。重いうえにハンドルが切られているのが抵抗になり、ますます後ろに下がらないという悪循環。みるみる汗が噴き出してきて革ジャンもヘルメットも脱ぎ捨てた。空腹なので力もはいらない。

バイクと格闘すること数分間。このままでは埒が明かない。方法を変えてみることにした。サイドから押すのではなく、跨った状態で後退させてみた。この状態では脚の力だけしか使えないというデメリットがあるが、ハンドルをまっすぐに保持できるというメリットがあり、しかも数センチ後退した瞬間、ブレーキを握ることにより前に戻るのを防ぐことができるのだ。

こうして尺取虫のように数センチ後退してはブレーキを握るを繰り返し、なんとかコンクリートの塊から40センチほど前輪を離すことに成功した。こうなればハンドルを切り、車体を徐々に勾配に対して横に向けることができる。格闘することさらに数分、ようやく車体は横を向いた。エンジンを始動し、ギアをローに入れ無事に脱出することに成功した。

教習所では決して教えてくれないが、今回の一件で身に染みた。もう前方にスペースのない下り勾配での駐車は二度としないと心に誓った。

月ヶ瀬ダムを見下ろすロケーション
空腹と疲れた身体にキーマカレーが沁みました

おしまい


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