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金峰山千代の吹上げ第四岩稜(紀行)

アプローチ

8月21日。廻り目平から金峰山を目指して登り始める。駐車場から見上げる空は晴天。歩き始めて標高2000m付近に差し掛かると途端に雲が多くなり、正午を過ぎると雨に変わった。金峰山小屋で雨水を濾した水を手に入れる。この先に水場はないので助かった。ここのところ正午から午後にかけて雷雨になることが多いという小屋の主人から得た情報を頭に入れ先に進む。

歩き始めるとすぐに本格的に雨になった。千代の吹上はすぐ足元に切れ落ちているが、ガスに視界を阻まれて第四岩陵がどこなのか判別がつかない。ガスが切れるまで岩の下に身を潜めて待つ。しばらくするとガスが晴れて視界が戻ってきた。第四岩稜は見えないが、白い尖峰が見える。この白い尖峰に向けて藪の密生地帯を降りると第三ルンゼに導かれる。第三ルンゼは苔混じりの急峻なガレ場だ。ここは濡れていると非常に歩きにくい。

写真中央の小さな岩塔が白い尖峰。ここを降りる。

第三ルンゼは下部スラブで切れ落ち途絶える。下部スラブを左から巻くように下降すると第四岩陵の取り付きとなる。適当な平地でビバーク。

ビバーク

8月22日。雲ひとつない晴天だが、正午過ぎには雨に変わると予想して早めに発つ。荷上げを試みるも藪に阻まれてうまく行かず、仕方なくビバーク地に余分な荷物を置いてクライミングを開始する。登攀後の回収を思うと少し萎えた。この先は1ピッチごとの解説としたい。

ルート解説

1p目。批把窪沢から下部スラブを見上げると、スラブの左側に顕著な岩綾があり、そこを辿る。テラスまで30m。このテラスは岩稜を左から巻いても辿り着くことができる。

下部スラブ、ここは登らない

2p目。すっきりしたフェースを登る。途中大きなフレークにプロテクションが取れるが、フレーク自体が浮いている可能性もあるのであまり大きな力を加えたくは無い。20m

2ピッチ目のフェース

3p目。傾斜の強いガレ場を登る。20m

4p目。バンドを右にトラバース。リッジを直上。ロープの流れが悪いので一度ピッチを切っても良いと思う。20m

5p目。ピナクル状のリッジを登り、左のテラスへ。20m

5ピッチ目のピナクル

6p目。汚いフェースを登り、チムニー5mを登りテラス。テラスは広い。25m

6p目中間のチムニー

7p目。正面の風化したスラブ(スラブを直登することもできるが、風化が激しくあまりオススメできない。)を左に巻きコーナークラックを登る。すっきりしたスラブの手前の松の木でピッチを切る。テラスは広い。40メートル。

スラブを直登

8p目。開けたリッジ状のスラブを登る。50m

8p目

9p目。小ピナクルを左に巻くようにトラバース。適当なところでリッジに戻る。リッジ上は広いテラス。20m

10p目。100m歩き。

11p目。赤いガリーをトラバースして白い尖峰に取り付く。右側のワイドクラックを目指す。

12p目。トンネル状のチムニーを上がり白い尖峰のトップへ。風化が進んでいてプロテクションはあまり頼りにならない。

12p目

13p目。風化の激しいリッジを山側へ辿る。山梨側からの風が強く、またプロテクションも取れないので十分注意して行動したい。懸垂もできそうだが、支点も無く、風化も激しいので、そのままリッジをクライムダウンした方が無難。

13p目のリッジ歩き

登攀後は、クライミングギアをその場に置いて、空荷でビバーク地まで回収に向かう。ビバーク地で回収を済ませたら、クライミングギアのある場所まで戻り、登山道へと戻る。しかし、登山道へ戻る藪漕ぎにクライミング以上に体力を消費させられた。ハイマツがバックパックに引っかかり思うように前進できず、雨で濡れた足場が崩れる。ようやくの思いで登山道に戻ると、再び太陽が顔を出していた。

少し休憩した後、金峰山小屋を経て廻り目平へと往路を辿った。

まとめ

今回の山行では、登山道を離れてから戻るまで一切人工物を目にすることが無かった。これだけ長いルートでは珍しいことだと思う。地理的にクライマーへの負担が大きく、また、このスケールのアルパインルートであれば北アルプスの岩場に目が向くのは自然なことだ。しかも天候も不安定なことが多く、水場も無い。そう考えると、訪れる人が少ないのは想像に容易い。しかし、そのお陰でこの場所は限りなく完全な形で自然そのままの状態が保存されている。

頻繁に訪れるにはそれなりの体力が必要だが、あるがままの自然を楽しめる今では数少ない魅力的な岩場の一つだと思う。

参考文献
日本登山体系8(八ヶ岳・奥秩父・中央アルプス)白水社


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