終了点の残置カラビナでトップロープクライミングをしてはいけない理由
はじめに
クライミングのルールには大まかに2種類があります。ひとつ目は、他者に配慮するためのルールです。ふたつ目は、安全を確保するために必要なルールです。
ルールには特性があり、誰が、何に向けて行う行為なのか、その境界線を分けて考える必要があります。今回は、終了点の残置カラビナをどう使うのか?にテーマを絞って進めていきます。
ひとつ目のルール
多くの方が知っているように、残置のカラビナはロワーダウンの時に使うものです。残置カラビナは、クライミング終了後すぐにロワーダウンに移れるので便利で安全です。
カラビナが無い場合は結び替えや懸垂下降の必要があり、ロワーダウンに比べて危険性が高まります。そしてこのカラビナは初登者が設置します。古くなった場合は初登者や、他の誰かの手によって多くの場合、自腹で交換されます。つまりカラビナを交換したクライマーは他の誰かに寄付したことになるわけです。
トップロープクライミングで何度もカラビナを使うと、ロープのメンテナンス状況にもよりますが、ロワーダウンだけで使った場合に比べ、早い段階で老朽化してしまいます。そういった背景を考慮して、カラビナはなるべく長く維持させようという面からトップロープでの使用は控えるようになりました。
これがひとつ目の、他者に配慮するためのルールです。
ふたつ目のルール
終了点の残置カラビナは、もう1つのルールも内包しています。
人気のあるルートなどは順番待ちになることがよくあります。クライミングはクライマーの技量に合わせて登る方法が変わります。技術的に安全であればリードクライミング。そうでなければトップロープクライミングという具合です。
例えば、終了点の残置カラビナでトップロープクライミングをしているパーティーが居たとします。何度か登って疲れたので休んでいる間に、別のパーティーがやってきてリードクライミングをします。しかし終了点に辿り着いても残置のカラビナにはトップロープがセットされており、それを使ってロワーダウンすることが出来ません。
同じカラビナにロープを2本通して片方だけが動く状態というのはとても危険です。ロープ同士が擦れて熱を持つとロープが損傷を受けてしまうからです。
この場合、リードクライミングをしたクライマーは自らのカラビナを残置するか、懸垂下降する必要があります。トップロープクライミングをしているパーティーが残置カラビナを使ってしまったことにより、リードクライマーは本来必要の無いリスクを負うことになります。
つまり、最初に来たトップロープクライミングのパーティーが、リードクライマーのリスクを人為的に上げてしまうことに繋がるので、ふたつ目の、安全を確保するために必要なルールを破っていることになるのです。
懸垂下降
これに似た現象で、マルチピッチクライミングでの同ルート下降があります。どうしても他に下降ラインを取れない場合は仕方ありませんが、歩いて降りられる、あるいは下降ラインを別に取れるのにも関わらず、同ルートを下降するのは、後続者のリスクのみを上げてしまう誰も徳をしない危険な行為です。
「登った後は懸垂下降をする」という情報だけを鵜呑みにしてしまうと、その行為がもつリスクを見落としてしまうことになるのです。
ボルダリングでのスポット
ボルダリングで言えば、スポットです。ボルダリング=スポット、といった事だけを考えていると、逆に危険になる環境もあります。スポットをすることによりクライマーだけでなく、スポッターやパーティー全体の安全が確保されるのか?それによって他の人のリスクを上げてしまっていないか?相対的にリスクを見極めながら柔軟にルールを守っていくことが大切です。
まとめ
ルールは自分や他者を守るため、さらに大きく言えば、クライミング文化の多様性を維持するためにとても役立つツールの一つです。しかし、その判断を誤まれば危険が増えてしまったり、思わぬトラブルにつながることもあります。
大切なことは相対的にリスクを見極める想像力と経験値です。自然の岩場に行く場合にはまず経験者について、疑問があればその場で質問して、幅広い知識をつけていくことをお勧めします。
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