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ティックマークは魅惑のラビリンス

クライミングで楽しいスタイルは何?と聞かれれば真っ先に答えたいのがオンサイトトライです。

オンサイトトライとは今まで一度も挑戦したことのないルートに挑戦することです。オンサイトでは、そのルートを登る際に誰かが登っているのを見たり、事前に登る方法を動画で見るなどの行為が許されません。トポとルートから得られる情報だけを頼りに登ります。

オンサイトでは不確定要素がルート上にゴロゴロしています。その不確定要素を、限りある体力、技術を使って解決していく。作戦も重要ですが、直感的なひらめきも重要になってきます。体力だけでなく精神的にも負担が大きい。しかし、だからこそ、登れた時の嬉しさは2度目以降に登れた時よりも数段も高まります。

オンサイトには障壁もあります。そのうちの1つがティックマーク。ティックマークとはチョークで付けた目印のことです。ボルダリングではよく目にしますが、ロープを使ったスポーツクライミングではあまり目にしません。

今年の5月に訪れたギリシャのカリムノス島ではこのティックマークをよく目にしました。目印であればなぜ障壁なのでしょうか?それはマークが誰のどんな意図で付けられたのか分からないからです。ハンドホールドなのか?フットホールドなのか?どんなムーブに対してどんな意味を持ったマークなのか。

クライミングは身長や、柔軟性によって、人それぞれムーブが違います。ということは、ティックマークが全てのクライマーにとって有益な目印になるとは限りません。ハンドホールドだと思って手を伸ばしたら、手ではとても保持できないようなフットホールドだった、ということもあります。そしてこの「思惑とは違うホールドである可能性」が、ティックマークを障壁たらしめているのです。

ティックマークが付けられたホールドがどんなものか探るだけの余裕があれば良いのですが、オンサイトというのは自分の限界グレードに近いルートが1番登っていて楽しいので、なかなか探るだけの余裕がありません。なので、パンプしている時や、核心部分でムーブの選択に悩んでいる時など、ティックマークが魅力的に映ってしまうのです。

「もしかしたら良いホールドかも」という淡い期待ですね。私はどちらかと言えば誘惑に弱い人間なので、ピンチの時にはティックマークが救いの手に見えてしまいます。そうしてデッドポイントで手を伸ばして何度も失敗しました。この失敗の回数が、ギリシャではかなり多かった。もちろんこういったことも実力のうちです。クライマーにとって全ての失敗の原因は自分にあります。

とはいえ「ティックマークに騙されたー」といった経験は悔しいものです。それを回避するために重要なのがオブザベーション。ティックマークのような誘惑に左右されることなく自分自身の能力を最大限に引き出すために重要なスキルです。

ギリシャでは約1ヶ月間の滞在中、ほぼ毎日登っていました。だんだん体の調子も上がってきて自分自身への過信が生まれ、オブザベーションを疎かにしてしまった時こそ、やはりティックマークの誘惑に負けることが多い。そういう意味ではオブザベーションがいかに大切かがよく分かります。

人気エリアならではの誘惑ティックマーク。惑わされない強さを得るためにもオブザベーションの練習は普段からしっかりしておきたいものです。


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