ダム湖のトイレ、意外な機能
週末は季節外れの陽気になるとの予報だったのでツーリングの予定を立てたのだけど、前日の夜になってもまだグズグズと行き先を決めかねていた。
その日、嫁は実家のある加古川で友達と会う約束をしてるので別行動になる。待ち合わせの時間は12時か…。そや!嫁を待ち合わせ場所まで送るついでにツーリングもしたら一石二鳥ではないか!行きはタンデムで高速を飛ばして帰りは一人のんびりとツーリングを兼ねて下道で帰ってきたらええんちゃうの?
嫁にそのアイデアを伝えると快諾。でも行きだけではなく帰りも乗って帰ると言い出した。以前はバイクに乗せたろか?といってもあまり乗り気ではなかったが、ちょっとバイクの楽しさが分かった来たのだろうか?それとも季節外れの陽気のおかげか?
まぁそれはさておき、6時までには帰宅したいので渋滞も考慮すると4時には加古川を発ちたい。逆算するとツーリングに使える時間は4時間か。昼食を食べたり休憩する時間もあるのでそんなに遠くにはいけない。
嫁を待ち合わせ場所におろし、さてどこに行こうかとネットを調べる。無計画にもほどがあるが、要するに良いお天気の日にバイクで走れればどこでも良いのである。加古川から片道1時間の距離に糀屋ダムというダム湖を見つけた。
行き先が決まったので先ずは腹ごしらえだ。丁度途中にライダーズカフェがあるようなので行ってみることに。
ライダーズカフェらしく、駐車場には数台のバイクが停まっている。店内はアメリカのダイナーのようなインテリアだ。アメリカには行ったことないけど。
加古川名物「かつめし」があったら注文しようと思ってたけど、残念ながらなかったのでハワイアンロコモコをいただきました。
昼食を終え、いよいよダムに向かって出発。2月とは思えない陽気についニヤけてしまう。最高ではないか。他に走っている車も少なく田園地帯の平坦な道路は走りやすくてとても気持ちいい。しかし時折集落の中を抜けるのでスピードは控えめに。
ダム湖に向かう道なのでもっと高低差のあるワインディングを想像していたのだけれど、意外と平坦で緩やかなカーブが続く。1時間もかからず呆気なくダム湖に到着した。まぁ今日は時間もないのでこれくらいがちょうどいいのかもしれない。
ダムサイトには休憩スペースに小さな公園?とトイレが併設されている。こんな所まできてブランコに乗る子供がいるのか⁈自販機を置いてくれた方がよほど役に立ちそうだ。暖かいとはいえやはりトイレの回数は増えるのでこのトイレで用を足すことに。このような場所なので水洗ではなく汲み取り式のトイレだ。小のスペースは朝顔ではなくタイル張りの横長の溝があるだけの簡易な造り。溝の中心に向かって勾配がとってあり、おしっこは中心の穴に集まって下の貯留槽に落ちる仕組みだ。個室は怖くて中を確認していないが、やはり昔ながらのスタイルであることは想像できた。
景色を眺めながらボーっと放尿する。なんて穏やかな時間!人工的な音は聞こえず辺りは静まり返っている。そんな中で用を足し終えてからふと耳を澄ませると、あることに気がついた。溝の穴から下の貯留槽にオシッコが落ちる時、何とも言えない音が響くのだ。おしっこが落下するときに発せられているとは思えないとても澄んだ、金属的ともいえる音。これは何かの音に似ている。そうだ!これはまさに水琴窟だ!何ということだろう。こんな寂れたダムサイトの公衆トイレに、今まさに澄み切った水琴窟の音色が響いているのだ。意図してこんな機能があるわけでは当然ないのだけれど、私は勝手に「水琴窟トイレ」と命名した。
水琴窟トイレを後に、再び嫁を迎えに行くため加古川に戻る。まだ待ち合わせの時間まで余裕があったので、前から気になっていた市内のライダーズカフェに行ってみることにした。期せずして今日はライダーズカフェ巡りの日になった。
たいていこういうお店は郊外にあることが多いが、そのお店は加古川駅の近く、市街地にある珍しいライダーズカフェだ。
加古川出身の嫁によれば、昔は明日香という名前のチェーン店で普通の喫茶店だったのだけれど、いつからかライダーズカフェに変わったようだ。
注文をとりに来た店員さんが「初めてのご来店ですか?どちらから来られました?バイクで来られました?」と聞いてきた。気さくな雰囲気の店員さんだ。「大阪からバイクで来ました」と返答したら、こんなのをくれました!
「無事カエル」交通安全キーホルダーです!こういう気遣いは嬉しいですねー。嫁に「いま駅の近くの喫茶店にいるけど来る?」とLINEしたら20分で来ると返信。よく考えたらバイクで帰るので待ち合わせ場所は駅にこだわる必要はない。今日は友達のYさん運転の車であちこち移動していたので喫茶店まで送ってもらうことになった。嫁も友達も当然加古川は地元である。にもかかわらず道に迷ったようで店に到着したのは40分後だった。だからアプリの位置情報送ったのにー。まぁ、この二人の方向音痴は今に始まったことではないのでこれが平常運転。ちなみに友達のYさんはJR宝殿駅近くでおにぎり屋さんをやってる美人女将なのでツーリングのお供に是非寄ってみて下さい!
久しぶりの再会に話も弾み、予定していた出発時間を少し過ぎてしまったけど、まだ余裕で間に合うはず。Yさんに別れを告げ帰路についた。バイパスは交通量少し多めだったけど順調に流れている。ところが月見山の料金所手前から急に車列が動かなくなった。
電光掲示板には事故渋滞の文字が。しかし料金所を過ぎてしまったので途中で離脱するわけにもいかず、車列に並ぶ。歩くくらいの速度でじわじわと前進。これくらいのスピードがバイクにとっては一番ツラい。幸い月見山料金所から若宮付近までは下り坂なのでタンデムの大型バイクの重さを活かして惰性で前進することができた。しかしブレーキを多用する不安は拭えない。この程度ではペーパーロック現象は起こらないとわかっていても気持ち悪い。実はこのツーリングの前に、自分でリアブレーキのフルードを交換したのだ。ブレーキフルードの交換は初めてではないのだが、GSF750のリアブレーキのキャリパーは対向ポッドになっていて、ブリーダーボルトが2箇所ある。今まで片押しのキャリパーしかやったことないので困惑しながらもなんとか交換を終え、片道10kmの通勤コースを往復したのでたぶん大丈夫だと思うのだが、こういう状況になるとどうしても悪いイメージが頭に浮かんできてしまう。
渋滞に巻き込まれてからどれくらい時間が経ったんだろう?そろそろ足とクラッチを握る左手が限界だ。おまけに若宮を過ぎて湊川まで徐々に道が平坦になるので坂道を利用した惰性運転ができなくなる。半クラを多用し、頻繁にローとニュートラルのギアチェンジを繰り返す必要があり、かなり体力、精神力が削られていく。そんな苦労を横目に路肩には何台ものバイクがすり抜けていく。「くそー、お前らがバイクのイメージ悪くしてるんやぞっ」
エンジンからの熱気も上がってきている。このバイクは油冷エンジンといってエンジンオイルをオイルクーラーに循環させて冷却する仕組みなのだが、このオイルクーラーに走行風をあてることによってはじめて冷却効果が発揮される。渋滞とともにエンジンはさらに熱さを増し、まるで股の間にストーブを挟んでいるようだ。この時期は気温が低いからいいようなものの、これが夏場ならさらに地獄、渋滞は苦手なのだ。
「もう無理、非常駐車帯に止まってでも休憩せなもたへん」と思った時に、前方に赤色灯が見えた。とうとう事故現場にたどりついたのだ。事故車両はすでに移動したようで、現場では規制を解除する作業が行われていた。渋滞を抜けるとエンジンの熱気もみるみるうちに下がり、心配していたブレーキもどうやら異常はないようでホッと胸をなでおろす。
渋滞から解放され、尼崎のパーキングに到着したのが出発してから2時間30分後のことだった。順調に進めば1時間かからない距離なのに。これは今までで最長記録かもしれない。パーキングでスマホを確認すると息子から着信があったので
「どないしたん?」
と返信すると
「どないしたんやあらへんがな、何の連絡もなく帰宅時間になっても帰ってけぇへんから、これは絶対オトン事故ってるわと思ってたんやぞ」
すまん、心配かけたなぁ。でも君がバイクで出掛けて帰宅が遅くなった時の親の気持ちが少しはわかったやろ。
おしまい。
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