那須川天心vs武尊
遂にこれを書く日がきた。
格闘技ファンがこの6年、どれだけ待ち望んだことか。
全てはここから始まった。
那須川さんが武尊さんの試合を観戦しにいった2015年11月21日国立代々木競技場第二体育館にて撮られた1枚。
この後この2人のツーショットが再度撮られたのは5年後の大晦日だった。
どれだけ待ち望んだことか。
どれだけの格闘技ファン、格闘技関係者、選手がこの1枚に心踊ろかせたか。
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冷静な分析なのか、ファン目線なのか
この世紀の一戦を語るにあたって、冷静な分析なのか、ファン目線なのかで話は大きく変わってくる。
そして多くの人間がどれだけ冷静な分析をしようと試みても、必ずファン目線が漏れだしてしまうことになると思う。
ちなみに私は武尊推し。それでも、限りなく冷静に自分の現在の分析能力、推考力をフルに使って限りなくフラットに書いていきたいと思っている。
そして私は彼らと同世代の格闘技を少し齧っている程度のただの素人である。
そこらへん加味して読んでもらえると幸いである。
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那須川天心は完全無欠、武尊は最強
もちろん、この2人を知らない人にもこの世紀の一戦について知ってもらいたい、興味を持ってもらいたいと思って今私は書いている(既に武尊マインドが染み出している)
だからこの2人がどういう人間なのか、どういうファイターでありどんな道筋を辿ってきたのか、全て書きたいところではあるがやはりここは!割愛させてもらう。
ABEMA TV さんが2人のファイターとしての活躍をまとめてくれた動画を出してくれたのでそこを掻い摘んでくれると助かる。
そして私は思った。
この2人を知らない人にどうすればもっとも分かり易く、短く、この2人を伝えることが出来るだろうか。
那須川天心は完全無欠、武尊は最強
この言葉が最も当てはまるのではないのかと。
皆さんの価値観として持っているこの言葉のイメージを彼らに当てはめてもらえれば幸いである。
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強さの質
2人の強さに明白、決定的な違いがある。
先日の記者会見での武尊さんの言葉を引用させてもらうと
「那須川天心は世界トップのコンプリートファイター」
コンプリート、つまり完璧であると。
格闘技、キックボクシングという競技において重要な要素はいくつか存在する。
特に彼ら2人が主戦場とする軽中量級においては「俊敏性、距離感、タイミング、キレ」がかなり重要な要素として関わってくる、これらをまとめてテクニックと言ったりする(雑な言い方なのは承知)
このテクニックにおいて世界中見渡してもこの階級、那須川天心が主戦場とする55Kgにおいて彼の右に出るものはいないのではないかと言われている。
そんなファイターが那須川天心。それが那須川天心の強さの質だと思ってもらっても間違いないのだろう。
私が思うに彼、那須川天心はきっとどんなスポーツ競技をしていてもある程度成功していたように思う(たらればで申し訳ないが)
運動神経身体能力が抜群によく、スポーツ競技としてのキックボクシングを究めた感は観ている誰もが少なからず感じることである。
そしてこのキックボクシングというスポーツ競技において、他のスポーツ競技と明らかに違いがあることは、これは格闘技全般に共通するものでもあるが「人をやっつける、言葉悪くいうとブチのめす力」である。
球や棒を使わずに生身で目の前の相手をブチのめす(まぁバンテージ、グローブはしてるけど)
これは私自身齧らせて貰っている中で、他のスポーツ競技と格闘技が大きく違う点であり魅了される最大のポイントであるなと感じている。
この「ブチのめす力」
これがこの階級、武尊さんが主戦場としている60Kgにおいて彼の右に出るものはいないだろうと私は思っている。
言ってしまえば武尊さんにとってこの格闘技というスポーツ競技が最も向いている。
他のスポーツ競技をやっていたとしても前述した那須川さんほど成功をおさめたのではないのか?という期待感は持てない。
武尊さんはこのキックボクシングというスポーツ競技においてその枠をはみ出す特殊能力を持っている人間なのである。
どんだけ言葉を綴っても、彼ら2人の強さの質を言葉にするのはやはりかなり無理があることなのだけどこれまた雑にまとめると
那須川さんはキックボクシングというスポーツ競技をやる制度が抜群に高いファイターであり、武尊さんはこのスポーツ競技に存在する「目の前の相手をブチのめすこと」その能力が抜群に高いファイターである。
こんな感じになってしまうがやはり本当に書いていて悔しい、俺の「書ききる力」が不足していて本当に悔しい。
そして勘違いしないでほしいが那須川さんにも「相手をブチのめす力」は備わっているし、武尊さんにもテクニックは備わっている、プロのレベルとして。
1つに括って語れることではない。
この存在する複雑性がより2人の対戦を熱望させた大きな要因でもあると感じている。
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契約体重に関する考察
ここからはもう少し中身の話をしていこうと思う。
先日の記者会見で発表された情報の中でインパクトを与えたものが
「前日58Kg、当日62Kg」
これである。
この2人の対戦が決定する前からファンの間では話題になっていたこと、「何キロでやるのか?」
このことについて私の思う考察を書いていく。
那須川天心選手は普段、55-58Kgで試合をしている。
そして本人は常々公言しているが彼の適性体重は55Kgである。
適正体重とは何なのか?みたいな話になるが身長骨格筋量を考えて、その選手が最も強く戦える体重であると思って貰って構わない。
つまり彼は55Kgという階級では相手がいないので、57や58といった体重で他の選手との試合もしていたわけだがやはりこれは世紀の一戦、彼も自分が最も強く戦える55Kgでやりたいのが本心だろう。
ではなぜ今回この「前日58Kg、当日62Kg」という契約体重になったのか。
武尊選手は55Kg、57.5Kg、60Kgという3階級でK−1のチャンピオンになった男である。
これだけ聞くとじゃあ55Kgでも出来んじゃん?と思う方もいるかもしれないが、彼は数年をかけてこの階級上げをしてきた。
私も全く語れた身分ではないが格闘家における1Kg、数百グラムというのは本当に大きいものである(らしい)
だから、彼は全ての階級においてしっかり体作りをしながら自身の適正階級を55Kg、57.5Kg、60Kgとあげてきた。
彼が60Kgにあげた初めての試合は2018年の3月。
つまり彼はこの60Kgという階級を適正階級といえる体作り、その体に馴染んでもう3年半以上が経っているわけである。
ただ太って55→60に体重を5Kgあげたわけではない。
普段から節制し、筋量を徐々に増やしながら試合前に元々そんなにない脂肪を削って60Kgに仕上げて上記の画像である。いわゆるバキバキの状態。
彼とてここからさらに2Kg落として58Kgに仕上げるのは容易なことではない。
しかしこの2人の間には決定的な体重差が存在していた、だから今回の契約体重でまとまったのである。
那須川さんサイドからするとやはり58Kgは重い。
もちろんその為の半年という期間ではあるのだろうけど、彼はこの試合の後ボクシング転向を表明している。
ボクシングではおそらくスーパーバンタム55.3Kgであろうと世間では噂されている。
彼の試合を観るとわかるが明らかに55の彼と58の彼では55の彼のほうがキレ、俊敏性がある。
彼とて絞りきってない58Kgでこの一戦を迎える気はないだろうが、これから半年で筋量(しかも格闘技に必要な)だけで3Kg近く増やし「俺の適正階級は58Kg」であると言える状態にするのはほぼほぼ不可能に思う(その後のボクシング転向も考えるなら尚更)
俊敏性、キレを1ミリでもあげるならワンチャン57,5や57で仕上げてきてもおかしくない話でもある(現実的になさそうだが)
だからこそ、那須川さん含め陣営がどういう体重の仕上がりをさせてくるのか、凄く興味がある。
一方武尊さんサイドはもう削る一方である。
いかに今60Kgで持っている力を限りなく保持しながら58まで落とすのか。
そしてこの契約体重のミソである「当日戻し62Kg」
通常格闘家は、前日に計量つまり体重を計り終えた後、リカバリーといって試合をする直前まで自由に体重を戻していい。
格闘技を知らない人からすると信じられない話かもしれないが、前日まで絞りきった体に水やら食料やら自由に与えて10Kg近く戻す選手もいる。
だから60Kgの試合!といってもリング上での2人は片方が65Kgで片方は70Kgみたいなことも別に全然ある。2人とも前日計った時点は60Kgだったので試合は成立するのである。
だから武尊さんとて60Kgの試合に出ていても当日リング上ではおそらく63〜65Kg程度あったように思う(彼がどれだけ水抜きをしているか正確には分からないが)
しかし那須川さんは前述した通り、55Kgが適正体重の選手である。
これを書いている前日にあった五味戦での軽量時も62Kgでパスしているが(今回はエキシビジョンなので特例)これは彼の普段体重くらいなのだろう。
つまり那須川さんがこの半年体作りをして、普段体重を若干あげて試合前に58まで絞ったとしてもそれはまだ余裕がある状態だろうから戻す幅も当然少なくなる、おそらくたっぷり戻しても61〜62くらいではないのだろうか。
反面武尊さんが今の状態から無理やり58まで絞ったとしてもたっぷり戻されると63〜65Kg程度は見込めてしまう。
だからこその今回の当日戻し62が設けられたのだろう。この世紀の一戦において那須川さんが当日61、武尊さんは当日64みたいなことはファンとしても観たくない。
こうなると武尊さんがこの半年、どのような体作りをして前日までにどのような絞り方をするのかがキーになってくる。
今まで60Kgで戦えるように鍛え上げた筋肉量を徐々に落としながら、普段体重も落としていく。
そのことによって、前日計量の58まで持っていく体の負担も少なくなってくるし当日に戻す幅も少なく済む。
プロボクサーの赤穂さんが言っていたが、赤穂さんは水抜き2キロ弱で、当日4キロ程度戻しているらしい。
このことから推測するに武尊さんも食事、トレーニングによる減量だけで59.5-60Kg程度に落とせればこの水抜き2キロ弱、当日4キロ戻しが最高な状態で行えるのではないのか仮定できる。
武尊さんは60Kgにあげてしばらくした時点で普段体重が64〜65Kg程度と言っているし(確か2020年頃)、この世紀の一戦に向けて彼はこの半年だけでなく、今までの半年程度も体重管理を徹底していることだろう。
既に普段体重が63〜64Kg程度になっていても不思議じゃない。
さらにこの半年で普段体重を若干落としながら、前述した通り試合前の食事、トレーニングによる減量だけで59.5-60Kg程度に落とせれば彼は最高な状態でこの世紀の一戦を迎えられるのだろう。
そしてこうなってくると当日62Kgの計量を試合当日の何時にするのかが肝になってくる。
長くなってしまったが、体重の観点からいうと武尊さんの方に分があると私は思う。
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勝敗予想を語る上で避けては通れない「武尊vs村越と那須川vsロッタン」
2人のファイターとしての質の違いは既に書いた通りだが、勿論試合運びも違う。
ファイターには得意、不得意な相手が存在する。
それがこの「武尊vs村越と那須川vsロッタン」なのである。
まず「武尊vs村越」戦を簡単に振り返っていきたいと思う。
村越選手が武尊さんに対してとった戦法はざっくり言って以下の通り。
脚を止めない、ガードで固まらない、パンチ蹴りを自分から多彩に出していく、距離が近くなったらクリンチもしくは逃げるもしくは押し返す、
これは村越選手が武尊戦に対してしっかり準備してきた&村越選手が持ってるテクニック、ファイトスタイルがハマったからできたことだった。
武尊選手は村越選手にこの作戦をやられて、今までの戦いとは明らかな差があるほど戦いづらそうであった。
振り返ってみれば武尊選手が決定的なダメージを受けるような攻撃をもらったシーンは殆どなかったが、あれが那須川選手ほどのキレ、スピード、タイミングで入っていたらダウンもあり得ただろう。
試合結果は武尊選手の判定勝ちとなったが、本人も納得してない様子だし観ている側も明らかに辛勝だなという印象を持った。
武尊選手名物の無尽蔵のスタミナで前に出続け打ち続けるという戦法が3R後半にハマったのでなんとか判定勝ちとなったが、そこも上手くかわされていたら延長にいっていた可能性もあるし、どっちが勝っていてもおかしくなかったように思う。
結局のところ武尊選手名物の「圧倒的圧力とスタミナ」が成し得た勝利なのだが、これを那須川天心選手のレベルでやられた時、武尊さんのこの本領がどこまで発揮されるかは正直未知数なところである。
それでも勿論我々(特に武尊推し)はあの那須川さんですら武尊さんは捕まえてくれる、きっとその光景を魅せてくれると信じてやまない部分はある。
こうなってくると武尊さんが会見で言っていた延長無制限というのも(現実的にはなさそうだが)彼がそれを望む意味も良くわかるし、せめて本戦5R延長2Rくらいあれば那須川さんを捕らえられるんじゃないかと期待してしまう。
まぁとはいえこの村越戦からもう既に2年以上経っているので武尊さん自身もサウスポー含め対策練習は当然しているだろうし、村越戦と同じような展開になるとも言えないところはある。
こうなってくると次は天心サイドだ。
勿論陣営含めこの武尊さんが苦しんだ村越戦は参考にしてくるだろうし、おそらくこれに近い戦い方を彼のレベルでやってくるんじゃないのか?という声が今の所多いように思う。
天心選手自身も「彼は自分のやりたいことをやるタイプ、僕は相手に合わせて何でも出来るので」と公言している通り、村越戦の模倣どころかあれを更に高次元で表現することは出来るのだろうなと天心という選手の戦いを観てきた我々は思ってしまう。
そこで観るべきものが「天心vsロッタン」である。
天心選手が今まで一番苦戦した試合といっても過言ではないだろう。
そもそもロッタン選手は天心選手の55Kgより重い階級でやっていた選手で、2人は57.15という中間くらいに合わせて試合を行った。この時点で体重的にも今回と割と類似している。
またこのロッタンという選手の戦い方が基本的に自分から前に出て圧力をかけるスタイルなのでこの面でも武尊選手と似ている部分がある(前に出ながらの攻撃パターンは違うが)
試合パターンとしても村越武尊さんと似ていて終始ロッタン選手が那須川選手を追う形で試合は進んでいた。
前半1,2Rこそ、天心選手も「上手く」戦うのではなく圧力をかけてくるロッタン選手にカウンターを合わせながら手数を出していくなど、割と打ち合いにいく場面も多かったが3R以降はかなり押され逃げざる得ない、組まざるを得ない場面も多々あった(別にキックボクシングのの戦法として悪いこと、ダメなことではないんだけど)
こうなってくるとやはり那須川選手は前に前に来られるタイプを唯一得意としてないということが推測できるし、そうなった時に武尊選手相手にどれだけ「上手く」戦えるのかが当然キーになってくる。
またロッタン戦はまだ言っても那須川選手は19歳。
2022年6月時点では23歳。
この時期の4年という時間の成長率は凄まじいものがある。
だからこそ一概にロッタン戦だけを引き合いに、武尊戦を語ることは難しい話なのである。
前述した通り、武尊選手は村越選手に「上手く」戦われた上でも3R後半には捕まえることができた。
そして天心選手もロッタン選手相手に5R、延長含め6R「上手く」戦うことができた(かなり辛勝ではあったが)
結論、このような過去試合を考えた上でも私は武尊選手に軍配があがるのではないのかと思っている。
圧力、スタミナで捕まえたい武尊選手
「上手く」戦いながらポイントアウトその中でタイミングよくカウンターを当てて倒せれば倒したい天心選手
単純にこの2つでの比較だと勝負はやってみなきゃ分からないとしか言えないが、ここでこの戦いが世紀の一戦であることが関わってくる。
記憶に新しい人も多いと思うが「武尊vsレオナペタス」
この試合の後にレオナ選手が言っていた「打ち合う作戦ではなかったんですけどね。。。なんか武尊選手目の前にしたら打ち合っちゃいました」
結果的に彼は武尊選手の打ち合いの土俵にいってKO負けしたわけだが、これが今回の一戦で起こった場合、武尊選手の勝率は大きく上がってくる(勿論武尊選手KO負けの確率もあがるけど)
那須川天心選手といえど人間、先日の会見をみて感じる人も多かったと思うが、彼は明らかに浮足立っていた。明らかに「プロ競技者・那須川天心」ではなかった。
それすらも彼の意図している表現物であるならばもうお手上げだが、私の目からは本気で人間・那須川天心になっていたように思う。
この世紀の一戦、彼のそこの部分が出てきた瞬間が彼が武尊選手に捕まえられる瞬間なのではないだろうかと私は予想する。
単純なキックボクサーとしての力量だけでいえば、完成度は那須川選手の方が高いだろうが、これらの理由から私は武尊選手の勝利を(ギリギリだが)予想する。
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武尊さんの生き様
次に2選手が表現している主義主張思想信念について話していきたい。
武尊さんの主張は明確だ。
「格闘技を昔のK-1時代のようなメジャーなものにしたい」
彼の主張はこれだけである(まぁ他にも色々言っているけど要はこれ)
とにかく格闘技というジャンルの日本での地位上げ。
これに彼は全身全霊を注いで活動してきた。
何故彼がそこまで格闘技のメジャー化に心血を注いでいるのか、何故そこまでそこに情熱があるのか、もうすでに観てる側も分からないのだが1つ言えることは彼は大マジでそれを言い続けているということ。
そしてそれを言うに値する試合、仕事もやってのけてきたこと。
これこそが彼が多くの人を魅了する要因の一つに思う。
「格闘技をメジャーに、それを言っていいのはあなたとナスガワテンシンくらいなんだよなぁ」
那須川天心研究家として有名な青木真也氏は武尊さんへそう言った。
才能、環境を持った人間がその職務を全うする。
この世に生を受け自分の命を削りながら役割を全うする。
そのような武尊さんの姿勢に我々格闘技ファンはここ数年胸を打たれてきた。
「これはただの格闘技ではない、俺の生の役割の全うである」
彼からそんなメッセージを感じるファイトをみせてもらえるたびに私は自分の人生すら重ねるようになっていった。
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那須川天心が日本中に叩きつける唯一無二の表現物
あまりに強すぎた男、那須川天心
2021年が始まった時点、いやもっと言うとそれより前から那須川天心にはやることがなくなっていた。
並居る強豪を払いのけ、キックボクシング戦績40戦40勝無敗。
だからこそのボクシング転向であり、本人も公言しているが彼はキックボクシングというスポーツ競技においてもうやることがなくなってしまった。
2016年〜2017年にかけてキックボクシングというスポーツ競技において圧倒的な試合を魅せ続け、2018年にロッタンとやり、堀口恭司とやり、メイウエザーとやり、若干20歳の青年が表現できる枠をゆうにはみ出していた。
漫画の世界を現実に魅せ続けながらエンターテイメントと競技を超高次元で表現し続ける男、那須川天心はもう既に人としてあらず。
世間に対し自分「那須川天心」を概念化させ、それでもなお出来ることを模索し続ける姿はここ1〜2年、魅せられてるこちら側も正直心苦しいものがあったのは否めない。
しまいには大衆に飽きられてしまう始末。
あまりに強すぎた男の末路としては寂しすぎる。
いくら進もうとしても見えてこないストーリー。
ここ1〜2年、彼の本来の意味での対戦相手はいなかったように思う。誰と戦るにしても理由が見当たらなかった。
ただ1人をのぞいて。
那須川天心にメリットがない「那須川天心vs武尊」
それでもなおこの世紀の一戦は彼にとっても意味があるのではないのか?
私もこれを執筆する前からずっと考えていた。
なかった。
どれだけの格闘技ファンからこれを望まれても彼にこの試合をやるメリットは実はない。
彼はこの世紀の一戦においても損な役回りを引き受けているのだ。
辛すぎる。
とある関係筋から聞いた話だと那須川天心はボクシングに「キックボクシング無敗」というタスキを背負って来てくれと言われているらしい。
順当にいけばこのまま4月のRISE最終戦も勝ってキックボクシングを卒業し、ボクシングでも無敗で世界王者まで上り詰めることができたかもしれない。
「キックボクシング、ボクシングにおいて無敗で世界王者になった男」の称号を得られたかもしれない。
この上で一体彼はどこに理由を見つけて、この試合をやらなければならないのか。
「那須川天心はスーパースターでなければならない」
彼は言った。そして
「今の子供達の為にこの試合をやることを決めました」
こうも言った。
彼は彼の中で理由を見つけてきた。
「那須川天心は子供達に夢を与えるスーパースター」
これが若干23歳、那須川天心が現時点で世間に表現したい明確化された主張だった。
そしてこれは子供達だけでなく多くの格闘技ファンにとっても夢であり救いを与えてくれた。
最後の最後まで我々に救いをくれてありがとう、那須川さん。
あなたは2021年12月24日、本当にサンタクロースを超えた。
直感した那須川天心の負け
最後になるがこれだけは書いておきたい。
先日の会見、その後の両者インタビュー。
私は直感した。
「那須川天心はこの試合で負ける」
「武尊さんが絶対に勝つ」そのような言い切りは正直本心からは今は出来ない。
しかし直感した那須川天心の負け
「格闘技人生だけでなく、人生をかけて、今までの全ての想いを背負って、必ずこの試合勝ちます」
武尊さんは言った。
ここ数年、彼が背負ってきた、背負わされてきた想い。
常人には想像し得ないものがある。
それでも、それでもなお相手があの那須川天心である以上「武尊さんが絶対に勝つ」と言えない私、我々。それほど圧倒的すぎた那須川天心。
「子供達の為に、そしてやいのやいの言われる今のZ世代、ゆとり、若者を代表して世間と戦います」
こう言い切った那須川天心。
那須川さん、あなたの眼に映る景色に格闘家武尊選手は100%いますか?
武尊さんはこれまで散々団体の垣根を越える為、動いてきた。
武尊さんの中では、既に那須川天心という存在は試合をする前から戦友のような関係になっていた。
それがこの間のフェイスオフで初めて武尊さんは「ブチのめす相手」として那須川天心を見つめた。
我々が今まで見てきたファイター武尊選手の眼そのものだった。
全てを背負った武尊さんに見つめられた那須川さん、あなたは今何を見てる?
これが私が感じた「那須川天心は負ける」という直感の正体だった。
ありがとう!那須川選手!武尊選手!全ての関係者!本当にありがとう!!!
「団体は違いますけどライバル的な存在だなとずっと思ってたし、ただのライバルじゃなくて僕はこの5〜6年実現出来なかったことで、まぁ色んなこう溝が生まれた中で、やっぱ最初は存在を恨んだ時期もあったし、でもまぁ今回こう実現してやっとそう思えるんですけど、天心選手がいたから僕はここまで格闘家としてやってこれたんだなっていう、今は感謝の方が大きいかなと思ってます」
対戦相手の肩をここまで愛おしそうに感謝を込めて抱く武尊選手を我々は見たことがない。
どれほどの想いがここにあったのか、想像するだけで目頭が熱くなってしまう。
私はこの武尊さんの眼光を一生忘れない。
本当に2人ともありがとう、動いてくれた、関係してくれた皆様本当にありがとう。
2022年6月を本当に心待ちにしています。
そして本当に最後ではありますが私がこれを書くことによって対戦するその日までに1人でも多くの格闘技を知らない人にこれが届いてくれて、知ってもらえたらそれは武尊さんの主張の手助けを少しでも出来たことと同意義だと思うので、もしそれが起こってくれるならこんな嬉しいことはないです。
これはあくまで私のエゴによる表現物なのでお金を取る気はありませんし、100円がどうしても欲しいわけではないんだけど、本当に言葉通り気持ちとしてくれたらなんかすごく嬉しいです。卒論より文字数書いたし。
+++++2022年6月18日追記+++++
これを元旦に書いてから5ヶ月強が経った。
本日の前日計量。
2人とも58Kg、お疲れ様です。
武尊さんの絞り方が全てを物語っている。
那須川さんも12月24日の電撃会見の時とはうって変わって良い表情だった。
会見に関しても武尊さんはもう語ることはなくといった感じ。
ここまでのことを考えればそうなるでしょう。
那須川さんもこれまた12月24日の浮ついた会見とは違って、締まった会見をしていてとても良かった。
両者、落ち着いていてお互いに向け感謝の気持ちを述べていたが今はそれだけなのでしょう。
とはいえ明日は試合、格闘技、キックボクシング。
決まっていたテレビ放送が榊原さん反社騒動でなくなったり、この試合自体のルールに関して未だ賛否があったり、そもそもこの試合自体実現までにこれほど拗れて時間がかかったことだったり。
まさしく人間模様だなと感じた。
綺麗事だけじゃない、純白で神聖なものではない。
汚いことも、嫌なことも全部含めた最高に美しい人間ドラマ。
ただ那須川天心、武尊という2人の人間が格闘技の神に選ばれてしまったからこそ起こった大演劇の幕が明日閉じる。
明日は歴史の証人として、またとないパワーを貰いに東京ドームへ。
ここ数日は近づくにつれ楽しみな気持ちと、終わってしまう寂しい気持ちが交錯していたがそういう人も多いでしょう。
遂に明日。
遂に、明日か。
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