インタビュー企画、編集部×受講生Nさん 『人生編』
はじめに
先日インタビューに答えてくれたNさんのお話は、あまりにもドラマチックで、彼らしさにあふれていました。
こんにちは。お山出版編集部です。
最近の編集部は、noteでインタビュー記事を書くようになり、色々な方とお会いする機会が増えました。新しい出会いは、いつもの自分にちょっと変わった見方を与えてくれるありがたいものです。
▼ 以前、受講生の声をテーマに
こちらのインタビューをお届けしました。
そして今回の記事ですが、この時の収録を「人生」という視点で切り取り編集したものになります。
慣れない初心者インタビュアーの進行も、丸ごと受けとめカバーしてくれる、Nさんの魅力的な語りをお楽しみください。
インタビュー
編集部 Nさんと山との出会いはいつ頃ですか?
小谷村の野外教育のお仕事がきっかけなのでしょうか。
Nさん いや、実は、山との出会いって言うともっと前で中学生の時なんです。
編集部 中学生ですか⁉︎
Nさん そうなんです。その当時、植村直己物語という映画が上映されていていたんです。植村さんは日本を代表する世界的な冒険家で、この映画は山に生涯を捧げた植村さんの半生を記録したものでした。中学生の俺はそれを見て衝撃を受けたんです。
編集部 どんなところが衝撃的だったんですか?
Nさん 植村さんは、ヒマラヤとか8000M 級の山の頂を目指したり、アマゾン川を降ったり、南極点を目指したり、危険な思いをしながらも自分の全てを賭けて冒険するんです。その姿が、中学生の自分にものすごく刺さったんですね。ただ単に冒険する格好良さだけじゃなくて、植村さんのそのアウトローな生き方そのものが衝撃的でした。
編集部 なるほど。
Nさん それからは自分の時間ていうのを山に行って作ってました。中学生が行けるような地元の低い山でしたけど、一人で歩いてみたりして。
親には反発できなかったんで、探されないうちに帰ってましたけど。
編集部 反発できなかったのはなぜですか?
Nさん すごく厳しい親だったんですよ。学習塾が最優先だったり。だから、家庭でのやり場のない気持ちの矛先は、山に行くことで見出せるような気がしていました。
編集部 Nさん。私はだいぶ浅はかでした。Nさんと山との出会いは大人になってからのことと勝手に想像してました。そんな私の浅はかな憶測は全くかすりもしない、深いつながりなんですね。
Nさん いやいや、すごい遡っちゃいましたね。
編集部 今のお話が中学生の時。その後もNさんと山との関わりは続いていったのでしょうか?
Nさん 本格的に関わるというよりは、節目節目で登山に行くことは続いてました。メンタルの波で言うと落ちてる時に。
編集部 メンタルの落ちる時というとどんな状況でしょうか。
Nさん 例えば高校から大学に上がる時とか、大学から社会人になる時とか、人生において大きな波が来ているような時。波動が不安定で気持ちが落ちることがありますよね。
大学で、皆んながスーツ着て就職活動し始めた時、俺だけがリュック一つ担いで八ヶ岳縦走の旅に出ました。
そのまま家に戻らず牧場に受け入れてもらって、家畜の世話をしながら 1 ヶ月とか過ごしたり。社会人になっても就いた仕事が続かなかった時は、海辺でライフセービングのアルバイト。気がつけばいつも自然の多いところに足が向いていて、自然とのつながりを求めていましたね。
編集部 そういう時はひとりだったのでしょうか。例えば誰か、同じような感覚を共有する仲間と一緒に行くということはなかったですか?
Nさん うーん。落ちてるからね、その時は側に人は要らなくて。自分と向き合って自分の中で深く内省したかったんだと思う。
編集部 そうなんですね。では、山から帰ってきた時には不安定だったマインドも回復していたりするのでしょうか。
Nさん どうだろう。回復はしていなかったんじゃないかな。とにかくそう言うマインドの時に本能的に山に行きたいっていう気持ちが強くなる。社会の重力から一旦離れるみたいな感覚で。だから、山に行くことが直接、マインドを回復させたとかメンタルの処方箋になっていたかと言われると、そうとは言い切れないと思う。
編集部 なるほど。回復するとかしないとか、そういうことじゃなくて。山へ、海へと向かいたくなることに理由は無い。
Nさんはちゃんとそこで自己観察をしていたのではないでしょうか。自然の中に身を置いてじっくりと見つめ直しを。
Nさん ああそう、見つめ直しね、すごくします。笑
編集部 素晴らしいです。笑
編集部 料理の世界にはなぜ興味を持ったのですか?
Nさん 大学の時にトライアスロンのサークルに所属して競技に没頭していた時期があって。その活動の中で、アスリートが成果を出すにはトレーニングや練習も大事だけど、コンディショニングや疲労回復、体調管理がとても大事だということを学びました。そこから運動生理学とか栄養学に興味を持ったんです。一人暮らしだったから家でも料理をするようになり、料理が面白くなって。サークルって良く、集まってご飯とかあるでしょ。うちに集まった仲間に料理を出すようになったら「お前の料理うまいな」って言われて、その声がだんだん増えてきた時に「俺、料理向いてるのかも」と思ったのがはじまり。
編集部 そして料理修行。
Nさん そうです。なんの当てもなくレストランへ飛び込みました。でもね、とても厳しかった時代で、手が出るのも当たり前の世界だった。さすがに続けられなくて辞めました。
編集部 そして小谷村の野外教育のお仕事に出会うんですね。
Nさん 登山もあるし、ロッククライミングもあるし、しかも子供達の育成にも関わることができる。植村直己に憧れてやりたかったことが全部できる様な気がして、この仕事見つけた時は手応えを感じました。
編集部 実際そこでのお仕事はどうでしたか?
Nさん うん。いい仕事だったと思いますね。このあと料理の世界に戻ったことで、野外教育の現場からは離れてしまいましたが、今でも教育に関わる仕事をしたいという思いは持っています。
ずっと考えてきたんですよね、人間が育つために大切なことは何かっていう事を。
編集部 人間が育つのに大切なこと?
Nさん そう。人が幸せになるにはどうしたらいいのか。自分が自分らしく生きるには。みたいな事です。特に幼少期から思春期の頃のお父さんお母さんとの関わりはすごく重要。その後の人生において大きな影響力を持つものだという実感が自分の中にあります。
編集部 Nさんの深い部分にあるテーマ。
Nさん そうです。ずっと考え、持ち続けているテーマ。
野外教育の現場を離れたNさんはその後、
自分の店を持つという夢を追いかけ、再び料理の世界で腕を磨きます。そして、2010 年ついに独立し、自身のお店をオープンさせました。
夢を叶えたNさん。店が軌道に乗り順調な日々かと思いきや、夢を追いかけていた頃には思いもしなかった感情を抱くようになります。この時の事をNさんは、目標を見失って燃え尽きてしまったかのようなネガティブなマインドだった。自分で自分が面白くなくなった。と表現しています。
その感情はその後、クライミングと向き合うことで次第に変化していきます。
編集部 お仕事に対するネガティブな感情を払拭するために、お仕事とは全く別のことをやってみたというのはとても興味深いのですが。
しかもそれが、昔やりたかったことっていうのがなんかいいですよね。
Nさん 「人生を変えたければ 13 歳の頃 にやりたかった事をやりなさい」
編集部 なんですか?それ。
Nさん なんだったかな。何かの本か記事かで読んだことがある。13歳の頃の俺がやりたかったことって言ったら。
編集部 なるほど。今一瞬で繋がりましたね。植村直己さんの生き方に衝撃を受けた13歳の頃のNさんと。
Nさん 今からクライミング始めようなんて、子供なんですよ。大人になりきれない子供。
編集部 いや、だからいいんです。思っていてもできないものです。大人になりきるとつまらなくなるのかも。
再び目指すものを見つけたNさんですが、多忙な日々の中、悩みも尽きません。クライミングと人生、両方に共通する考え方とは。
編集部 「やっぱり思ったより全然登れない。」というストレスを感じていた時期。Nさんは何に悩んでいたのでしょう。
Nさん 色々あるけど例えば、パートナーの確保は簡単じゃないし、環境が不安定だとモチベーションも保てなかったりします。そうすると必然的に気持ちも下がる。
仕事と生活、更にクライミングを続けるにはっていう、ワークライフバランスにも悩みましたね。
編集部 少し疑問なのですが、思ったより登れないというのはどういうことですか?
Nさん もっと登れると思ってたんですよね。練習さえすればどんどんグレードも上がっていくだろうと。でもそうじゃなかったから、自分の想定していた成長曲線に実際の自分が追いつかなくて。
編集部 始めた当初は、グレードにはこだわっていなかったように思いますが…
Nさん そうだった。でもやっぱりね、それでも上達したくなるんですよ。なんでもそうだけど、上達したいとかって思うことないですか?
編集部 私の場合、元々の持ってるものがなさすぎて、大きな声で上を目指してます!とは言えないです。でも日々、学んでいないといけないなとは思います。
Nさん うん。それも素晴らしいこと。
俺はいい先生にも出会えたし、目指すものも見つかった。だからこそ、こんな風にぐちゃぐちゃ悩みながらやってたって一向に登れるようにはならない!って、ある時吹っ切るわけです。
編集部 また見つめ直しましたね。
Nさん そうだね。自分がどうしたいか素直になれれば、一直線に動けるようになるから。要は、クライミングで課題の深部を突破する時と同じなんです。きっとね、俺が登れない理由はそこなんです。
編集部 勇気、みたいなことですか?
Nさん うん。何をやるにしても、失敗したらどうしようとか、クライミングなら落るのが怖いからもう一手出すのやめようかとか、ネガティブなことが起きるのが怖くてそっから前に進めない。そのくせ悩む。
俺に足りないのは、えいっ!ていう強い気持ちなんだと思う。
そこに気づいたから、失敗してもいいじゃん、何度でもやればって思えるようになりました。
クライミング強くなりたいなら俺はそこを越えないと。やらずに悩むくらいなら、何度でも挑戦したいと思います。
今回のインタビューはここまで。読者の皆さま、最後までお付き合いくださりありがとうございます。それでは、次回またお会いしましょう。
お山出版編集部
編集後記
可愛らしい小さな看板がかかった、Nさんのお店、ターブルヒュッテ。店内に入るとすぐに薪ストーブとギャラリースペースがあって、アーティストさんが作品を展示販売している。奥には客席とオープンな作りの厨房。メニューは奥さまの手書きの文字が柔らかくていい。古材のテーブル、トーネットの古いチェアがしっくりきていて素敵。お料理とパンの美味しさを一言だけで伝えるなら、作り手の優しさの味がする。珈琲を淹れてもらってデザートをいただく。苺のタルトケーキの横に控えめに添えてあったアイスは、間違いなくうちの子が大好きなヤツ。どうも主役じゃないみたいだけど私もすき。
そんな話しで盛り上がっていると、
「ああ、それ、簡単だよ。」とNさん。
厨房のタイルの壁に貼ってあった小さな紙をペリッと剥がし、
「はいこれ、レシピ。」と持って来てくれる。
Nさんは、そういう人なんです^ ^
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