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「石」が好きな学生の話

 これは就活の話です。

 最近読んだ#島田 彩さんの「#今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く」に感銘を受けて、僕が過去に担当した学生の中で、好きな志望動機のエピソードを描いてみたくなりました。
 島田さんのエピソードは言葉の紡ぎ方が素晴らしく、且つ「人生の伴走者」の一つの在り方を示唆しているような、素敵な文章です。是非、ご覧になってみてください。

石が好きな学生の就活

「先生、僕の志望動機これで受かりますかね?」

良く聞かれますが、受かるか受からないかなんて分かるわけがありません。「さぁ、どうだろう。」

読んでみる。その企業のことが良く書かれていました。
「自信ありげだけど、その自信はどこからきてるんだ?」

「だって僕、石が好きなんです。」
「お、おお。そか。」

 その企業は、鉱石を金属やセメント、エネルギーに変換する会社で、その分野では有名な企業でした。

「で、どうですか?通りそうですか?だって僕、石を好きになってこんなに長いんですよ?それでダメっておかしいじゃないですか。それは会社の見る目がありません。」

最初に書いてきた、志望動機の内容

 彼の志望動機には、その企業のすごいところ、いかに世の中に対し良い影響を与えているかが鮮明に描かれており、熱量は読んですぐに感じることができました。300文字中、299文字。字数も完璧。結論から先に書く。完璧。

まとめると、
「あなたたちのやっていることがすごいから、僕もそこに入れて欲しい。」

という旨の動機でした。なんか足りないなぁーと。僕に話してくる熱量と、文章の熱量が、噛み合っていない

「とにかく石が好き」「本当に、ただ好きなのだ」

 彼は小さい頃から、お父さんと川辺に行き、面白い石を探して拾って、持ち帰ってきていたという。

 恐竜の顔のような形をした石。真っ黒な石。一部だけ透明な石。

 そんな時、近所の博物館で鉱石のイベントがあった。そこには、彼が心躍らせる石たちが並んでいた。驚きだったのは、その石たちの使い道だったという。彼は思った。

「石、最強やんけ。」←関西出身でした

 建物にも使われ、プラスチックにも使われ、燃料などのエネルギーにも使われ、アクセサリーにも使われて、これ最強だわ、間違いない。

 小学校3年生くらいの出来事なので、彼の記憶の中で最も古い石の記憶。彼のアイデンティティーでした。

 スマホを得た彼は水を得た魚のようにググりまくり、調べに調べ、集めに集め、完全な石オタクとなっていました。ちょっとだけスマホの画面を見せてもらい聞かせてもらいましたが、20秒でストップさせました。(長引くから)これはエグい。笑

僕は言いました。
「なぜこの熱量を文章で伝えないんだ。」

彼は分かっていたのでした。それだけでは仕事にならないと。
「だって、社会に出るから、社会と僕が適合しないといけないですよね?そこをつなげる文章で行くしかないと思って。」

理論で動機を整理する

モチベーション-2

 上の図は、心理学における「自己決定理論」の一部である、「自律性を促す際に留意すべき動機付け」のピラミッドです。ここでは、内発的動機があれば、非常に高いモチベーションが生まれ、下に行くほどモチベーションは上がらない、と言った事象を可視化したものです。

 志望動機として企業に伝えるには、どうしても外的要因の要素がないと伝わらない部分があります。ここでいう外発的動機ですね。特に統合的・同一化的の部分です「ただどうしようもなく好きなんです」という、内発的動機だけではダメだと。

 例えば「自分の実現したいことと重なるから」「今後〇〇をやりたいと思っていまして、それができるのが御社なんです」「私はこういうことができるので、御社の目指す方向と一緒なんです」と言った要素です。

彼のすごいところ

 しかしここで感じたことがあります。そう、一般的に多いのは「外発的動機」の方なんです。上の図の通り、いくつもフェーズがあるのです。

裏を返すと、内発的動機を持ち、そしてそれを就活で言語化できているケースは決して多くはありません。少なくとも、300件以上カウンセリングをやってきた中では、そうでした。

 就職して働かなければならない・稼がなければならないというトリガーによって就活を始める学生が未だに大多数を占めている中、純粋に好きなもので人生を拓こうとしている学生は多くありません。大人もそうかもしれないですね。

 彼は、圧倒的な内発的動機を持っているにも関わらず、それを書かず、外発的動機を整理し、それを高い精度で言語化し、持ってきていました。

 だから彼は自信があったのです。今まで自分の中で見えていなかった、「石を仕事にする理由」を改めて言語化することに成功したのだから。

 僕が物足りなさを感じていた理由もはっきりしました。そこの志望動機に、彼の圧倒的な内発的動機が一言も書かれていなかったからでした。

彼は内定を取る

 彼は内定を取ります。彼らしい手段で。

 面接まで進んだ彼は、意外にもあがり症で、思うように離せないのが悩みでした。いやいや、僕に対してはめっちゃ饒舌に話してますけど。

「先生、面接に、石、持ってったらダメですかね?」

「運べるの?」

「はい。」

「GO。」

 もうこの際、やれることは全部やろうということで背中を押しました。そして、多分受かると思っていました。この文章の冒頭では、受かるかどうかなんて分からないと言いましたが、こんな面白いやつ、取らない訳が無い。

後日、挨拶に来てくれた時の彼の顔は忘れられません。安堵と興奮が混じっていました。


聞いたところ、結局石を取り出して披露することはなかったという。ただ、分からなくなったら石を出せば良いという手段があったので、安心して話せたとのこと。


そして、その石。


30kgもあったとのこと。帰ったら右肩が痛く、血が出ていて、バッグの取っ手も破損していたらしい。こいつアホだ。それは「運べる」とは言えない。笑

そして改めて彼の志望動機を見せてもらったら、最後の38文字が修正されていました。


以上の理由から、私は御社で活躍できると確信しています。よろしくお願いします。

私は石が好きで、24時間見て、触っていられます。小学3年の頃からずっとです。

感想

僕にとっての、石はなんなのか。改めて考えるきっかけにもなりました。
そして、誰かの良いところについて描くnoteは、想像以上に楽しかったです
楽しい時間をくれた石好きの学生と、これを描くきっかけをくれた島田さんに、改めて感謝申し上げます。

では。

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