編集部が聞いてみた、受講生の声
講習を選ぶ
こんにちは。お山出版編集部です。
今回は受講生をお招きして、教わる側の思いを聞いてみることにしました。編集部調べによると、教わる側の皆さんのご意見にはこのようなものがあります。
・どの講習を選んだら良いのか分からない
・参加したけど微妙だった
・いい先生に出会えるかどうか分からない(事前に講師のスキルや人間性を知ることが難しい)
・欲しい技術を教えてくれる所がない(誰がどこで教えてくれるのか調べることが難しい)
皆さんそれぞれに、色々と思うところがあるのですね。こうしたご意見の背景には、そもそもの情報不足の問題や、新しいことを始める前にはどうしても不安が先立ってしまう、といった側面があると思われます。
さて、では、浅井先生の生徒さんはどうなのでしょうか。
浅井先生の講習スタイル。1対1のプライベートレッスン。その様子を知ることができたら、未来の受講生たちはもっと、前向きなイメージをしやすくなるはずです。そんな編集部の思いつきに、一人の受講生が答えてくれました!
受講生の紹介
今回、快くインタビューを引き受けてくださったのは、クライミング歴2年、長野県にお住まいのNさんです。
受講生インタビュー
編集部 それではNさん、今日はよろしくお願いします^ ^
受講生 はい。緊張するなぁ^ ^
編集部 早速ですが、2021年にクライミングを始めてみようと思ったきっかけは何ですか?
受講生 時期的な事を言えば、コロナ禍だったんですよね。
編集部 時間的な余裕ができた事が始めた理由になりますか?
受講生 いや、きっかけはコロナだけじゃなかったと思います。
編集部 というと?
受講生 山に行くことを考え始めていた頃に、山好きの嫁さんが「みんなで山でも行かない?」って誘ってくれたんです。それで行ったみたら、やっぱ山いいなって思えた んです。
編集部 いいですね。どのくらいぶりだったんですか?
受講生 20年ぶり。山から離れ、仕事、結婚、子育て、起業、気がついたら20年です。だから、色んなタイミングが重なってくれたお陰だと思います。子供が大きくなって手が離れた事も、嫁さんが見ていたアルパインクライミングのYouTubeをたまたま見せられたことも。そして年齢的にも人生の折り返しを迎えて、全てきっかけになったと思います。
編集部 そうだったんですね。
受講生 それから調べ始めて、「クライミング講習」って検索したら、 佐久平ロッククライミングセンターのホームページが出てきました。 他のジムも出てきたような気がするけど、自分がやりたかったのはロープを使って高い山を登ること。それで、マルチピッチやアルパインの講習をやっていた佐久平ロッククライミングセンターに辿り着きました。 講習メニューの内容を確認して、これなら一通り学べそうだと思って決めたんです。
編集部 なぜ講習を受けるという選択を?
受講生 一つはロープワークからしっかり学び直そうと思って。野外教育の仕事でロープを扱っていたとは言え、離れてから20年経ってましたから。もう一つの理由は、色んな事を我流でやってきたことが心の何処かで引っかかっていたから。年齢的にも、もしかしたらもうこの先、 人から何かを学ぶって事はないかもしれないとも思っていました。
編集部 なるほど。2つの理由はどちらも人から教わる必要があったんですね。そして、Nさんが選んだ講習メニューは何ですか?
受講生 5日間のマルチピッチクライミング講習です。
編集部 内容は覚えていらっしゃいますか?
受講生 はい、もちろん覚えてます。
編集部 ではここから、5日間の講習の振り返りをお願いします。
受講生 1日目。佐久平ロッククライミングセンターで、ロープワークを習いました。基本的な所で、8の字結びに始まりビレイシステムの理解、人工壁でのリードクライミングをやりました。2日目。難しくないちょっとした岩場に行き、支点の作り方と、垂直の壁を下る懸垂下降を習いました。3日目。またちょっとした岩場に行き、これまで習った事を実際にやってみまし た。午後になり登攀能力チェックがありました。難しい岩場に行ってトップロープで登ってみるというテストです。
編集部 手応えはどうでしたか?
受講生 全然登れなかったです。出だしからどうやって登ったらいいのか分からない。ずっと運動してなくて体力も落ちてたんで無理もないけど、にしてもこんな難しいの!?ってくらい全くでした。
心折れかけ、ヤケクソ根性だけで這い上がった感じです。そしたら浅井さんに「結構登りますね」とかぼそっと言われました(笑)。 全然登れてなかったんですけどね。
編集部 クライミングの難しさを痛感するNさん。そして、ぼそっと一言感想をつぶやく浅井講師。これは、お二人の距離感も興味深いですね。 3日目が終了し、このあと講習は最終段階を迎えるのでしょうか?
受講生 そうですね。4日目5日目の内容の前に説明しておくと、この日までの3日間は連続の日程ではなく、講習と講習の間は間隔が空いてます。でも、最後の2日間だけは連続の日程で、しかも泊まりです。
当日まではどんな所に行くのか分からないし、俺は3日目の時点で既に心折れかけているわけで、不安で仕方なかったですね。だから、岩稜くらいでいいと思ってたんだけどな、って思わず弱気な考えが頭をよぎりました。
そして、4日目。テントを持って小川山集合。講習の課題は、「春の戻り雪」5.7(4ピッチ)「今日はそんな難しくないとこ行きますから」って言われて連れて行ってもらったのが、このルートでした。ここはなんとかクリアしてその後時間が余ったので、 スポーツルートに行きました。浅井さんのリードで色んなルートを体験的に登ってみました。 どれも満足に登れませんでしたが、明日に備えて終了。その夜、廻り目平キャンプ場でテント泊。浅井さんは焚き火を眺めながら過ごしてましたね。自分は寒くて寒くて、ロッジの風呂に入って早々に寝させてもらいました。
編集部 きっと緊張してお疲れだったでしょう。翌日は最終日。ちなみにこの時点でお二人は少し打ち解けてきていましたか?
受講生 いや。全然です。4日目が終わっても距離感というか、浅井さんがどんな人なのかは掴めませんでした。というか、全く何を考えているか分からない人だと。むしろこの人ちょっと機嫌悪い?みたいな(笑)
編集部 そうでしたか(笑)
受講生 講習中は余計なことは喋らないしね。ただね、一つだけ分かったことがあって。それは、この人は表面的に物事を見てるんじゃないんだなっていう事。もっと深い部分の何かを掬い取ろうとしてるんだなって。そこに只者ではないやばさを感じていました。
編集部 やばさですか?
受講生 俺も上手く言えませんが、教本通りに手順を教えてくれて、場所も進むペースも最初から全てが決まっている講習もある中で、浅井さんの講習は受講生とキャッチボールしな がら内容を決めていくんだと思います。 それぞれの受講生の体力、登攀能力、技術の習熟度、歩くスピードまでも見定めて、トータルで判断する。そこから何をどう教えるか決めていく。時には教える内容をどんどん変えて対応していく。 そこら辺の絶妙なさじ加減が、浅井さんの優れた所だと思うんです。
編集部 なるほど。室内の指導ならともかく、自然相手の環境下でもそういった対応力を発揮できるとすれば、絶対的な経験値が要りそうです。受講生はそれを目の当たりにしているんですね。
受講生 そうですね。あ、それとこれは講習と関係ないですけど、浅井さんて、すごく深い話をしてくれる時と、少年みたいな子供っぽいことを言う時があって。この講習中はそこまで分からなかったんですけど、最近になってそんな一面も知ったんで、当時とはちょっと距離感も変わってきたかな。
編集部 そうなんですね。その辺りのお話は後程また聞かせてください。5日目の最終課題を振り返りましょう。
受講生 5日目。小川山「烏帽子岩左稜線」14ピッチ。前日のルートよりも長く、クライミング要素も高まる長めのルート。この最終日は一番記憶に残っています。烏帽子岩左稜線は本当に景色が綺麗な所で、そのロケーションにしろクライミングの負荷にしろ最高の場所。クライミングを良く知らない当時の俺が行ってみたかった場所でもあり、偶然そこが最終課題になって本当に嬉しかったです。
講習が終わって、いつか再びこのルートを自分の力でなぞりたい。という思いになりました。それから2年。ついこの間この場所に戻り、同じルートを登ったんですよ。変わらず素晴らしいルートでした。2年前の10月、浅井さんと講習で登ったのと丁度同じ時期、同じ場所に立ってみて色々思い出しましたね。寒くて岩冷たかったなぁとか。ああ...ここで涙流したなぁとか。
編集部 涙ですか?
受講生 そう、あの日、寒気が下りてきていてすごく寒かったんです。 朝7時くらいから登り始めたんですけど、烏帽子岩左稜線は稜線に出るまで、ずっと太陽の光が届かない日陰を行くルートなんです。だから岩も冷たくて、湿度も高かったからズルズル滑るし、そんな北面のフェースを必死になって浅井さんの後を追いかけました。でもやっぱり難しくて、登れないんですよ。浅井さんに引っ張り上げてもらったところもありました。心は折れてました。これ最後まで行くの無理かもしれないとも思いました。でも、ずっと日陰だった所から稜線に出た時に、朝日がぶわーって当たったんです。その瞬間、全身の力が一気に緩んで、同時に涙が出ました。これだーって思いました。
やりたいと思ったことをやろうと思い立ってジムの門を叩いたけど、 クライミングは想像してたよりも遥かに難しくて、実際の岩場に行ってみたらもっと苦しい状況が待っていた。その苦しい状況が普段の生活の心情といつの間にか重なってたんだと思います。
次で最後っていう所まで来て、そこのテラスで浅井さんが、「ここはみんな巻くんですよ」って話し始めるんです。 巻くというのはこのままのルートを登らず、簡単な横のルートから回り込むということなんですが、「やります?」って言われて。巻かなければチムニーを上がっていくことになるんですが、いける気はしていません。目の前にはチムニーと、やるかやらないかを問う浅井さん。
編集部 どうしたんですか?
受講生 行きました。チムニーの途中でテンションが掛かりぶら下がる恐怖、体はボロボロ、最高にきつかった。でもなんとか上まで抜けきることができました。それを見ていた浅井さんが「良く登りましたね、じゃあセルフビレイとって、 、 、」って言うんです。クールでしたね。めちゃくちゃシステマチック。もっと感情込めて言ってくれよと思いましたけど(笑)とにかく淡々としていたのを覚えてます。で、ピークまできた記念の写真を撮ろうと思ったら俺のカメラはバッテリー切れ。
編集部 あら、どうしましょう。
受講生 勇気を出して頼むしかないよね。
編集部 どきどきですね。どんな反応でしたか?
受講生 それが、びっくりするほど乗っかってくれて。「撮りましょう!」って気さくに応じてくれるからこっちは逆に混乱します。どう距離感をとったらいいのかますます分からなく なりました(笑)
編集部 おもしろすぎます(笑)この5日間の講習の効果は色んな意味でとても大きかったことは確かですね。
浅井講師
編集部 Nさん、浅井さんてどんな人って質問する予定だったんですが、これ、とても困る案件でしょうか。
受講生 そうだね、難しい。少なくとも一言二言では言い表せない。
編集部 確かに。その通りかもしれません。Nさんはその後も浅井講師の講習をリピートしていますが、それはなぜですか?
受講生 それはやっぱり浅井さんという人間に対する興味が尽きないこと。それからもちろんクライミングのスキルに対する尊敬。哲学的思考や価値観。色々ひっくるめて浅井さん以外の人から学ぶ意味がないからです。あと一番は、心うちを打ち明けて相談したら、それを受け止めてくれる人だから。次もまたこの人に教わりたいと思う。
編集部 それは例えばどんな相談ですか?
受講生 ある時、山でミスをしてしまって。一歩間違えば落ちて死んでいたかもしれないと思う様な危険なミスでした。俺はもしこの事を浅井さんに話したら怒られるんじゃないかと思っていて、話せずにいたんです。怒るまでいかないとしても「もっとレベルが上がってからにした方がいい」とか「まだまだ経験者について行かないと」とか、当たり前にそういう注意は受けるだろうと思ってたんで、話すのには勇気がいりました。
編集部 でも、したんですね。相談。
受講生 はい。そしたら浅井さんの対応は自分の想像とは違ってました。頭ごなしな言い方は全くしなかったんですよね。これから何が必要なのか、俺が理解できるように噛み砕い て、冷静に理論的に説明してくれました。俺に足りないことを補っていくにはどうしたらいいか、 アドバイスをしてくれた。その思ってもみない対応に、懐の深さを感じて信頼が増しました。そういうやりとりがあって、はっきりと必要な課題が見えたことで、次の講習をオ ーダーしました。
編集部 そうやって教えてくれることによって、ますますこの人から学ぼうと思えたんですね。リピートの理由、納得です。
受講生 クライミングを始めて、約1年はストレスが大きかったんですけど、その時間を過ごして得たものもあったし、今は自分の気持ちに正直にやっていこうと思ってます。失敗してもいいから、何度でもトライしていきたいですね。
編集部 応援しています。ご協力、本当にありがとうございました。
お山出版編集部
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