お前は誰だ?
絶対忘れられない日。
2020/04/07火曜日 今日この日。
コロナ禍による緊急事態宣言が7都府県に向けて夕方に発令されるっていう日に…私のIDを使って遠く離れた駅前の自習室に早朝から入室していた奴。
お前は一体誰だったんだ?
今日は室内飼い猫のようにぐうたらする予定だった。
何処にも行かずインドアライフをエンジョイできる…別に一人で過ごすことに慣れてる私には、苦にならない。
部屋のこたつにもぐり込んで本を読んだり動画をみたり、誰に見せるでもない文章をつらつら書いては寝て…を繰り返して日が暮れる…はずだった。
世の中は平日でも、私には貴重な休日。職場からは万が一感染った場合の職務へ与える影響を考えて、休日はできるだけ外出せず自覚ある行動を取るように念を押されている。わかってらい。
私にしては早朝、世間一般的には就業が始まったかな…ぐらいの時間に携帯電話が鳴った。市外からの知らない電話番号が画面で点滅している。
誰?こんな時間に。
職場から?…にしてはちょっと遠い。
とりあえず受けてみた。
仕事用の他所行き風情で滑舌良くしゃきしゃき喋る自分の声がこのパジャマでぐうたらな状況にそぐわずすごく不均衡に思えた。
「はい、どちら様でしょうか?」
一応用心してこちらは名乗らず、相手の出方を伺った。
しばしの沈黙…セールスか?…にしては不自然に長い。
「…自習スペースですが…芝桜さんですか?」
自習室の管理人さんを名乗る若い女性の声が聞こえてきた。その自習室には一日単位のビジターで昔お世話になった。かつてのご近所でいきなり3箇所ほど同時多発的に工事が始まった為、通勤途中でちょっとだけ緊急避難的に使ってみたのだった。予備校や専門学校が近くにあったためか学生さんや勤勉な社会人の利用がほとんど。張り詰めたような雰囲気が独特だった。
でもなぜいまさら?彼女の声には、勧誘や物売るセールスのような不自然な流暢さはない。何か言葉をすごく選んでるような…?
またもや沈黙。何か確認しているような気配がした。
「あの、今自習スペースの部屋内に貴女の…芝桜さんのIDで入室ログインされてらっしゃるようなのですが…違いますね…」
何か確認しながらの上に抜けたような感じの声。おそらく当該自習室の監視カメラ映像に、携帯電話で話している人は存在しないようだ。そりゃそうだ。私はここにいる。
後はこちらで確認致します、とのことだったので、何かあったら気軽に連絡下さいね!と怒ってないから大丈夫だから感を演出しつつ、通話を終えた。
通話が終わった。しばらく頭が空白状態になった。
気になる。誰?
記憶を巡らせ巡らせ利用していた時の記憶を手繰り寄せる。何かあったっけ?
あ、でも何度か使った時にちょっとしたことがあった。
その自習室は駅の近くにあり、早朝から利用する人の為に、管理人不在時間でも会員登録時にもらうID入力で解錠入室できるようになっていた。ネット上で空席状況確認もできるし、急な予約もできる。なかなかなハイテク仕様で重宝していた。
ある朝、利用者が私だけということで、珍しいなと入室した瞬間…ちょっとたじろいだ。空席状況では私だけなのに、先客がいた。スーツ姿の男性が入り口近くの席に座っていた。どういうことなのか?ログイン忘れか?椅子に座る前に監視カメラの位置を確認した。なるべくハッキリ映る席にしよう…と移動した瞬間、こちらを見て…退場のログオフせずそのまま出ていった。いやログインしてないからログオフなしでいいんだけど、ってことは自分でログインなしの不正入室だと自覚してるってことか。
…何だったんだ?
とりあえずその日は使ったけど、何となく違和感が残った。
それから、特に用事もなくなったので、そこから足は遠のいていたのだけれど…
今日この日。
不要不急の外出は謹んで自宅で過ごすようにと繰り返しTVで流されていたこの日。
緊急事態宣言の予告が出ており、各種学校の入学式も講義もどうなるかわからないと気もそぞろであったはずのこの日。
密室で狭いスペースの自習室利用は回避され、早朝は無人であっただろうこの日。
私のIDで不正入場した人は、誰?
そして、何をするつもりだったのだろう?
とりあえず、他人のIDでなりすましてまで3密揃った自習室行くくらいなら、うちへ帰れ。風呂入って寝てくれ。
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